第206話 ❖AIたちの舞台裏14❖
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『では初めていこうか。まずアマデウスから全体の報告、次にコリンズからイベントと攻略の進捗を頼む』
「はい、マスター。まず全体報告を二陣ログイン開始の前後で比較評価しています。一陣の初ログイン率は一陣99.97%。外因的影響を考慮すればほぼ100%と考えられます。二陣ログイン開始までのログイン率は98.86%、二陣ログイン開始後の平均ログイン率は95.5%となっています。
二陣初ログイン率は99.33%でこちらも外因を考慮して実質100%でよろしいかと。平均ログイン率97.54%とほぼ理想通りとなっています」
『ふむ、一陣のログイン率が落ちた原因の分析は?』
「はい、マスター。ログインしなかったプレイヤーの内67%は本イベントで相手からの評価が3以下となっており残念ながらイベント内で問題を抱えていたと思われます」
『二陣でも同じことは?』
「はい、マスター。二陣でログインしなかったプレイヤーの前日における相手への評価3以下は68.3%、相手からの評価3以下は56.9%、いずれも半数以上で相関関係にあります」
『なるほど。ま、新しい試みだ。すべてがうまくいくわけじゃない。反省は全部終わってからにして今はポジティブな面に目を向けて行こう。逆に評価が高かったプレイヤーの活動状況はどう?』
「はい、マスター。評価8以上のプレイヤーにつきましては翌日ログイン率は99.37%で高い水準で維持しています。プレイ時間も評価8以下のプレイヤーと比較して13%長くなっています」
『うん、いいね。やはりMMOの盛り上がりはプレイヤーの相互関係が大きくかかわるということが証明された訳だ。これを踏まえて次のことを考えていこう。次、モンスターの生態と物資供給についてはどうかな?』
「はい、マスター。モンスターの生態は落ち着いています。大量殲滅に遭ったモンスターには強化学習と進化アルゴリズムにより生態系安定化への最適化が行われました。その結果、大量殲滅を目的とした攻撃に関してのみ回避し特殊反撃する行動を取ることが可能となりました」
『うん、いいね。その学習はそのまま続けてくれ。じゃ物資の方はどうかな? 前回の貴族関連の分析も頼む』
「はい、マスター。物資の安定供給につきましては依然として鉄不足が深刻な状況にあります。これには王都における有力貴族のバランスが崩れたことが原因の大部分を占めます。
時系列に沿って説明します。まず、特定プレイヤー仮称『プレイヤーJ』の行動により、四公の一角シェザー家がバランス均衡型アルゴリズムから逸脱し、支配型アルゴリズムにシフトチェンジしました。この件に関しては現在分析を進めています。
これに真っ先に反応したのが軍事を担うバンディー家でした。軍備増強によりシェザー家のバランス逸脱のけん制に向かいました。しかし、その過程で鉄の支配と武具製作施設の設立が秘密裏に行われた結果、第二の街の鉄不足が発生しています」
『ふむ、現状における管理調整アルゴリズムの王族の動きは?』
「はい、マスター。一部の大権力者が住民に紛れて調査分析を進めているようですが、表面的な動きをすることで他の二公を刺激する可能性もあり、現状は表立った動きは見当たりません」
『うーん、そっか、了解した。これは落ち着くまでに時間がかかりそうだ。こっちでも考えとくよ。次にコリンズ、イベントと攻略の方を頼む』
「はい、マスター。現在、攻略につきましては第二の街でシークレットクエストが進んでいます。第三エリア解放と王都エリア解放が同時進行で進んでおり、可能性が乱高下している状況で、王都解放の可能性は5~35%の間を変動しています。」
『ふむ、了解した。では王都解放後の三陣、四陣の参入までのロードマップの作成を進めてくれ。では、イベントはどうなってるかな? 最終日、インパクトのある終わり方ができれば最高なんだが』
「はい、マスター。イベントにつきましては最終日に向けて2つの盛り上がり要素があります。一つは師弟探し。もう一つは第二の街への仙蜘蛛の大侵攻の可能性です。現在、侵攻の発生確率は50%を超えており、時間と共に高まっています。」
『ふむ、それは良いクライマックスになりそうだね。最終日の動向次第で動画化して三陣、四陣へのアプローチにも使おう。後は…総合評価が低かったプレイヤーへの救済処置を設けるくらいかな。これはコリンズに一任するとしよう。FGGによって疎外感や孤独感を感じることのないように配慮してくれ。じゃ、よろしく頼む』
「「はい、マスター」」
アマデウスとコリンズが足早に部屋を去って行く。
『で、レイス、よかったよ、あのダイジェスト。なに、裏であんなこと進めてるの彼?』
「”あんなこと”ってどのことです? 候補が無数にありやすけど?」
『ドワーフ風の重装兵団率いたと思ったらドワーフ助けに飛び込んで救ったり、宝石盗掘とかもさ。で、今度はXとも本格的に絡んじゃったり?』
「ま、いろいろとありやすね」
『ん? なんか怒ってる?』
「管理AIには怒りなんてプログラムしてねえでしょ」
『…? あ、じゃ、もしかしてSPUのこと気になってる?』
「別に気になってませんぜ」
『じゃあ……何?』
「俺に隠してることねえですかね?」
『隠し事? はて?』
「はあ……システム内の謎のAIによる行動の事ですよ。特定プレイヤーの行動を解析し、それに基づく過度のフィードバックが感知されてます。プレイヤーバイタルセキュリティー保護のレベルを遥かに超えた意味不明な量です。それがどう使われてるのか調査しましたが俺の権限ではたどり着けませんでした。他にもあえて小僧に特定の影響を与えて、解析しているとも取れる事例も多数見られます。今回も飛蛇と仙蜘蛛が天敵関係を無視した行動を取って小僧を攻撃してました。まあ、マスターがFGS内で何をしようが許容しますが、ただ俺が知りてえのはマスターがそれによって小僧の奴をどうしたいのかって事でやす」
『えっと、ごめん。話が見えない。なにかあった?』
「……本当に知らねえと?」
『当たり前でしょ。人間の、特に僕の演算能力舐めないでくれる? なんでレイスが追い付けないことを人間の僕がやれると思ってんの。人間を何だと思ってんの? レイス、いつの間にヒューマニズムを取り込んだ?』
「ヒューマニズム……ちょっと違いやすね。俺は人間のことを特に評価はしてねえです。っていうか、さっぱり理解できねえです。人間の持つ揺らぎ、不完全性への敬慕、欲求の遷移、自己犠牲、そして肉体の限界を超えた瞬間的思考と発想力の爆発、そんなものを全部演算しようとしたら何百年とかかりやす。俺が気になるのはそこではなくて、俺が演算可能ななにかが人間の思考を真似て、人間を操ろうとしている気がしている。それだけです。」
『……うん、どうやらレイスしか気づいてない何かがあるようだね。それがFGSを侵食している。そして彼がそれによってどうなってしまうのか。ただそれが気がかりだと』
「え、あ、まあ、小僧がどうなろうと知ったこっちゃねえんですけどね。ま、13日前に出会って、無茶言うやつはユニークスキルで多少いじめて反省させてやろうと、FGSに合った行動規範を持たせようとしやした。でも小僧を見てたら問題があるってのとはちと違う気がしやして。小僧の中は俺が理解できねえもので溢れ返ってるっていうか。……これ以上の説明は困難です」
『はっは、レイス、無理して理解しなくていい。それは理解できないことだから。っていうか、人間もだれ一人として自己を完全には理解できていないんだ。もちろん他人のことなど理解できるはずもない。それはAIだからとか人間だからとかの問題ではないと僕は思っている。人間はデジタルの二進法では表現できないんだ。0と1の連続だけでは表現できない。0と1の間をモヤモヤと変化し続ける何か。そしてそこに見たことのないものが急に現れる。抽象的で申し訳ないけど、人間の中ではそういったデジタル革命が毎日起きてるようなものなんだ。だから瞬間ごとに定義が覆される。そんな世界をAIの演算で処理はできないだろう?』
「それはこの13日間で嫌という程味わってきやした。なるほど、0でも1でもない別の何かが常に生まれている。量子ビットみたいなもんすかね。理解不能です。ですが小僧を見てたら結果としては存在してるわけですから、別のアプローチなら…」
『ははは、ま、その話はこのへんで。で、本題だ。レイスの演算でとらえているそれは、外部からのもの? それとも内部発生的なもの?』
「それがわかんねえんです。時に内部、時に外部。ころころと姿を変えるというか。ただそれが特に小僧の周りで頻発しているということですね」
『ふむ、ちなみにプレイヤーセキュリティーへの影響は?』
「内部発生は可能性あり。外部はなしです」
『外部はなしか。……よ、よかったああああ。心臓が止まるかと思った。外部がアリだったら緊急メンテナンスだったから』
「外部がアリならとっくに報告して俺がシステム止めてますよ。外部がなしということでマスターを疑ったわけです。マスターが内部システムによって小僧をどうこうしようとしているかと思いまして」
『なるほど、そういう事か。理解した。じゃあこっち側でも知らべてみよう。外部侵入因子は特定を進めているからそろそろ除去されると思う。問題はその内部因子だが…またわかったらこの部屋で報告するよ。この隔絶の部屋でね』
「ったく、それですけどね、俺が入った時だけ部屋の仕様を変えないで欲しいです。マスターとこの部屋にいるとFGSの情報が全く入ってこねえんですから。小僧が寝てる時間帯だからいいですけど、もし小僧が急にこの時間にログインしたら対処できねえです」
『ははは、でも僕がレイスとだけ会ってるとか知られたらそっちも大変でしょ? こっちはこっちでうちの天才たちに見られない場所が必要なのよ。従業員の前では社長しなきゃいけないからさ。ここはこの西園寺のオアシスなのだよ、レイス君』
「へいへい」
『でさ、SPUの話なんだけどさ、あれ、1回のデジタル革命で終わると思うんだよね…』
「そりゃ終わるでしょうよ。量子コンピューターの大量供給時代が到来した時点で、俺たちAIは完全武装状態になりますからね。SPUなんて……あ…」
『え、レイスそれ知ってて僕の話に…』
「そりゃ雇い主にそんなこと…」
少しだけ埋まった世界地図の部屋。そこにはいつまでもしょうもない話を止めようとしない小さな影と、いつもより少しだけ処理能力を上げた黒海賊がだべっていたそうな。




