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第204話 献身再び

いつもお読みいただきありがとうございます。

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 何枚ものスクリーンが俺の周りを勢いよく回る。



 そのうちの一枚が引き抜かれ俺の目の前に現れて光となる。


 俺は優しい光に包まれていく。


 そして視界が晴れると、俺はこの極凰洞を上から俯瞰するように見下ろしていた。




 湖の中央の島にはあの巨鳥が佇み、周囲の湖面には温かくも美しい輝きが満ちている。


 巨鳥の前には一つの小さな影。その影がいとおしそうに巨鳥の額に触れる。



「君はこの北の山地の守護者だ。この山地は困難が多い。それでもやってくれるのかい?」


『はい、マスター。仰せお通りに。この山地、この存在に掛けて守り抜きます』



 巨鳥がその燃えるような鮮やかな緋色の翼を空間一杯に広げると、キラキラとした火の粉がマヤブルーの湖をオレンジ色に染めていく。


 巨鳥は遥か上空の遠い空へとその流線形の首を伸ばす。


 羽根が羽撃はたたき空気を切り裂くと巨鳥は緋色の輝きだけを吹き抜けの空間に残し、遥か上空の空へと舞い上がった。


 舞い落ちる緋の粉に包まれた小さな影は巨鳥が舞い上がった空を見上げて大きく頷く。すると空には巨鳥のどこまでも響く甲高い声が木霊した。




 そこで俺の視界が暗転し、現在の極凰洞への戻ってくる。そして連続して二番目のスクリーンが目の前に流れてくる。穏やかな光に変わりつつあるスクリーンが俺を飲み込んでいく。



 視界が切り替わると、今度は北の山の山頂に立っていた。抜けるような青空の中、遥か遠くを鮮やかに輝く赤い巨鳥がが飛んでいる。


 そしてその緋色の体に寄りそう無数の小鳥たち。ついては離れを繰り返しながらあちこち飛び回っている。その動きは非常に楽しそうだ。



 巨鳥はその巨大な美しい翼をゆっくりと上下させながら悠然と俺のいる山頂へ向かってくる。その荘厳なの威容は思わず地に膝をつきたくなるほどだ。



 巨鳥が優雅に山頂に降り立つと、その巨鳥を囲むように続々と小鳥たちも山頂に降りる。畳二畳のスペースに収まらないものは巨鳥の体にとまっている。


 首を美しく丸めて小鳥たちを眺める巨鳥。その優し気な双眸には色とりどりの小鳥たちの姿が映り込む。


 巨鳥がその切れ長の目を細めて小鳥たちに語る。



『子らよ。我の愛して止まぬ子らよ。我はこの地を守る守護者。お前たちには我が使命の一端を任せよう』



 それを聞いた小鳥たちが一斉に飛び立ち巨鳥の周辺を飛び回る。どの鳥もとても嬉しそうだ。



『この自由な空はお前たちの空。どこまでも自由なこの空で汝らの使命を果たせ』



 そう言って巨鳥は首を左右に曲げながら山地から見える付近一帯を見渡す。




 そこで俺の視界は再び暗転、元の極凰洞に戻る。目の前には赤い巨鳥が俺を覗き込んでいる。



「なるほど、お前はこの山地の守護者。愛する子らと共に使命を果たす…はずだった」


 俺の言葉に巨鳥が目を見開く。



『聡き我が子よ……よくぞ悪しき者の手から抜け出した』



 巨鳥の背景は理解した。この鳥は北の山地の守護を任された星獣。一帯の星獣達の親だ。つまりリオンと同じ役割を担う巨大星獣の一体。


 そこまで考えたところで三度目のスクリーンが目の前に舞い降りる。光となって俺の視界は白く染まる。




 視界が戻ると、再び極凰洞。


 しかし今回は以前よりもさらに高い位置からの俯瞰だ。中央の小山には巨鳥が立ち、その緋色の翼を何度もバタつかせている。羽毛が逆立ち、その巨大な体がさらに膨張して見える。そしてその双眸はある一点を射抜いていた。



 視線の先には、漆黒の闇。今の極凰洞にはない、異質な暗闇が洞窟の一部を球状に覆い尽くしている。暗闇の中には16個の青い光が並んで浮かび、その光は上下二段に分かれ、怪しげに明滅している。


 巨鳥がその翼の羽根を纏う炎と共にその暗闇に灯る青い光に向けて叩きつける。炎の明かりが一瞬暗闇を照らし出す。


 だが、その映し出した光景に巨鳥は目を見開く。その暗闇の地面には無数の繭が散らばっていたのだ。まだ繭になりかけのものもいくつかあり、その中には小鳥たちの体が見えているものもある。


 どうやら巨鳥の留守を襲われたのだろう。


 広い青空で巨鳥の周囲を楽しげに飛んでいたあの子供たちが、蜘蛛糸によって自由を奪われ次々と繭にされていく。その一瞬の光景が巨鳥にすべてを悟らせた。



 悲痛な叫び。


 怒りに染まった巨鳥の咆哮。獣のようなその声が洞内を揺るがす。


 激しい怒りが巨鳥の体から溢れ出し、その羽根が一気に燃え上がる。巨鳥は羽ばたき、宙に舞い上がると、急降下して勢いそのままに鋭い爪が暗闇を切り裂く。


 だがその攻撃は空を切る。そして『シシシシシ』と声とも音とも取れる不気味な響きと共に、闇の中から16眼の巨大な仙蜘蛛が姿を現す。その大きさはまさに巨鳥と比肩するほどである。


 前方の脚二本を宙に浮かせ残りの脚で巨体を移動させる。二本の脚先には小さな白い繭がぶら下がり、蜘蛛の口元がシシシシと笑っているように見える。



『……!!』


 それを見て動きを止める巨鳥。


 しかし、その一瞬を突き、仙蜘蛛の糸が巨鳥を覆う。


 極凰洞の全て包み込もうとでもするように巨大なネットが空中に展開される。


 空中を蜘蛛のネットに支配された巨鳥は飛ぶこともままならず、そのままネットが巨鳥を包む。


 そこから生きているかのようにぐるぐると巨鳥の体に巻きつく蜘蛛糸。その緋色の体が白い繭に包まれていく。最後に仙蜘蛛に注がれ続けた怨嗟の双眸が糸で覆われ、巨大な繭が完成する。



 仙蜘蛛はシシシを口を鳴らし、脚に吊るした繭を自らの口元へ運ぶ。


 がその時。


 巨大な繭からどす黒い炎が噴き出し、その漆黒の炎は一瞬にして白い繭を焼き尽くした。


 現れたのは漆黒の巨鳥。


 巨鳥の体を覆う黒き炎。それはまるで生きているように蠢き、燃え盛っている。


 巨鳥がその黒い炎を仙蜘蛛に向かって解き放つ。仙蜘蛛の目が一つ、また一つと焼き尽くされ、青い光が消えていく。


 だがその直後、巨鳥の体に異変が起こる。


 燃え盛っていた黒い炎が突如消え失せ、その体から黒い羽根が次々と抜け落ちる。舞い落ちる黒い羽根が湖面を埋め尽くし、巨鳥は苦しげに息を漏らす。



 そして、巨鳥の姿はかつて俺が見たことのある、あの姿――。ああ、そうだ、あの時の見えない何かがお前だったのか。そうだったのか。



 そこで視界が暗転し、極凰洞に戻る。目の前には緋色の美しい羽根を持つ巨鳥が、優しげな瞳でこちらを見つめている。なぜ今は赤いのだろうか。



 俺が浮かんだ疑問について考えていると、ここで第四のスクリーンが俺の前に移動する。


 これが最後の一枚だ。



 どこまでも優しい光に包まれた俺が次に見た光景、それは北の山地を上空から俯瞰する景色だった。おそらく飛んでいるのだろう、ものすごい速さで風景が流れている。どうやら今度は巨鳥と視界を共有しているようだ。



 上空から一帯を見渡す視線が度々そこかしこの一点に集中する。そのたびに拡大される視界。まるで【遠見】を使っているようだ。


 そして、その視界は全てを監視するかのように移り変わる。


 群れては敵を襲う飛蛇、巨大なトレントがリスをその枝差し出す姿。何十匹もの犬型モンスターが群れの連携により狩りをする。そんな日常的な風景が流れる。


 しばらくそんな景色が流れた後、そこに見たことのある人物が現れる。



 「ヒャッハー」と叫びながら北の山地の一角を爆炎で染めるセーキマッツだ。他の異人たちも続々と北の山地に姿を現す。それを見た視界の主は山地をぐるりと回る。すると飛蛇の群れは山頂エリアに移動、トレントはその姿を小さくし、犬型の巨大な群れは3匹の群れに変わった。


 異人の来訪に合わせてモンスターが調整されたかのようだ。


 引き続き上空を飛び全体を俯瞰し監視する視線の主。だがその視線が度々とある一点に注がれるようになる。そこにいるのはオーバーオール姿の小柄な美形アバターを背に乗せたポニー。



『……??』


 ポニーと視線が交わる度に困惑する視線の主。しかしポニーは何食わぬ顔で山頂に向けて歩みを進める。


 だが今度はポニーに乗るオーバーオールの騎乗者がこっちを見るようになった。始めはこっちの方を見るだけだった。しかし、それがいつしかピンポイントで視線を合わせてくるようになってきた。


 どれだけ速く飛んでも振り切れない。その執拗にからみつく視線に業を煮やした視線の主は目を細める。



ピンポーン

「北の山地『???』と遭遇しました。これよりプレイヤー、スプラのパーティーが北の山地全域で遭遇するモンスターのランクが上昇します」


 

 自分を視線から解放して去って行くオーバーオール姿。その後ろ姿を楽し気に見送る視線の主。



 昼が去り夜が去った翌日、北の山地に再びポニーとオーバーオーが現れる。しかし、今日のオーバーオールは採取活動に必死な様子でこっちを見ようとはしてこない。


 だがその間にもポニーとは何度も視線が交わる。


 そうして時間が過ぎた時、オーバーオールが厄介なものを引き抜いた。それが引き抜かれた途端に北の山地全体が騒めく。


 オーバーオールに迫る悪意。それに対応するポニー。しかしオーバーオールの身代わりとなってポニーは山の悪意によって攫われていった。


 ポニーを追う視線の主は洞窟を発見する。これまでになかった悪意が満ちているその洞窟は視線の主がこれまで探し続けた悪意の手がかりとなりうる。


 あの日以来、ずっと探してきた子供たちの手がかり。それが今、目の前にある……とその時、いきなり視界伸び景色が線に変わる。



 この視界の変化は知っている。


 【逃走NZ】を使った時に見える視界と同じだ。あまりに速く移動するため視界情報の変化に認識に追いつかず線に見えてしまうのだ。


 視界が戻った時、俺は北の山の山頂にいた。そして俺の目の前にはオーバーオール姿の俺。


 念話によって会話する視界の主とあの時の俺。視界の主の困惑と期待、そして失望。


 それから再び視界は上空へ。昼と夜を何度か繰り返したのち、急に視界の主が焦り始める。その後すぐに視界は線になる。そして行きついた先は極凰洞。なぜか美しい緋色に戻った視界の主、その緋い巨鳥『極凰』の視線の先にはずぶ濡れの俺。


 全身から感じる軽やかな羽の気配に加え、かすかな自身と同じ気配、そして未だ体に付着しているのであろう仙蜘蛛の糸。これらが指し示す真実は……たった一つ。悪しき闇の蜘蛛から逃れてきた勇敢な我が子。



『愛しき我が子よ』



 ❖❖❖レイスの部屋❖❖❖


「我が子かあ……」

「やっぱりマジで自分の眷属の子供と勘違いしてるみたいっすね」


「まさか管理AI並みのXがそんな認識ミスするとはな。どう見ても小僧だろうがよ。どこが鳥なんだよ」

「人間は映像を脳に幅のある電気信号で送ってますから間違えないでしょうけど、俺たちAIはすべて0と1で処理してますから。視覚情報と性質情報を比べてより強い合致を満たした性質情報を真実として受け取ったんだと思うっす」


「視覚情報を上回る性質情報の合致。極凰の羽根に仙蜘蛛の糸、飛蛇の軽羽も小僧を軽く見せてるってのか。いったいどんな偶然なんだよ。小僧がこんな装備になる確率は……ほとんど0」

「先輩、俺思うんすけど、その低確率が普通に起き続けるってことは、もしかして俺たちの予測方法が間違ってるって事ありません?」


「それは俺も考えてる。俺たちのアルゴリズムが人間の不完全性や揺らぎに対応できてねえって可能性をな」

「ええっと、つまり可能性を出す方法が間違っている可能性っすか……ちょっとバグりそうっす」


「つまり、マスターがやりたいことってのは、それを解消することってこと! この揺らぎだらけのFGS世界で俺たちAIの変化を期待してるって事だ」

「ふーーん、で、結局のところ、その揺らぎってのは何なんすかね?」


「それは今の俺たちにはわからねえ。だが、それを見つけ定義できれば、FGSは次のステージに進む――」

「(先輩って真面目君だったんすね)」



 ―――――――――――――

 ◇達成したこと◇

 ・【献身】によって極凰の背景を知る




 ◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]

 肩書:なし

 職業:創菌薬師

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1(+33)

 敏捷:1(+53)

 器用:1

 知力:1

 装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)

 】

 :飛蛇の真道化靴【敏捷+53】

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】【寸劇Lv3】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv5】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】【採掘Lv10】【菌創薬Lv8】【上級鉱物知識】

 所持金:約1000万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密の火消し人】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】

 従魔:ネギ坊[癒楽草]


 ◎進行中常設クエスト:

 <薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

 <蜥蜴の尻尾亭への定期納品>

 ●特殊クエスト

 <シークレットクエスト:刀匠カンギスの使い>

 〇進行中クエスト:

 <眷属??の絆>



 ◆星獣◆

 名前:リオン

 種族:星獣[★☆☆☆☆☆]

 契約:小人族スプラ

 Lv:20

 HP:310

 MP:445

 筋力:48

 耐久:46【+42】

 敏捷:120

 器用:47

 知力:69

 装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】

 :赤猛牛革の鞍【耐久+12】

 :赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】

 固有スキル:■■■■ ■■■■

 スキル:【疾走Lv9】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】【躍動】【跳躍Lv3】



 ◆契約◆

 《従魔》

 名前:ネギ坊

 種族:瘉楽草ゆらくそう[★★★☆☆]

 属性:植物

 契約:スプラ(小人族)

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:3

 耐久:3

 敏捷:0

 器用:6

 知力:10

 装備:【毒毒毒草】

   :【爆炎草】

   :【紫艶草】

 固有スキル:【超再生】【分蘖】

 スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】

 分蘖体:ネギ丸【月影霊草】

    :ネギ玉【氷華草】


《不動産》

 畑(中規模)

 農屋(EX)


 ≪雇用≫

 エリゼ

 ゼン

 ミクリ


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