第197話 朝のすれ違い
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土竜鮫の殲滅作戦を見事に失敗…じゃなくて、次の成功への第一歩を踏み出した俺は今回の戦果である【土竜爪】1本を片手に始まりの街に戻った。
そして、そのままの足で一角亭へと移動する。
イベント3日目の相手と会うためだ。
土竜鮫の予想外のアップデートの為に散々追いかけ回され、そのせいで今日会う予定の弟子プレイヤーとの待ち合わせ時間ギリギリとなってしまった。
今日の待ち合わせ場所は一角亭前。料理人志望の相手を希望しておいた。理由は、マーサさんがいつも忙しそうだからなにか手伝えたらいいなと思ったからだ。と言っても、手伝うのは俺ではなく二陣の弟子プレイヤーなのだが。
これまでマジョリカさん、マークスさんと弟子を紹介してきて分かったのは、彼らから受ける指導や教えは二陣プレイヤーたちの可能性を凄まじいほどに広げるだろうと言う事。
タラコは最後まで続けていたらおそらく【下処理】【火加減】【匙加減】あたりに手が届いていただろうし、なにより【中級薬草知識】は確実に習得していた。
セメントモリに至っては【中級鍛冶師】が解放されるにまでになった。ログイン4日目で中級職なのだ。しかもその先の可能性も大いに広がっているはず。
なので、今回の二陣プレイヤーも頑張ってマーサさんに師事すればきっとFGSでの可能性がうんと広がるはず。
そんなことを思いながら一角亭に到着すると、そこには人族の超絶イケメンアバターがさわやかな空気を纏って立っていた。
「あの、フィルザフさんでしょうか?」
「ああ、あなたがあのピエロさん…なんですね。どうぞよろしく」
俺が声をかけるとそのライトグリーンの瞳に笑みを浮かべるフィルザフ。俺を見て一瞬言葉が止まったが、再び笑みを浮かべて右手を差し出してきた。
「こちらこそよろしくお願いします」
フィルザフの右手を取り硬く握手を交わす。
「じゃ、ここではなんですので取り合えず入りましょうか?」
俺がフィルザフを連れて一角亭に入ろうとすると、見慣れた猫プレイヤーが店から出て来た。
「あ、ミーナ。おはよう」
「……おはよ」
俺を見て一瞬固まったミーナだが、ボソッと小さ声で挨拶を返す。
この感じはいつものミーナではない。やっぱり【グルメ】スキルをまだ引きずっているのか…。
しかしまあ、あのスキル効果は流石に酷いよな。凹むのも仕方ない。もちろん、俺のツケ払いにした一角亭での高級料理のヤケ食いも別に責めるつもりもない。ただ、今はなんて声をかけてやったらいいのかがわからない。
「ミーナは今日はどうするの? 一緒に行く? 俺、次の街に用事があるから行くんだけど」
「……そっか、それ聞いちゃうんだ」
ミーナが俺と視線を合わせようとしない。この気まずいことこの上ない。だが、ここは弟子の手前もあるし、何とかしないと。
「あ、ミーナ、こっちが今日の俺の弟子になるフィルザフさん。今日は一角亭でマーサさんに料理を教えてもらおうかと思ってさ」
「…へえ」
視線は俺の左の空間をウロウロ。口元は固い。うーん、これは重症かもな。
「なあミーナ、今日はもう休んだら? 休息も必要だと思うぞ」
「……『俺がそばにいてやるから』」
「え?」
それはミーナがウェイブだった時に俺が言った言葉…だよな。
「もういい……。もう、こんなグルメ縛りの大飯食らいは放っておいて、お優しい聖女様とどこか行ってきなよ。喜ぶわよ、彼女。そういうの大好物だから」
うなだれながら急に声を荒げるミーナ。情緒がヤバい。
「いや、なんで俺がジャンヌと一緒に行かないといけないんだよ」
「ジャンヌ……仲良くなったんだねえ。そっかそっか、よかったじゃん。これでわたしも自由になれるって訳だ」
は? 自由? なんだそれ……。
『だってさ、担任がお前の事を面倒見ろっていうからさあ。だから一緒にいてやったんだけなんだって。もう別クラスなんだから、これ以上俺らの自由を奪おうとすんなよ』
…く、こんな時に高校時代の嫌な思い出が。
「あ、わたしはただこの人ってなんか一人にしたらまずいかなって。それでパーティー組んでただけだから。従魔もかわいいし、ま、いっかって。だから聖女が代わってくれるならそれに越したことないのよね」
「は?」
「さてと、これで自由になれたし、うまいもんでも食ってくるかな」
『しゃー、別クラス。これで自由だー!』
……くそ、フラッシュバックが止まらねえ。クソ野郎、出てくんじゃねえ。
「じゃあね、これからはお互い自由といきましょう!」
……ミーナこいつ、マジか。
「……ざけんなよ、お前も、偽友人らと同じだったのかよ」
「じゃあね、聖女と仲良くやるのよ。バイバイ」
「おま…」
「あの、ちょっと、よろしいですか?」
俺が我を忘れそうになった時、イケメンのフィルザフが俺とミーナの間に割って入る。
「……だれ?」
ミーナが冷めた口調で振り返る。
「わたくし、フィルザフと申します。第二陣としてFGSに参加しております」
「……で、何?」
「あ、いえ、用事という程の事でもないのですが、あなた様は……猫姫様ですよね?」
「……それが?」
「知人から聞いたのですが、猫姫様は目の前からパッと姿を消すほどに速く動けるとか」
「……だったらなに? 文句でもある? あなたにご迷惑おかけした記憶はございませんけど?」
「おおお、やはりそうなのですね。そうですか、それは素晴らしい」
「……素晴らしいって……あのね、何も知らないくせに勝手なこと言わないでくれる?」
「はい、おっしゃる通りです。わたしはあなたのことはなにも存じ上げておりません。ですが、想像ならできる。猫姫様、あなたの特殊能力、それなりのペナルティもあるのでは?」
「…?!」
フィルザフの言葉にミーナの眉間にしわが寄る。
「キャラ作成の時に、担当のコリンズ氏から聞いたんです。『無理なことを求めれば無理なことを強いられる』と。あなたはその素晴らしい力を望んだためにその代償も払っている。違いますか? あ、これ全部わたしの勝手な想像ですので、見当違いでしたらただの痛い奴と思ってくださって結構です」
「……」
「でも、誤解しないでくださいね。わたしはそのことについてあれこれ言うつもりもありませんし、実のところ言える立場でもないので。でも、もしわたしの想像があなたの現状に少しだけでも触れることができたのなら…ただ、一言、一言だけ聞いてほしい」
フィルザフがその長身の大きな歩幅で一歩ミーナに近づく。
「そんなあなたはこのフィルザフにとって、なくてはならない存在だ」
「えっ?」
「はい?」
俺とミーナが同時に反応する。
「あ、こんなことを言うと怪しまれるかもしれないですが、実はわたしもいろいろとありまして…」
「わかった! 黒海賊!」
急にテンションが上がったミーナ。好奇心旺盛な目をキラキラさせてフィルザフの目の前に現れる。そして…それを驚くこともなくごく自然に受け止める男フィルザフさん。
「ハハハ、凄い能力ですね」
そう言ってフッと笑って見せるフィルザフ。俺には決して真似できない大人の風格、余裕全開のかっこよさだ。悔しいが男として負けてる気がする。
「どんなペナルティ?」
すでに表情が和らいでいるミーナ。フィルザフをまっすぐに見る。
「あ、それは…ちょっとここでは…」
そう言って俺の方をチラ見するフィルザフ。え? なに? 俺? 俺が邪魔ってこと? いやいや、フィルザフは今日は一角亭でお手伝だぞ?
「あの、フィルザフさん? 今日はこの一角亭で料理について学んでもらいたくって…」
「ああ、わたし、実はリアルでも料理人なんです。つい最近レストランをオープンさせてもらいまして。で、今話題のVRMMOにはどんな料理があるのかが気になって買っただけなんですよ。なので、ここで料理の手伝いとかは流石に…」
え、いや、でも俺、「料理したい人」って希望で出してたはずだけど?
「ってことは、おいしい料理とか高品質な料理とか作れちゃうとか?」
ミーナが無邪気な顔してフィルザフとの距離を詰める。
「はい、すでに【料理Lv10】ですし、昨日【中級料理人】に転職しました。」
「えっ、すご。じゃあ、一緒に…あ、でも今はイベント中だし無理か」
「イベントなんてわたしはなんとも思わないですよ。星獣とかも興味ないですし」
「え、そうなの。そうなんだ。じゃあ…」
なんだ? なんで俺はこんなに腹が立ってるんだ。
「じゃあ、フィルザフさん、今日はもう師弟関係なしということで。それじゃあ」
俺はその場でUターンして一角亭を去る。一秒でも早くこの場を離れたかった。すぐそばの角を曲がると今度は走り出した。リオンはしばらく動かなかったみたいだが、俺が走り始めてからは急いで追ってきてくれた。俺は横に並んできたリオンに騎乗はせず、しばらく一緒に歩き、人気のないところでたてがみに顔をうずめる。
リオンはジッと俺が動き出すのをただ待っていてくれた。リオンの体温を感じて心がだんだんと落ち着いてくる……。
「……はあ。よし、行くとしますか!」
何分くらいそうしてたかわからないが、動けるほどまでに回復した俺はとにかく動き出すことにした。昨日からいろんなことがうまくいかなくて、そこで今回のトラブル。心が疲れていたのかもしれない。
北門を出たところでは、ネギ坊がリオンのたてがみから姿を現した。そしてリオンの横を歩く俺の肩をお手々でポンポン。何も言葉を発せず、ただそれだけ。ネギ坊、かっこ良すぎんか?
気分転換もかねてリオンに乗って北の山地を走る。
北の山地を登り、山頂エリアの手前を右に向かう。第二の街なら左に向かうんだが、折角だから鉄鉱石も取ってこようと思う。そのために万事屋さんで購入した『入り象君』なのだ。200リットルも入る空間拡張小型水筒の出番なのだ。
【危険察知NZ】に最大限注意を払って洞窟に入る。仙湖まで進むが極仙蜘蛛どころか子仙蜘蛛すら1匹も出てこなかった。仙湖を走り、隠し通路の先の鉄鉱石を掘りまくる。今回は初めから【土竜金剛爪】を使う。採掘への特攻効果がある非常に優れた鉱石なのだ。ちっこいけど。
取れるだけの鉄鉱石を全て採掘し、出口に向かう。出口の先は断崖で、はるか下に湖面が広がる。そんな雄大な景色を見たら気持ちが収まるかもと思って向かったんだが……出口を出たリオンがなぜか目の前の空中に向かって崖の上から跳躍したのだった。
うおおおおーーー、リオン、なにやってんだーーー!
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
「何やってんすかね、この二人」
「なにって喧嘩だろ?」
「でもバイタル見る限りじゃお互いすごい意識してるじゃないっすか」
「そりゃ喧嘩してるんだから意識はするだろうが」
「でもほら、あの背の高いプレイヤーのバイタル…」
「は? なんでこんなに平たんなんだ?」
「でも、なんか先輩にやられた感出してますけど、?」
「は? いやいや、俺こいつ知らねえから。なんで俺の担当みたいな話になってんだ?」
「先輩、この長身のバイタルって人間っていうよりAIに近くないっすか?」
「あ? AIにバイタルなんてねえだろが」
「いや、それは当たり前っすけど。AIがバイタルを偽装すると俺ならこんな感じかなって」
「バイタル偽装……」
ガタッ
「それだ!!!」
「なんすか先輩、人に対して指さしたら失礼なんすよ」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・フィルザフと合流。
・ミーナと出会う。
・ミーナ情緒不安定にスプラも不安定。
・フィルザフの大人の魅力に嫉妬
・リオンのセラピー発動。
・ネギ坊の慰めに言葉は要らねえ発動。
・リオン、断崖からダイビング
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:なし
職業:創菌薬師
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)
】
:飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】【寸劇Lv3】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv4】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】【採掘Lv10】【菌創薬Lv8】
所持金:約1000万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密の火消し人】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:刀匠カンギスの使い>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv9】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】【躍動】【跳躍Lv3】
◆契約◆
《従魔》
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【紫艶草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
:ネギ玉【氷華草】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




