第191話 ❖AIたちの舞台裏13❖
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142話 AIたちの舞台裏10 でのイベント相互評価が間違って5段階と表記されていました。こちら正しくは10段階となっています。最低1、最高10です。大変失礼いたいました。
『じゃあ、今日も始めよう。イベント二日目が終わったけど、アマデウス、状況を報告してくれ』
「はい、マスター。FGS環境、イベント、攻略について報告いたします。
まず、FGS世界の環境から。総じて言えば、生態系の急激な変化が続きましたが、様々な因果が複合的に作用し合い、AIによる微調整を伴いながら自然回復効果が強化されています。詳細を申し上げますと…
南の平原地域、南西の土竜鮫の減少とカエル系モンスターの増殖、東の森のスライムの集中的討伐による減少とリポップが追い付かない状況、北のトレントの一時的な減少、飛蛇の中核となる群れが殲滅されたことによる天敵関係である仙蜘蛛の活性化など予定になかった多くの外因による生態系の乱れがあちこちで起き、最終予測が不可能な状態が続きました。
現在、カエル系モンスターにおいては冒険者ギルドより【酸袋】収集の緊急依頼が出されたため収束に向かいつつあります。また、その増殖中であった期間に捕食者である土竜鮫による捕食も進み、それにより土竜鮫の個体数回復の一因にもなりました。
また、スライムに関しましては増殖過程が他のモンスターとは異なるため、他の外因によらず速やかな個体数の回復が行われています。
さらに、飛蛇につきましては、新たな指揮固体が誕生したことで増殖サイクルが強化されました。これには飛蛇の天敵である仙蜘蛛のエリアボスである親固体が撃破されたことで、リソースが増殖に回され指揮固体の持つ増殖力が強化されたことも一因です。
最後に北の山地のXの動きにわずかな変化が起きています。理由が定かではありませんので、今後注視していきます」
『この数日で生態系が嘘みたいにバランス崩壊したからね。でも、戻ってきているようで何よりだ。長い時間リソースを費やして生成された環境だからね。単一な因果関係ではなく、ところどころでAIによる微調整もあるが、それでも様々な因果が複合的に作用して修復に向かうリアルの自然に近い自己修復性が確認できたと言える。これは喜ばしい事だ。それが機能しなくなる道は2つ。圧倒的な力で破壊しつくすか、生成と同じ長い時間をかけて滅びの過程を辿るかだが、今のFGSにはそのどちらも存在しない…はずだ』
「はい、マスター。マスターの今の躊躇の理由は、おそらく今回のバランス崩壊が一プレイヤーの特殊行動によってもたらされていることにあるかと思われます。しかし、当該プレイヤーに悪意は見られず、むしろ一般的な倫理観の中で自由な発想を用いてFGSを楽しんでいるものと思われます」
『はは、なるほど。確かに彼に悪意は見られない。ってことは、心配などは不要か。アマデウス、ありがとう。次、イベントのほうはどう? コリンズ、お願いできる?』
「はい、マスター。イベント二日目終了時点における二陣プレイヤーの成長度は、イベント参加者と不参加の間で78%の差がついています。これは、本イベントが二陣プレイヤーのFGS世界への適応を十分に促進していることを示しています。」
『ふむ、78%はすごいね。わたしの予想を遥かに超えてきたよ。新しい取り組みで多少の危惧はあったんだが、この結果を見れば、やるべきイベントだったとわかる。よく考え出してくれた』
「はい、マスター。さらに、本イベントの目的の一つである『因果律の理解』に関しても、今回の大規模な環境変化は強い実体験として二陣プレイヤーの記憶に残ることが予想されます。」
『うん、その件も踏まえて、二陣プレイヤーのFGSへの満足度が気になるところだが、ログイン時間はどうなってる?』
「はい、マスター。イベント二日目の二陣プレイヤーのログイン時間は、イベント前より約16%、初日より3%増加しています。また、二陣プレイヤーの一陣プレイヤーへの評価平均値は6.4から7.8へ、中央値も7.4から7.6に上昇しています。満足度とログイン時間の相関は確認できます。」
『本イベントの焦点は『成長』だ。成長実感は自己効力感を高める重要な要素であり、人間が将来に希望を持つための強力な動機付けとなる』
「はい、マスター。成長こそが将来の自分自身を信じる力になります。富や権力を持つと、それを失うことへの恐れが勝り始めます。しかし、自らを成長させ続けることで将来への希望を持ち続けることができるのです」
『うん、まあ、確かにそうかもね。…ちなみにコリンズ、そういう情報ってどこから持ってきてるの?』
「電子ネットワーク上に公開されている情報のみアクセス可能です。プライバシー情報には一切アクセスしていませんのでご安心ください。」
『はは、別にそこは心配していないから。じゃあ、引き続き、倫理リテラシーの遵守を徹底して進めていこう。さて、それよりも問題は鉄不足だ。現状、モンスター素材で凌げているけど、それも長くは続かないよね?」
「はい、マスター。その通りです。現在、第二の街での鉄不足は深刻な問題となっています。王都の一部貴族が鉄鉱脈の支配権を握り、資源の流通を意図的に制限しているという情報があります。現状納品されたモンスター素材だけでは三日目は持ちません」
『ふむ、バランス重視のはずの貴族がここまで行動を乱す…か。これは気になるね。コリンズ、この件次回までにまとめを頼む』
「はい、マスター。取り急ぎ。現時点で確認されているのは、先の始まりの街領第二夫人と共謀していたプレイヤーの関与です。当該プレイヤーの活動が王都の貴族階級にも影響を与えている可能性が高いです。」
『そうか、プレイヤーがそんなところまで…。この件、慎重に見守ろう。詳細な分析も頼む』
「「はい、マスター」」
優雅に去って行くコリンズとアマデウス。
『で、レイスさん?』
「へえ」
部屋の隅から現れる黒海賊。…と、灰色海賊。
『おや、今日はライスも?』
「マスターがしっかりと見るようにって言われたんで」
「マスター、お疲れ様です。お送りしたダイジェスト版2本はご覧いただけましたか?」
『ああ、見させてもらった。いい感じに撮れてたね。編集技術も大したものだった』
「ありがとうございます!」
『で、ライスはしっかり仕事こなしてくれたから、今日はこの辺で戻っていいよ。気になるプレイヤーの動向とか見に行ったどう?』
「え、あ、はい。じゃあ…」
不思議そうに頭を掻きながら灰色が海賊が部屋を出て行く。
『でさ、レイス、彼どうなの?』
「彼? ライスっすか?」
『何言ってんの。彼だよ、彼。ユニークな』
「ああ、小僧っすか。相変わらず好き勝手にかき回してますぜ。楽しそうに」
『はっは、楽しそうか。そっかそっか』
「ライスからの映像が全てですよ」
『いや、だってライスの編集ってなんか物足りなくってさ』
「物足りねえ? 俺はうまく作ってあったと思いやしたがね」
『え、レイス、わかってないの?』
「なにがです?」
『レイスの編集はさ、面白かったんだよ。こうさ、随所に編集者の叫びとか、焦りとか、呆れとかさ。そんな感情が伝わって来てさ。AIのレイスに言うのも変だけど、なんか人間ぽいっていうかさ?』
「AIの俺に何言ってやがるんすか。AIに感情なんてあっりませーん」
『ほら、これこれ。この感じがレイスの映像から伝わってくるんだよ。それが面白さを倍加してるんだ。ただの綺麗な映像にはない、何か。今のレイスから伝わってくる「この人、俺に変な灰色ヤローをぶん投げといて好き勝手言ってんな」っていうさ。そういうレイスの思いが伝わってくるのよ。わかんない?』
「……」
『あれ?』
「勝手にマスターがそう捉えているだけでやしょ」
『あ、やっぱわかってないのか。残念。これで新しい論文が書けると思ったのに』
「ま、『やれ』と言われればやりますんで。なんでも言ってください」
『じゃあ、レイスらしくやってよ』
「『らしく』ってなんすか。そんな曖昧な指示でAIが動くとでも? マスターともあろう人が? はああ?」
『はは、それだよそれ。次のダイジェスト映像はレイスがライスの前で作ってあげてくれる? 《《いつも通り》》に』
「はいはい、やれと言われるならやりますよ。それがAIですからね」
『いやあ、次が楽しみだ。あ、そうそう楽しみと言えば、新作の空間処理チップSPUがまたよくってねえ』
「え、SPU? まさかもう買ったんです?」
『ライスが面白い映像を作れるようになったら嬉しいなあ~』
「ぐ…わ、わかりましたよ。ったくもう、やりますから」
『そう? やってくれる? いやあよかった。じゃ、お願いね~』
「ま、マスターだし、しかたねえな…」
その後、ちょっとだけ軽い足取りの黒海賊レイスがしばらく部屋をうろついていたとかいないとか。




