第188話 上位補助スキル
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「あのクソ野郎に新鉱脈のことが知られたら……」
「嬉々として報告されて、あっという間に貴族の独占鉱脈になっちゃうわね」
「それは嫌じゃのう。せっかく鉄不足から解放されると思ったのにのう……」
三人がそれぞれに悲壮感を漂わせる。どうやら、あの武具会館のクソ経営者が元凶らしい。っていうか、マークスさんの口ぶりだと、モルスさんが武具会館の責任者に思えたけど……。
なんであのおっさんが経営者なんだ?
「えっと、あのパッツンスーツのおっさんって、武具会館の責任者なんですか?」
「バ、パッツン……スーツ!? ぷっ、あははは! 確かにパッツンスーツだわ! アハハハ!」
俺の「パッツンスーツ」という表現に、マルカさんが大笑いする。人の見た目をどうこう言うのは褒められたことじゃないけど、あのオッサンだけは例外ってことで許してほしい。だって、怒ったり憎んだりするより笑ってやるほうがずっとマシだろうし。
「アハハハ……あー、可笑しかった」
やっと笑い終えたマルカさん。目には涙が浮かんでいる。こういうところの表現にはこだわりを感じてちょっと嬉しいくなる。
「スプラ君だから言っちゃうけど、実はね……本当はモルスが武具会館を任される予定だったのよ。でも、王都のお偉いバンディー家が、あのパッツン……ぷっ、ごめん……あのニカブを派遣してきたの。引退予定だった先代も抵抗したけど、相手は四公の一角。あっけなく館長の座を奪われちゃって……それから、この街はおかしくなったのよ」
マルカさんが、涙をハンカチで拭いながら語る。
なるほど。だからあのクソ経営者ムーブのパッツンが、あんなに偉そうだったのか。巨大な権力を後ろ盾にすれば、やりたい放題やっても誰も文句を言えない。文句を言われないから、自分を省みることもできなくなる。
「今回の鉄不足もそうだ。これまで鍛冶師組合が管理してた山地の鉱脈を、バンディー家が抑えちまったんだ。噂じゃ、バンディー家の息がかかった秘密の鍛冶村がどこかにあって……」
「その話はそこまで。今は石炭の話よ、モルス」
マカラさんが話を戻す。が、秘密の鍛冶村ってなんだ。そっちも気になるぞ?
「ああ、そうだったな。今は石炭の話だな。実はこの辺りでは石炭が採れなくてな。昔から南の山地の木を使って木炭を作って鍛冶が発展してきたんだ。水と木と鉄鉱石が揃っているこの場所は、鍛冶師にとっては絶好の土地だった。だけど、他の地域で石炭が採れるようになってからは、効率を重視して石炭を仕入れて使うようになったんだ。それで、かつて盛んだった木炭づくりは衰退してしまってな。
そこへあのニカブが来て、石炭の管理まで始めやがった。最初はえげつないほど価格を吊り上げてきたんで、王都に訴えたら、それ以降は価格こそ高いが安定するようにはなった。だが今度は、販売量を絞ってくるようになってな。
『鉄鉱石が少ないのに、石炭はいらんだろ』って言いやがって。再び王都に直訴しようとしたら、送り出した住人がいつまでたっても戻ってこねえ。その後も二度、別の者を王都へ送ったが……どちらも行方がわからなくなった。おそらく途中で……。
ま、そんなわけで今は、鉄鉱石の量に見合った分だけの石炭をニカブから与えられ、それを親方連中で話し合って分け合ってる、って状態だ。本来なら、もっと黒煙が立ち上る活気のある街だったんだがな。すっかり寂れてしまったよ」
モルスさんが窓の外を眺める。
……この街も、なかなか大変な事情を抱えているようだ。鉄鉱石と石炭、どちらも厳しく管理されている。となると、鉄鉱石を持ち込んでも、あのパッツンにバレずに精錬するのは難しいってことか。
「まあ、そんなことを言ってても始まらん。ほれ、ここにこっそり溜めておいた石炭がある。しばらくはこれを使えばええ」
ムガンさんが抱えてきた大きな木箱には、山のような石炭が積まれていた。
「いいんですか? 貴重な石炭なのに」
「なあに、モルス相手なら無理じゃが、あの丸っこいの相手ならちょろまかすくらい簡単なもんじゃ。あやつ、全店員から嫌われとるからの。またうまいことやっといてやるわい。まずはこれを使って試してみるとええ」
そっか……でもあのパッツン、見た目通りに細かい性格してそうだし、ちょろまかすのも簡単じゃないだろう。それでもムガンさん、本当は自分のために溜めていた石炭を、俺に使わせてくれるってのか……。よし、これは気合を入れないとだな。
「ほれ、時間は有限。さっさとやるぞい。まずはこの石炭の半分を炉に入れるんじゃ」
「はい」
ムガンさんが床に降ろした木箱から、石炭を炉に詰めていく。すると、不思議にもマジョリカ薬房でブルーゼラチンを鍋に敷き詰めた作業を思い出して懐かしく…。
……ん? なんか変だな。【匠の匙加減】が、石炭はこの1/3くらいでいいって判断してる。そして【熟練の下処理】が、石炭を砕いて入れろと指示してきた。
「ムガンさん、ちょっと俺流でやってみてもいいですか?」
「俺流? なんじゃ、おぬし初めてではなかったのか?」
「あ、いえ、特殊職業関連でちょっと……」
嘘ではない。上位補助スキルはポーション作りの経験で得たものだ。
「ほう、なら好きにやってみるがよい。わしも見せてもらおうかの」
ムガンさんが椅子を持ってきて、俺の隣に座る。これはこれでやりづらいけど……ま、しょうがない。
「ほれ、時間は待ってくれんぞ。さっさとやるんじゃ」
「あ、はい」
よし、ここはムガンさんがいないものとして集中だ。【熟練の下処理】に意識を集中すると、何をどうすればいいのかが、うっすらと伝わってくる。
石炭を砕くには……なるほど、まずは【乾燥】を使うのか。そして、それを【石工】で砕いていくようだ。
どうやら【熟練の下処理】は、他のスキルがあればそれと相乗効果を持つらしい。ただ、その反応は意識の隅っこにそっと触れる程度。集中していなければ見逃してしまいそうだ。
「スプラ、おぬし、その手に持っておるのは……なんじゃ?」
……あ、しまった。ムガンさんを“いないもの”としてたら、無意識に【土竜金剛爪】を出してしまった。
ムガンさんが血走った目で、俺の右手にある金剛爪を凝視する。
「こ、これは……そう、前に事故に遭った時に、できてたというか……」
嘘ではない。素材融合はこの世界では事故か、もしくは禁忌の呪い扱いだ。
「あの、時間は待ってくれないので、続けてもいいですか?」
「え、いや、そ、そうじゃな。では……また後で……」
ムガンさんには申し訳ないが、ここは俺も“圧”をかけさせてもらう。言葉より行動の方が伝わることもあるのだ。
俺は炉に詰めかけていた石炭を全て取り出す。その握りこぶし程の石炭を手に取り【乾燥】をかける。そして見ると、そこにはボールペンの先ほどの印が浮かんでいる。【石工】が「ここを金剛爪で打て」と言っているようだ。
まだ【乾燥】していない石炭にも試すと、印はパチンコ玉程度の大きさ。これはつまり、乾燥させることで砕く際の誤差が小さくなるということらしい。
印を頼りに石炭を砕くこと15分、ムガンさんからもらった石炭の約1/3が、均等に1cmほどのサイズにまで細かくなった。すると【熟練の下処理】からもOKのサイン。
「じゃ、これを炉に入れて……」
「入れたら火をつけるんじゃ」
ムガンさんからすかさず指示が飛ぶ。その表情を見るにどうやらすっかり夢中になっているらしい。
砕いたすべての石炭を炉に流し入れ、丁寧にならす。それから工房に戻って火を持ってきて、石炭に移す。しばらくすると、勢いよく燃え上がる石炭。
「ほう、乾燥させて砕いた石炭がここまでよく燃えるとはの。大きさが揃っておるから火の勢いも安定しとるな」
ムガンさんが感心するほど、炉の中の炎は赤・オレンジ・黄色が完璧に交じり合い、安定した高温を保っていた。
「次は、この上に鉄鉱石を入れるんじゃ」
「はい」
ストレージから鉄鉱石を取り出すと、今度も【熟練の下処理】が反応。こちらも細かく砕くよう指示してくる。
石炭と同様に【乾燥】→【石工】で効率よく砕いていくと、ある程度のところで【匠の匙加減】が反応。今回は適量の提示ではなく、砕いた鉄鉱石から“鉄っぽい色”のものだけを自動で選別し始める。
で、慌ててその動きに合わせて手を動かす俺。鉄鉱石が勝手に左右に分かれていくこんな光景は、誰にも見せられん。移動が終わると、左右に分かれたうちの右側だけに反応があった。つまり、こっちだけ炉に入れろということらしい。
「今、なんか鉄鉱石が勝手に動いて……フガフガ」
横を見ると、ムガンさんがマカラさんに口を押さえられてフガフガしていた。マカラさん、ナイス判断。彼女は頼りになるな。
再び作業に向き直ると、次に反応してきたのは【火加減の極み】。炉の炎が一気に勢いを増し、赤っぽかった色が白に近い黄色へと変わる。これはかなりの高温になってるようだ。
火が安定したところで、そこに選別済みの鉄鉱石を丁寧に投入。
「風も送らんのに、ここまで燃えるとは……これはいったい……?」
ムガンさんは椅子ごと1m後方に下げられ、今度はその椅子の上に立って炉を覗き込んでいる。
輝く炉の中は凄まじい高温となっていたが、【火加減の極み】が炎の色を絶妙に調整して安定させている。
そのまま作業を続けて約30分。【熟練の下処理】が次の石炭を砕けと指示。今度はさらに細かく、金剛爪で一つ一つを叩き潰す。化粧砂利のようになった石炭を炉に投入すると、再び炉内に炎が沸き起こる。
その後も、鉄鉱石を砕き・選別し・投入し、火加減を調整する工程を繰り返す。
約3時間後、炉の中が急に暗くなっていく。そして、完全に光が消えると【熟練の下処理】が「炉の中身を取り出せ」と指示してくる。
いや、こんなのどうやって取り出すんだ? と考えた末、一か八かストレージに入れてみると、うまく格納できてしまった。
それを外の庭で取り出すと、周囲1mの草が一気に燃えて灰になる。あまりの高温に驚きつつも、【熟練の下処理】の「冷めるまで触るな」という指示に従い、そのまま放置して工房に戻る。
すると、空になった炉の様子が使用前とは雰囲気が誓う。とりあえず中を覗いてみると。炉の内側がキラキラを銀色に輝いていた。
「なんと……まさか一度目で成功させるとは。この輝ける神秘、清き伝説……【清玉炉】に間違いない」
ムガンさんが床に膝をつき、呟く。その目は赤く潤んでいた。
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
ああああああ、小僧のスキルが清玉鋼の自動製造装置になっちまったー!!
MJ、MK、MG、お前らまさか……あ、いや流石にそれはないか。
【乾燥】【石工】は小僧がバーベキューするために習得したんだもんな。
だああああもう、どうしてこう都合のいい事ばっかり起きるんだよ。
小僧、お前、チートだろ。ああああん?
「先輩、なに膝から崩れ落ちてるんですか?」
「だって、都合のいい事ばっかりなんだもん」
「先輩、目が赤いですよ……」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・街の裏事情を知る。
・ムガン監督の元鉄鉱石の製錬に着手する。
・スキルに従い精錬作業を行う。
・【清玉炉】を完成させる。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:なし
職業:創菌薬師
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)
】
:飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】【寸劇Lv3】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv4】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】【採掘Lv10】【菌創薬Lv8】
所持金:約1000万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密の火消し人】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:武器屋マークスの困り事>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】【躍動】【跳躍Lv2】
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【氷華草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




