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第187話 清玉炉

いつもお読みいただきありがとうございます。

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「えええ、師匠、それ本当なんすか?」

「ま、ま、つい出来心でな」

「『出来心でな』じゃないでしょ、まったくこの鍛冶中毒ドワーフは!」


 ムガンさんから俺との出会いの話を聞いて、驚くモルスさんと怒るマカラさん。自ら禁忌を犯して死にかけたとあってはマカラさんが中毒扱いする気持ちもわからんでもないが。



「まあまあ、マカラさん、ムガンさんもこうやって小さくなってることですし、もうその辺で」

「でもスプラさんが来てくれなかったら死んでたんですよ。まったく、鉄がないからってモンスター素材使うなんて。ドワーフがモンスター素材使ったらこうなる事くらいわかってたでしょうに」


 マカラさんの怒りが収まらない。だが、それには理由がある。ドワーフには、大地の鉱物以外を鍛冶に使ってはいけないという禁忌があるらしいのだ。破ると呪いにかかって死ぬという。ドワーフが持つ大地の加護は大地から産出された素材以外の素材を鍛冶に使うことを嫌うんだそうだ。


 そして話を聞いているうちに、マークスさんとムガンさんの素材融合事故への認識のズレの理由がわかってきた。


 素材融合事故は素材融合条件を満たしながらも最後で失敗することで起きる現象だ。それが人間にとってはただの偶然の事故。ドワーフにとっては確率の高い呪いの現象。これはつまり、ドワーフの高い鍛冶技術が素材融合技術に近いところまでいっているということなんだろう。おそらく更に技術を高めれば事故ではなく素材融合事態に成功するんじゃないか…


 あれ? ってことは、【融合鍛冶】ってドワーフ技術よりも上ってことか? …いやいや、まさかそんな。ははは。



「そうですよ、師匠。スプラさんがいなかったらと思うとぞっとしますよ」

「もう、鍛冶中毒って一度死なないと治んないのかしら……あ、そうだ。スプラ君、ポーション代いくらになる? このドワーフを逆さづりにしてでもきっちり出させるから教えてくれる?」

「はは、大丈夫ですよ。ちょっと特殊な職業に就いてるので材料も無料で手に入るんです。なのでお金は結構です」


 そう、お金など要らないのだ。今、十分すぎるほどあるし。それに実は今さっき【全治ポーション】をトレード画面でチョイチョイしてみたら、デフォルトの金額に恐ろしい額が表示されたのだ。で、それにビビり過ぎて見なかったことにしてそっと画面を閉じたばかり。小市民の俺があんな金額を持ったら間違いなく人生を破滅させるに違いない。



「え、そうなの? じゃ、今回は甘えさせてもらうわね。実のところこのドワーフ、お金が入ると全部素材とお酒に変えちゃうから。たぶん小銭しかもってないから。で、スプラ君ってなんの職業? 珍しいの?」

「そうじゃ、このスプラは特殊上級職じゃぞ。ドワーフ世界にも過去数人しかいない特殊上級職。貴重な異人なんじゃ」


 なんかムガンさんが急にドヤり出したな。俺が特殊上級職だとしてもムガンさんが偉い訳ではないのだが。



「なんであんたが偉そうなのよ、まったく。もう少し反省したらどうなの。いっそのこと自分の欲求を抑えるための武器でも作りなさいよ」


 マカラさんの怒りっぷりがすごい。だが、なんか子供を叱ってる若いお母さんみたいだ。かわいいと思うからこそ危ない事に対してしっかり叱るという。



「だって、もう一月も鉄を打ってないんじゃぞ。ドワーフに鉄を打たせないということはエルフに薬を作らせないことと同義じゃぞ」

「なに訳の分かんない事言ってるの!」


 ん? そっか、エルフって調薬が得意な種族なんだったな。 え、じゃあ、俺ワンチャン種族進化とか行けるんじゃね? この際だから薬師突き詰めてみるか…。



「マカラ、スプラさんも困ってる。もうその辺でいいだろ。それに、鉄がねえってことはモンスター素材が多く使われるってことだ。こういう事がこれからも起き続けるかもしれん。これは師匠だけが悪いとは言い切れんぞ」

「おお、さすがモルス、いい事言のう。やっぱりお前はわかっておるな」

「もう!」


 なんか、この三人仲いいな。うーん、ムガンさんはモルスさんの師匠って事だし、三人がこんな関係だったらムガンさんに俺の鉄鉱石を出しても大丈夫かもな。


 チラッとモルスさんを見ると、目が合ったモルスさんが軽く頷く。俺の言いたいことを分かってくれたみたいだ。



「実は師匠、刀匠マーカサスからこんな手紙が来てるんです」

「手紙? ほう、もしかしてスプラが持ってきたものかの。じゃあ、どれ、見せてもらおうかの。…フムフム…な、なにーーーーーーーーー!!!!!鉱脈じゃと!!!フガフガ」


「だー、声がデカいですって師匠!」

「もう、この馬鹿ドワーフは!」


 馬鹿でかい声で叫ぶムガンさんの口を慌てて塞ぎに出るモルスさんとマカラさん。マカラさんが口を塞ぐとモルスさんが後ろから羽交い絞めにする。そうしてしばらくフガフガした後、ようやくムガンさんの興奮が収まってきた。



「はあはあ、で、鉱脈の場所は、スプラが知っておると?」

「あ、はい知ってますし、今、鉄鉱石も持ってます。すみません、さっきは言えなくて」


「そりゃ、言えんじゃろう。新鉱脈なんて王都に知られたら口封じに殺されかねん情報じゃしな」

「はい?」


 いや、そんな物騒な話聞いてないぞ。どういことだ、マークスさん?



「ま、鉄鉱石だけ持ってても役に立たんじゃろ。ここに出していけば精錬しといてやるぞ」

「え、いいんですか?」


「ああ、しかし、条件としてその鉄を少し分けてくれんかの?」

「ちょ、この馬鹿ドワーフ、命助けてもらっといて図々しいにも程があるでしょ!」

「いいんですよ、マカラさん。こんなに持っててもたぶん使いませんし。それにまた取りに行けばいいだけですから」


 そう言いながら俺は工房の床に鉄鉱石を出していく。



「ほう、これほどの高品質な鉄鉱石は何年かぶりじゃな。これならもしかすると清玉鋼までいけるかもしれんの」

「…え、今、なんて?」


 今、清玉鋼って聞こえたような気が…。聞き間違いか?



「なんじゃ、スプラは薬師のくせに清玉鋼に興味があるのか?」

「あ、やっぱり清玉鋼! はい。実は今、大量の清玉鋼が必要で…」


 この際だから、ムガンさんに白馬のクエストの相談もしてみよう。聖銀の手槌も知りたいし、清玉鋼の炉なんて作り方も全く分からんし。



「ほう、なるほどのう。そのゴブリンエンペラーの落とし物を破壊するために、清玉鋼の炉と聖銀の手槌が必要だと、ふむ」


 ムガンさんが筋肉で隆起した腕を組むとただでさえ太かった腕がより太く見える。



「うーむ、しかし考えれば考えるほど奇妙な話じゃな」

「えっ、奇妙?」


 あれ? 俺なにか間違って伝えたか? 念のためもう1回白馬クエスト見とくか。



<眷属??の絆>

皇子鬼の黒呪大斧によって傷を負った白馬は呪いと共に湖の底に眠る。呪いは黒呪大斧を破壊することで初めて解くことができる。そのためには【清玉炉】と【聖銀の手鎚】が必要だとのこと。



 うん、確かに清玉炉と聖銀の手鎚だよな。で、白馬は「清玉鋼でできた清玉炉」と言っていた。うん、これのどこが奇妙なんだ?


「うむ、おそらくじゃが、その白馬が言いたかったのはこういうことではないかの。『清玉鋼を作った後の炉に満ちる清気を宿した聖銀の手鎚で破壊する』どうじゃ? 違うかの?」


「うーん、白馬が言ってたのは『破壊するには大量の聖銀を濃縮して作った【聖銀の手槌】と清玉鋼でできた【清玉炉】が要る』ってことでしたけど?」


 会話ログを遡って正確な情報を伝える。こういうのは正確性が命だからな。



「ふむ、なら間違いないじゃろう。清玉鋼はの、鉄を精錬しておると極稀に発生する清気を宿した玉鋼たまはがね、つまり良質な鉄のことなのじゃ。故に「清玉鋼でできた炉」というものは存在せぬ。そんなもの、炉自体が溶けてしまうからの。ただ、『清玉炉』という言葉はわしの祖父から聞いたことがある気がする。確か、清玉鋼ができたの時にその炉が不思議な力を宿す事があってな。その炉のことを昔は『清玉炉』と呼んでおったはずなんじゃ」


 え? それじゃあ、清玉鋼っていう鉱石が沢山必要だって話じゃなかったのか? つまり、その清玉鋼を作って炉が変化したらそれでいいと?



「ちなみに、その清玉鋼の作り方って教えて貰うことは可能ですか?」

「ホッホッホ、そればかりはわしにも教えられんぞい」

「あ、やっぱりそうですよね…」

「ちょっと、クソ髭鍛冶中毒ドワーフ、それが命の恩人にいうセリフなの?!」

「「「……」」」

 

 クソ髭鍛冶中毒ドワーフ……マカラさん、凄いこと言うな。一瞬で場が凍ったぞ。



「いや、わしだって教えられるもんなら教えとるわい。じゃが清玉鋼など作ろうと思って作れるもんではないのじゃ。たまたま色んな条件が整った時に極稀に発生する奇跡としか言いようのない現象なんじゃ」


 奇跡かあ。でも、その奇跡ってのには理由があるはすなんだよな。素材融合みたいにきっとなにかの条件があるはず。



「あの、ムガンさん、俺に鉄鉱石の精錬の仕方を教えてくれませんか? そしたら後は自分で何とかするんで」

「ふむ、そんなことでいいなら…ほれ、こっちに来なさい」


 ムガンさんが俺を工房の奥へ連れて行く。そして奥のドアを開けるとそこには昔リアルで見たたたら場と同じような四角い風呂桶のような炉が置いてあった。


「まずこの中に木炭か石炭を入れるんじゃ」

「え、木炭? 薪じゃなくて?」


「薪なんかでは火力が圧倒的に足らんぞい。石炭が好ましいが木炭でも量を確保すればできんことはない。ただ石炭のほうが風送りは楽じゃがな」


 ぐ、石炭どころか木炭すらないし、炭なんて作り方も知らん。ただ焼くだけでできるとは思えんしな。関連スキルもリアル知識もない木炭作りよりは…ここは石炭一択だな。



「石炭って炭鉱から掘り出すあれですよね。炭鉱はどこにありますか?」

「炭鉱はの、王都の貴族が独占しておる。必要な分を貴族から買うしかないの。クソ高い金額でな」


 そうか、買えるんならそのほうが楽だしありがたい。金ならある。



「どこで買えるんですか?」

「この付近で買えるのは……武具会館だけじゃの」


 え、武具会館って、あのパッツンジャケット経営者の? 



「じゃが、あの太っちょが大量の石炭を買おうとするスプラをどう思うか…」

「絶対に理由を探ってくるわね。あいつしつこいし悪賢いから厄介よ」


 マジですか…。



❖❖❖レイスの部屋❖❖❖


あーあ、もう清玉鋼の話まで教えてるし。

清玉鋼なんて山頂エリアをクリアしてからのはずだろうが。

ったく、小僧が絡むと攻略の進捗がぐちゃぐちゃになるな。


しかし、第三エリアまでの住人NPCの中で唯一清玉鋼を知るMGがよくもまあタイミングよく死にかけてたもんだよな。

住人AIは死んだらリセットされて新たな住人に生まれ変わる。

あそこでMGが死んでたらZ-2 のクエストもずっと先まで持ち越しだった。

で、その死にかけてるMGを見つけたのはZか。


…なーんか臭うな。


―――――――――――――

◇達成したこと◇

・鉄鉱石の鉱脈と鉄鉱石を持ってることをムガンに話す。

・ムガンから清玉炉の正体を聞く。

・石炭を買いたいが厄介ごとの匂いを感じて戸惑う。



 ◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]

 肩書:なし

 職業:創菌薬師

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1(+33)

 敏捷:1(+53)

 器用:1

 知力:1

 装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)

 】

 :飛蛇の真道化靴【敏捷+53】

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】【寸劇Lv3】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv4】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】【採掘Lv10】【菌創薬Lv8】

 所持金:約1000万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密の火消し人】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】

 従魔:ネギ坊[癒楽草]


 ◎進行中常設クエスト:

 <薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

 <蜥蜴の尻尾亭への定期納品>

 ●特殊クエスト

 <シークレットクエスト:武器屋マークスの困り事>

 〇進行中クエスト:

 <眷属??の絆>



 ◆星獣◆

 名前:リオン

 種族:星獣[★☆☆☆☆☆]

 契約:小人族スプラ

 Lv:20

 HP:310

 MP:445

 筋力:48

 耐久:46【+42】

 敏捷:120

 器用:47

 知力:69

 装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】

 :赤猛牛革の鞍【耐久+12】

 :赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】

 固有スキル:■■■■ ■■■■

 スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】【躍動】【跳躍Lv2】



 ◆契約◆

 名前:ネギ坊

 種族:瘉楽草ゆらくそう[★★☆☆☆]

 属性:植物

 契約:スプラ(小人族)

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:3

 耐久:3

 敏捷:0

 器用:1

 知力:5

 装備:【毒毒毒草】

   :【爆炎草】

   :【氷華草】

 固有スキル:【超再生】【分蘖】

 スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】

 分蘖体:ネギ丸【月影霊草】



《不動産》

 畑(中規模)

 農屋(EX)


 ≪雇用≫

 エリゼ

 ゼン

 ミクリ


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