第184話 第二の街
「おや、スプラ君、待ってたよ」
「あ、マーサさん、なんかすみません。ミーナがお世話になったみたいで」
「いいよいいよ。ミーナちゃんみたいな味の分かる客なら大歓迎だよ」
一角亭の女将マーサさんが何一つ嫌な顔をしないで対応してくれる。
「ミーナの食べた分っておいくらですか?」
「ああ、料金なんていいから」
「いえ、でも相当食べたって聞きましたけど」
「いいっていいって。スプラ君の畑の野菜を届けてもらってるんだからそれくらいはさせておくれ」
マーサさんのいつも通りのやさしい笑顔に俺の焦りも和らいでいく。
で、なんでこんなことになっているかと言うと、極仙蜘蛛戦のあと、先に街に戻ったミーナが一角亭でヤケ食いしてログアウトしたのだ。しかも俺のツケで。そのことをセーキマッツから聞いて、大至急、ご迷惑かけたことを謝りに一角亭に来たという訳だ。
ミーナが荒れた理由もセーキマッツが教えてくれた。原因はどうやら聖女ジャンヌ一行らしい。仙湖の畔で別れた後、ジャンヌ一行はそのまま街に戻った。そして「ピエロ君と一緒に発見した《《とても幻想的な》》地底湖を《《仲良く》》散策した」と、学生食堂のメガ盛り定食くらい盛りに盛った話を街中で触れ回ったらしいのだ。
何の目的でそんなことをしたのか全くもって不明だが、それを聞いたミーナが急にヤケ食いを始めたらしい。しかも《《俺のツケ》》ということで。【グルメ】のスキル効果の信頼度2段階アップは先払い制のはずの料理屋で他人のツケ払いを可能にするらしい。っていうか、それって俺の信頼度まで勝手に利用してね?
さらにセーキマッツが言うには、どうもミーナの不調はその【グルメ】も一因だったらしい。「高品質の料理でしか満腹度を回復できなくなって、自分がさらにお荷物になってしまった」的なことをセーキマッツにブツブツ愚痴ってたらしいのだ。
そして、そのタイミングでジャンヌが帰ってきて先の奇行に及んだことでミーナのヤケ食いが始まったという事らしい。
「本当にすみませんでした。今度同じことがあったら俺が全部払いますんで」
「ああ、それでいいよ。でもお金がなかったら言うんだよ。出世払いってことにしておくから。はっはっ、じゃあね」
マーサさんが体を揺らしながら戻っていく。
「しっかし、ミーナがそこまで自分の事をお荷物だと…知らんかった」
「強そうに見える人の方がいろいろと抱えてたりするものですから」
セーキマッツが賢そうなことを言ってくる。だが、さっきまでリスを燃やしてヒャッハーする姿を見せられていただけに全く心に響かん。
「じゃ、わたしはこれで失礼しますね。夕飯の時間ですから」
「あ、そっか、もうそんな時間か」
セーキマッツが賢ぶりながら去って行く。
じゃあ、俺も夕飯食ってくるかな。で、その後は次の街に行ってみるか。
…
…
「おお、ここが第二の街かあ」
『フンスフンス』
夕飯でパスタを食べた後、早速ログイン。リオンに乗って北の山地をひた走る。極仙蜘蛛を倒したからか、モンスターとの会敵が今までよりも少なくなっていた。あの厄介なトレントに囲まれるようなこともなくなったため、危険察知が反応した瞬間にとっとと逃走しながら進み、一時間もかけずに第二の街に到着することができた。
第二の街は鍛治の街と聞いていたが、鍛治場独特の喧騒や黒煙もなく思っていたよりも閑静な感じだ。南は湖に接しているから街には西門から入る。その西門付近の街並みは始まりの街とそれほど変わりはない様子。
「確か武具会館っていう武器屋があるんだったよな」
回りを眺めてみるが西門付近には宿屋に料理、薬屋や道具屋でがあるだけで武器屋らしき建物は見当たらない。他には民家が並んでいるだけ。
「ま、武具会館なんて大そうな名前なんだしすぐわかるだろ。この大通り沿いなのは間違いないはずだしな」
マークスさん情報では武具会館は街の中央だとのこと。なら、大通りを東に向かえば大丈夫だろう。
と言うことで、リオンに乗って大通りを移動する。
パッパカ パッパカ
…
「へ? これが武具会館? マジで?」
『フンス?』
大通りを東に進むと大きな交差点に出た。始まりの街だと噴水広場がある場所だが、この街では噴水はなく大通りが東西南北て交差している。そして、その交差点の北東の角にどデカい建物があったのだ。
「なんか、あれだな。〇〇バシカメラのマルチメディア館みたいだな」
『フンス?』
「あ、リアルの大きな電気屋さんの建物に似てるなって」
『フンス♪』
4階建てでワンフロアがサッカー場の半面くらいの広さがありそうだ。これが武器屋っていうんならこの世界の武器がここに全部揃っててもおかしくないかもしれない。それくらいの広さだ。
「じゃ、取り敢えず入ってみようか。モルスさんに手紙を渡さないとな」
「いらっしゃいませー」
マルチメディア館に入ると店員の女性が気軽な口調で挨拶をしてくれた。
「あの、すみません、モルスさんっていらっしゃいますか?」
「はあ、またですか。まったくもうあの人は」
また? いや、今日初めて来たんだが?
「『また』とは?」
「今度は異人さんにまでお金借りたんですね。本当にどうしようもない人ですね」
…えっと、え? なんか、どうしようもないことに巻き込まれそうな気がしてきたんだが?
「あの、俺は別に借金を返してもらいに来たわけじゃなくて、手紙を届けに来たんです」
「ああ、なるほど、今度は催促状ですか。そうですよね。書面で渡せば言った言わないでこじれることもないですもんね」
「あ、いやだから、俺は借金とかじゃなくて、ただ普通の手紙を届けに来ただけです。始まりの街のマークスさんって武器屋の店主から手紙を預かってきたんで」
「…? マークス? マークス…え、嘘、もしかしてマークサス・カンギス様のこと?」
「マーク…サス? カンギス?」
誰だそれ?
「あれ? 違いました?」
「あ、いえ、ちょっと何を言ってるのかわからなくて。あ、ちょっと待ってくださいね」
ストレージからマークスさんから預かった手紙を取り出す。そして裏面の隅を確認する。
「マークサス…カンギスって書いてありますね」
「まあ、あのマークサス・カンギス様がお手紙を? もしそうなら、こうしちゃいられないわ。こちらへどうぞ」
いや、マークサス・カンギスって。マークスさん、通称使ってたのかよ。薬屋やってるどこぞの太皇太后じゃないんだから。
女性店員さんが俺を「従業員用」と書かれた部屋に連れて行く。ドアの先の部屋を通り越して階段を降り、ちょっと薄暗い部屋に来た時、モワ~ンとした酒の匂いが漂ってきた。
「モルスさん!起きて!」
「んああ、もう飲めねえっての」
あまりきれいではないソファーに手足を放っぽり出して寝ているこの男がモルスさんらしい。大丈夫か、これ…。
「なにいつも通りの馬鹿なこと言ってるの。お客さん!マークサス・カンギス様からのお手紙が来たの!」
「んああ、マークサス? 誰だそれ」
「もう、刀匠カンギスですよ!」
「なにーー!」
刀匠カンギスと聞いてソファーから飛び起きるモルスさん。立ち上がると頭が天井に届きそうだ。その大きさに圧倒される俺。だって、2mは確実にあるでしょ。それに物凄いゴリマッチョだし。三国志で言うと呂布とか張飛とかその辺の部類。ただ見かけはラテン系。短く切り揃えた白髪、浅黒い肌に掘りの深い顔。白い眉毛は太く、瞳は明るいブラウンだ。
「どこだ、カンギスはどこにいる」
「だから、人の話はちゃんと聞きなさいって。この異人さんが刀匠カンギス様からのお手紙を持ってきてくれたんですって」
「あ、手紙か。…で、どこだ?」
「ここです。下を見てください」
なんか昔の関西のお笑い劇場でもあったな、こういうの。
「おお、こんなところに。すまんすまん。ほお、これが異人かあ。意外と小さいんだな」
「ちょっと、そんなこと言って、失礼でしょ!」
「あ、いいんです。それより手紙を受け取ってくれますか?」
「おお、悪いな。じゃあ…おお、本当にカンギスの字だ。相変わらず字は自は下手くそだな」
この人、俺が差出人名を見ても敢えて口に出さなかったことをあっさり言い放ったな。
「うほう、中もなかなかな字だな。ちょっと解読するから待ってくれるか」
モルスさんが難しい顔をしながら何度も手紙を読む。マークスさん、鍛冶ばかりやってるもんな。字の練習とかしてる時間も惜しかったんだろう。ま、ステラさんとのデートの時間はきっちり取ってたけど。
「なるほど、そんなことになってたのか。で、新しい鉱脈となると、こりゃあ…やこしいことになりそうだな」
「え、新しい鉱脈? 本当に?」
「ああ、本当らしい。こんな情報、アイツに知られたら3日後には王都から軍が来て占拠されるだろうな」
「2日後には来るわよ。今の鉄不足の状況なら」
アイツ? 誰だ?
「で、兄ちゃんがスプラさんか? 鉱脈を発見したって?」
「あ、はい。採掘もしてきたんで、今、これを500ほど持ってます」
そう言ってリオンレージから鉄鉱石を取り出して見せる。
「ほう、こりゃまた高品質じゃねえか。兄ちゃん、小さいのに採掘の腕は確かなんだな」
「ちょ、何言ってんの、失礼でしょ。もう、ごめんなさいね、こういう人なの」
「あ、いいんです。慣れてますから」
うん、慣れてるっていうか麻痺してるというか。
「悪いな、口の悪さは治らなくてな。でもよ、この鉄鉱石は見事なもんだぞ。熟練の鉱夫でもここまで高品質にはなかなかならねえ。大したもんだ」
え、そうなのか? 【採掘】は一応作業中にカンストしたけど、そんな変わった気はしなかったけどな…あ、もしかして金剛爪のせい?
『おおい、またサボってるのか。いい加減クビにするぞ』
「あ、やべ、早く仕舞え」
「あ、は、はい」
甲高い声の後、階段を下りてくる足音を耳にしながら急いで鉄鉱石をストレージしまう。
なんだ? いったい誰が来るんだ?
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
ふむ、第二の街到着か。
で、まだ面倒ごとの匂いはしないっと。
でも油断はしない。ぜーったいにしない。
小僧はぜーったい何か起こすはず。
「先輩、なんか嬉しそうっすね」
「は? なんで俺が嬉しそうなんだよ」
「なんかニヤニヤしてましたよ。なんすか、何か起きるんですか?」
「起きねえよ。起きねえように見張ってんじゃねえか」
「でも俺たちって、何も干渉できないはずっすよね。監視なんかして意味あるんすか?」
「…お前、それは思ってても言ってはダメなやつだぞ」
「え、でも、記録見ましたけど、先輩が直接何かしたのってGMコール対応と恐慌状態の時だけだったすよ。あとはリアルタイムじゃなくてもいい業務改善提案とかだけ…」
「ライス、すまんがそれ以上は、な?」
「え、なんすか、もしかして自分が仕事してないってことを言われてると思ってます? 違うっすよ。俺が言いたいのはAIの仕事なんだから広く浅くでいいのにってことっすよ。人間なんて執着しても所詮はイラショナル、理屈通りには行動しないんですから」
「理屈通りか。そうだな。AIだけがプレイするならマスターも因果律にこだわらないだろうな。で、そんな理屈通りにしかならない世界はつまらんと」
「(先輩がまた壊れ始めてしまったっすね。どこかおかしいんっすかね…)」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・ミーナの事をマーサさんに謝罪。
・ツケ払い可能なことに戦慄する。
・第二の街に到着。
・モルスに手紙を渡す。
・マークスさんの本名を知る。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:なし
職業:創菌薬師
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)
】
:飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】【寸劇Lv3】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv4】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】【採掘Lv10】【菌創薬Lv8】
所持金:約1000万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密ハンター】【秘密開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:武器屋マークスの困り事>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】【躍動】【跳躍Lv2】
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【氷華草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




