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第183話 鉄を巡る裏事情

「ふう、じゃあ、ここで出してくれ」

「あ、はい」


 工房に入ってマークスさんに言われるままに鉄鉱石を出していく。工房で作業していた弟子のセメントモリも手を止めて俺が出す鉄鉱石の山をガン見している。いや、見すぎだから。



【鉄鉱石】×543



「…はっ、スプラ、もうその辺で。悪いが、もう一度確認させてくれ。北の山地に仙蜘蛛の親がいた洞窟があった。その先に鉱脈があったんだな?」


 俺の出し続ける鉄鉱石が工房床の半分を埋め尽くした時、呆然と見守っていたマークスさんが口を開く。


「はい、その通りです」


「そうか。そうなると、仙蜘蛛が作った巣が未発見の鉱脈に繋がった…つまり封鎖された鉱脈以外にも鉱脈があったということか…」


 腕組みをしたまま固まるマークスさん。そのまま時間が過ぎる。




 で、マークスさんはまだ腕組みをしたままか…。これは俺に何かしろと言う事か?


「マークスさん、大丈夫ですか?」

「ん? あ、すまんな。ちょっと考え事をな」


「もし、まだ俺が協力できることがあるなら協力させてもらいますよ。なんか厄介事持ってきちゃったみたいなんで」

「は? いやいや厄介事なんてとんでもない。これだけの鉄鉱石があればこの街の鉄不足はかなり緩和させられるだろう。感謝こそすれ厄介事扱いなんてする訳ないだろ」


「そうなんです…か?」

「いや、気を遣わせて悪かったな。俺が考えていたのは鉄鉱石の精錬の事なんだ。鉄鉱石は精錬して不純物を取り除く必要があるんだが、この工程には相応の設備が必要でな。この街だと俺のとこしか設備がないんだ。で、これだけ量の精錬となると俺がつきっきりで精錬しても一週間はかかっちまうんだ。しかし、もちろん今はそんな時間はない。たが北の街なら一日で終わるんだ。なんせ街中が工房だらけなんでな」


「あ、じゃあ北の街に俺が運びましょうか?」

「いや、それはやめたほうがいい。まず盗掘を疑われる。で、新しい鉱脈の事を説明してそれが知れ渡れば王都の貴族が独占するために乗り込んでくるだろう。鉄鉱脈なんて軍事を司るバンディー家が喉から手が出るほど欲しいものだからな」


 ぐ、また貴族か。第二夫人といい、この世界の貴族は碌なもんじゃないな。


「えっと、じゃあどうしましょうか…」

「それなんだが、俺にひとつ考えがある。北の街は鍛治の街で俺も若い頃に修行した街なんだが、街の真ん中に武具会館っていう武器屋があるんだ。そこにモルスってう奴がいるはずなんだが、そいつなら何がいい案を出してくれるかもしない。無欲だが口の固い信頼の置ける奴なんだ。で、スプラにはそいつに会ってきてもらいたい。俺からの手紙を渡せばわかるようにしておくから。どうだ?」


ピンポーン

『シークレットクエスト<武器屋マークスの困りごと>が<武器屋マークスの秘密依頼>に更新されました。受けますか?』


「分かりました。じゃあ、鉄鉱石はこちらに少し置いておいて後は俺の方で持って行きますね。急に精錬できることになったりした時のために」

「おう、そうだな、そうしてくれ。じゃ、手紙書いてくるから待っててくれな」



ピンポーン

『シークレットクエスト<武器屋マークスの秘密依頼>を受注しました』




「あの、スプラさん、これ鉄鉱石ですよね。スプラさんが採掘したんですか?」

「え、あ、うん」


 どうやらセメントモリには俺とマークスさんとの話は聞こえていなかったらしい。


「たぶん、これ他のプレイヤーに知られたら大変なことになりますよ」

「え、どういう事?」

「さっき掲示板見てたんですけど…」


 セメントモリが掲示板情報を教えてくれた。


 どうやら、今朝から始まりの街ではマークスさんが心配していた鉄不足が本格化したらしい。で、俺がエリアボスを討伐して称号をゲットしたことがワールドアナウンスが流れたことで、称号目当ての新エリア解放が一大ブームになったらしい。どうやら称号獲得での成長ポイントがすごいと予想されているようだ。


 トレント対策のため、火魔法・斧系スキル持ちを団体の垣根を超えて大規模招集し、ゴリ押しでトレント地獄の北の山地攻略を試みた。


 協力し合ったことで、無事に第二の街にたどり着いた攻略組だったが、そこで問題が起きた。なんと鍛冶の街であるはずのその街でも深刻な鉄不足が発生していたのだ。原因などの詳しい情報は信頼を得ていない住人NPCが話してくれないため不明だとのこと。


 そして、攻略組によりその事が掲示板に載せられてからは、一層混乱を深めたプレイヤーたちの暴走が始まり、金持ちプレイヤー達の無分別な鉄の買い占めや、一部生産プレイヤーの値段の釣り上げが横行し、鉄の高騰の歯止めがかからなくなっているとのこと。


 そんなヤバい状況で俺が大量の鉄鉱石を持っていることがバレたら…間違いなく血の雨が降る…俺の血のな! 吐血もののストレス地獄に一直線という訳だ。



「そっか、セメントモリが教えてくれなかったら大変なことになってたな。ありがとな」

「え、いえ…」


「で、セメントモリの方はどう? もう夕方になっちゃったけど、ずっと鍛冶してたのか?」

「あ、はい。実はマークスさんの言われることをやってたら、あっという間に【鍛冶Lv5】になって。そこでマークスさんが認めてくれて【中級鍛冶師】が解放されたんです。でも午前中に【鍛冶師】になったばかりでまだ転職できてないんですけどね。48時間って長いですよね」


 ほう、もう【中級鍛冶師】か。これは早いほうだよな。やるなセメントモリ。


「まあ、【中級鍛冶師】だけが進む道じゃないからさ。次の転職までにいろんなスキルを覚えたり、いろんなNPCと交流したりしたらまた別の中級職が解放されることもあるから。いろいろ楽しんでやってみるといいかもな」

「了解です! じゃあ、今日はこれで落ちますね。あ、もちろん評価は10ですよ!」


 そう言って、セメントモリは工房を出て行った。


 そういや、相互評価システムのこと忘れてた。初日の弟子のタラコ同様、セメントモリも10だな。大物NPC相手によく頑張ったもんだ。うんうん。チョイチョイと。



 その後、マークスさんを待ちながら床を埋め尽くす鉄鉱石をリオンレージに仕舞っていく。


「これ、まとめて出し入れできんもんかね」


 鉄鉱石を仕舞いながらマークスさんの話を思い出す。


 …精錬かあ。そういや昔父親に連れてってもらったことあったな。たしか「たたら場」だったけか。炉に砂鉄と石炭を入れて下から風を送って何日も高温で燃やし続けるってことだったよな。


 「大昔の技術なのにすごいなあ」とか言って技術職の父親が鼻の穴膨らませてたっけ。なんの仕事してんのかは知らんけど…。



 …でも、この工房にたたら場なんてあるか?


 工房内を見渡すが、炉と言えるものはいつもの鍛冶をする炉しかない。でもこれは鉄を打つために加熱するための炉で、鉄鉱石を溶かす溶解炉じゃない。前に見たのはデカい風呂桶のような四角い箱だった覚えがある。


「となると、別の場所か?」


 工房の窓を開けて外を確認する。すると、裏庭の隅に小さな小屋が見えた。天窓がいくつもある。熱を逃がすための天窓があるってことはつまり…。


「あそこがたたら場かな?」


「おう、どうした、外なんか見て」


 窓から外を覗いていたら手紙を持ったマークスさんが戻ってきた。


「ああ、溶解炉か。よくわかったな。あそこが鉄鉱石を精錬する溶解炉の小屋だ。精錬するときは丸一日寝ないで火の番をするんだ。大変なんだぞ」

「え、一日?」


 リアルでは数日かかるはずだが、さすがにここはゲーム仕様か。っていっても丸一日かかりっきりってのは流石にきついだろう。


「まあ、どうしてもの時は助っ人を呼ぶんだがな。その辺は臨機応変だ。で、話を戻すが、この手紙を北の街の武具会館にいるモルスに渡してくれるか」

「あ、はい、お預かりします」


 よし、じゃ、今日中に渡してくるかな。


 マークスさんから手紙を預かって早速、店を出る…はずだったのだが。


「ああ、スプラさん」

「あ、セーキマッツ」


 工房から店内に出ると、そこには極仙蜘蛛戦で真っ先に死に戻ったセーキマッツがうろついていた。俺を見るなり駆け寄ってくる。


「スプラさん、ここだったのですか。ちょっと今大変で。スプラさんを探してたのですよ」


「探す? なんかあった?」

「はい、アリアリです。ミーナさんがヤバいんですよ。早く一緒に来てください」


 …あ、そうだった。忘れてた。



❖❖❖レイスの部屋❖❖❖


ちょっと、なに、その鉄鉱石の数。

一瞬バグかと思って身構えちまったじゃねえかよ。


でもこれだけあれば当面の鉄不足は解消されそうだな。

ただ、そうなんだよな、本格的な精錬施設なんてこの街にはねえからなあ。


よし、小僧、いっそお前が精錬施設を作れ。

ほら、いつものピカーンって光る称号のアレで。


【なんちゃって鍛冶ピエロの使い捨て精錬場】って名前はどうだ?

それとも【気まぐれピエロのやらかし精錬場】にするか?


あ、そうだ、先に称号効果担当に伝えとこう。

えっと、称号【不断の開発者】効果担当は…え? コンタクト権限なし?

あれ? 俺、管理AIだよな? 権限ないの? 嘘?



―――――――――――――

◇達成したこと◇

・鉄不足についてセメントモリから情報をもらう。

・更新:<武器屋マークスの困りごと>→<武器屋マークスの秘密依頼>

・セーキマッツと会い、ミーナの事を忘れていたことに気づく。



◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]

 肩書:なし

 職業:創菌薬師

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1(+33)

 敏捷:1(+53)

 器用:1

 知力:1

 装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)

 :飛蛇の真道化靴【敏捷+53】

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】【寸劇Lv3】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv4】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】【採掘Lv10】【菌創薬Lv8】

 所持金:約1000万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密ハンター】【秘密開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】

 従魔:ネギ坊[癒楽草]


◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>

●特殊クエスト

<シークレットクエスト:武器屋マークスの秘密依頼>new!

〇進行中クエスト:

<眷属??の絆>



◆星獣◆

 名前:リオン

 種族:星獣[★☆☆☆☆☆]

 契約:小人族スプラ

 Lv:20

 HP:310

 MP:445

 筋力:48

 耐久:46【+42】

 敏捷:120

 器用:47

 知力:69

 装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】

 :赤猛牛革の鞍【耐久+12】

 :赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】

 固有スキル:■■■■ ■■■■

 スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】【躍動】【跳躍Lv2】



◆契約◆

 名前:ネギ坊

 種族:瘉楽草ゆらくそう[★★☆☆☆]

 属性:植物

 契約:スプラ(小人族)

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:3

 耐久:3

 敏捷:0

 器用:1

 知力:5

 装備:【毒毒毒草】

   :【爆炎草】

   :【氷華草】

 固有スキル:【超再生】【分蘖】

 スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】

 分蘖体:ネギ丸【月影霊草】



《不動産》

 畑(中規模)

 農屋(EX)


≪雇用≫

 エリゼ

 ゼン

 ミクリ

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