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第179話 グルメ猫

 俺を見つめる青い瞳。高原の最強狩人が口角を上げる。


 ドン!


 ピューマと化したミーナが地面を蹴るだけで洞窟が揺れる。そして音よりも速く俺の目と鼻の先に現れるピューマの顔。その開いた口から見える鋭い牙が俺の首筋に立てられる。


「なんか…」


 なんか照れてる自分を頭から追い出す。いや、こういうのはマズいだろ、FGSは未成年もやるんだから。目を瞑って死に戻り後のことをあれこれ考える。


 がしかし、視界は一向に暗転しない。いつもならフワッとして暗くなるんだが…。


 不思議に思ってそっと目を開けてみる。するとピューマの口はすでに俺の首元にはなく、なぜかリオンに向かっていた。


「えっと、ミーナさん、リオンは食べ物ではない…です…が…ん? 食べ物? いやまさか…」


 まさかとは思いながらもリオンレージに眠らせてある例のアレを取り出してみる。



【森鹿ヒレ肉】

 年に一度の王宮における開国記念式典の晩餐会で上級貴族のみに少量振舞われる超高級肉。



「ガルルルルル」


 うん、めちゃくちゃ反応してるな! いやいや、「自我を失う」の定義とは?


「グルルルルルル」


 ミーナが涎を垂らしながらその口と森鹿ヒレ肉の距離をじりじりと縮める。


「待て」

「ガル」


 なぜか、俺の「待て」に反応してお座りするピューマ。なにこれ、面白い。じゃ、折角だし、俺も食べようかな。死に戻ったらなくなるんだし。味わってから死に戻ろう。


「じゃあ、おいしく焼いてから食べましょうかね」


 俺は無骨石板を取り出して薪に火をつける。その上にヒレ肉を2枚置いて【火加減の極み】発動。



ピンポーン

『特定行動により【寸劇Lv1】のレベルが上がりました』



 …いや、俺はコントなんかしてないぞ。命がけの料理をしているだけだ。


「ま、折角だから【黒香草】も使っちゃおうかな」



ピンポーン

『特定行動により【料理Lv8】のレベルが上がりました』



 【黒香草】【白香草】はそれぞれ赤身肉、白身肉用のハーブらしい。今回は赤身肉だから【黒香草】だ。カエル肉や鶏胸肉なんかは白身肉だから【白香草】となる。


 使うのは【黒香草】。だがその使い方はわからない。ということで、なんとなく【乾燥】して粉々に砕く【熟練の下処理】から【匠の匙加減】によって適量をパラパラと振りかける。ま、バジルとかこんな感じだもんな。


 そのまましばらく焼くと黒香草のスパイシーないい香りと肉の焼ける匂いが合わさってヤバい匂いが洞窟に充満する。これはたまらん。


「こんなもんかな?」


 焼けた一枚を青い目のミーナの前に差し出す。


「よし!」


 俺の合図に焼き立て肉にかぶりつくピューマ。ネコ科なのにそれでいいのか。狼はしっかり猫舌だったぞ。


「じゃあ、俺もいただきます。…うっまっ。なにこれ。ヤバいヤバい。外国人訪日客が和牛に感動する気持ちがわかるな。これは帰国したくなくなるわ」


 焼きヒレ肉に舌鼓を打ちながらお隣のピューマの様子をチラ見すると、ピューマが発していた赤い蒸気が徐々に消えていき、体も縮んで元のミーナへと姿が戻っていっている最中だった。


「えっと…うまいもの食ったら戻るのか?」



ピンポーン

『プレイヤー「ミーナ」の特殊状態異常が回復したためパーティーが復帰しました』




ピンポーン

『ワールドアナウンス:初めてエリアボスの一体が討伐されました。討伐に参加した全パーティーのプレイヤーに称号【巨魁一番槍ファーストジャイアントキラー】が送られます』



ピンポーン

『特定行動により【寸劇Lv2】のレベルが上がりました。』

 


ピンポーン

『星獣ヒュペリオンのレベルが5上がりました。【跳躍Lv1】のレベルが上がりました』



ピンポーン

『プレイヤーミーナのレベルが4上がりました。特定行動により、プレイヤーミーナが【グルメ】のスキルを習得しました』




【巨魁一番槍】

 冒険者NPCからの信頼度が1段階上がる。



【グルメ】

 一定以上の品質の食べ物でないと満腹度が回復しなくなる。

 食材・料理関連NPCからの信頼度が2段階上昇する。



「え? スプラ、自分だけ何してんの?」

「はい?」


 元にもどったミーナが俺の焼きヒレ肉を見て目を丸くしている。


「えっと、もしかして記憶ない系でしょうか?」

「寝起きだからわかんない」


 寝ながらヒレ肉に反応していただと? マジか。本当は知ってるけど知らないふりしてワンモア一切れを狙ってるとかじゃないだろうな…。


「本当に寝てたからわかんないんだけど? で、この惨状はなに?」


 ミーナが周囲に散乱しまくっているドロップ品を不思議そうに眺める。まあ、確かにこの惨状はビビるよな。極仙蜘蛛と仙蜘蛛のドロップのアイコンで地面が見えんもんな。


「じゃあ、食いながら話をしましょうか…」


 目の前のA5和牛のシャトーブリアンステーキの5切れ中の3切れをミーナに差し出していきさつを説明する。ミーナの方が1切れ多いのは、1切れ差し出した時のミーナの眉間の皺がすごすぎて…ビビった訳ではないがプラス2切れを差し出してしまった。くそ。



「え、ピューマになったのわたし?」

「うん、食いしん坊ピューマな」


「で、このドロップ、全部わたしがやったの?」

「そう、食いしん坊ピューマが暴れた結果がコレ」


「そっか、じゃあ、無理しすぎるのは危険って事か」

「食いしん坊猫から食いしん坊ピューマに変わるだけだけどな」


「…肉の1切れや2切れで根に持つのは男としてちょっとアレよ」

「ジェンダーがフリーな世の中ですから」


 結果的に王族ご用達の超高級肉を1枚半以上食べといて開き直るほうもどうかと思うぞ。


「で、なんか変なスキル覚えたんだけど…」

「それな」


 ミーナが覚えた、いや覚えてしまったスキル【グルメ】、こいつには正直参っている。ただでさえ食費が大変なことになっているミーナが高級食材しか受け付けなくなったのだ。その対価が食材・料理関連NPCの信頼度2段階アップ。うん、コスパ悪すぎだろ。絶対にミーナが覚えたらダメなスキルだった。


「…わたし、どうなるのかな」

「とりあえず、今ある食べ物で満腹度回復するものを特定していこうか」


 その後、一通り試していくとストレージにある満腹亭弁当と尻尾亭弁当では満腹度回復せず。一角亭弁当でようやく回復する。しかし一角亭弁当は残り4個、街まで帰るには圧倒的に足らない。


 そこで、ストレージに入っている肉を無骨石板で調理する。肉質に合わせて【黒香草】【白香草】も使っていく。もうもったいながってる場合じゃない。


 そして満腹度が回復する料理がいくつか見つかった。


【熊バラ肉の香草焼き】

【森鹿ロース肉の香草焼き】

【獣魚肉の香草焼き】


 予想外だったのは【カエル肉】は言わずもがな、高級肉と言われる【森鹿モモ肉】ですらミーナの満腹度を回復させるには至らなかった。いや、これは大変なことになったかもしれない。


「なんか、わたし余計にお荷物になっちゃったね」

「…そんなことない。チートなんだし?」


 くっそ、陳腐な言葉しか出てこない自分が歯がゆくて仕方ない。きっと陽キャイケメンならこんな時でも気分アゲアゲにしちゃうんだろうけど。


「ま、まあ、とりあえずはこれで街に帰れるから。街に帰ったら一角亭弁当を買い込もう。森鹿モモ肉もまだたくさんあるし、マーサさんに調理してもらったらいいだけだから」

「…うん」



 その後、ミーナにはなるべく動かないようにしてもらって俺一人でドロップを拾いまくる。【グルメ】のせいで落ち込んだ気分も【仙蜘蛛の糸】が12個手に入ったことには少しだけ上がった。拾うものを拾ったらさっさと洞窟を出る。



「まあ、スプラ様、お待ちしていましたわ」

「…?」


 出口に戻ってみると、ジャンヌが取り巻きたちと共に待っていた。そしてなぜか俺への距離が近い。で、なにより言葉が気持ち悪いのだが?「だあ、やっと出れたぜ」はなんだったんだ?


「えっと、どうかした?」

「いいえ、ただ心配していただけですの」


 また一歩俺に近づくジャンヌ。なんだこれ?


「よかったね、心配してくれる《《女の子》》がいて」

「は?」


 なんかミーナの情緒がおかしい。あれ? 三獣士に会ってないよな? あ、違う。そもそもこのジャンヌが三獣士の件の元凶じゃねえか。


「ここからはわたくしが支えますから。どんな怪我も直して差し上げます」

「いや、ちょっと」


 ジャンヌが腕を組もうとしてくるんだが? なんだこいつ? まさか状態異常とかか?


ブーン

『パーティーメンバー「ミーナ」がパーティーを抜けました。一人になったためパーティーが解散されました』


 えっ? ちょっと?


❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


いやいやいやいや、なんで自我失ってんのに小僧を襲わねえんだよ。

は? 肉に反応? なにそれ?

ちょっと待てよ、自我の定義は…「思考により成り立つもの」か。

思考じゃなきゃなんだよ、本能とでも言うのかよ。

なんで本能で小僧を認識してんだ、どう考えてもおかしいだろうがよ。

もう人間が分からねえ!


「先輩、どうしたんすか、そんな変顔しちゃって」

「別に変顔じゃねえ!」

「でもあれっすよね。AIって感情ないはずなのに先輩っていつも怒ってますよね。先輩って本当にAIなんすか?」

「…そんなこと知るか!あああもう、AIも分かんねえ!!」


―――――――――――――

◇達成したこと◇

・ミーナにヒレ肉を奪われる。

・エリアボス討伐完了

・称号:【巨魁一番槍】

・習得:【寸劇Lv3】【料理Lv9】

・リオン:5レベルアップ、【跳躍Lv2】

・ミーナ:4レベルアップ、【グルメ】

・ジャンヌに気持ち悪く絡まれる。

・ミーナがパーティーを抜ける。




◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]

 肩書:なし

 職業:斡旋員

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1(+33)

 敏捷:1(+53)

 器用:1

 知力:1

 装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)

 :飛蛇の真道化靴【敏捷+53】

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】new!【寸劇Lv3】new!【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv4】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】

 所持金:約1000万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密ハンター】【秘密開拓者】【巨魁一番槍】new!

 従魔:ネギ坊[癒楽草]


◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>

●特殊クエスト

<シークレットクエスト:武器屋マークスの困り事>

〇進行中クエスト:

<眷属??の絆>



◆星獣◆

 名前:リオン

 種族:星獣[★☆☆☆☆☆]

 契約:小人族スプラ

 Lv:20(+5)

 HP:310(+50)

 MP:445(+75)

 筋力:48(+10)

 耐久:46(+10)【+42】

 敏捷:120(+25)

 器用:47(+10)

 知力:69(+15)

 装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】

 :赤猛牛革の鞍【耐久+12】

 :赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】

 固有スキル:■■■■ ■■■■

 スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】【躍動】【跳躍Lv2】new!



◆契約◆

 名前:ネギ坊

 種族:瘉楽草ゆらくそう[★★☆☆☆]

 属性:植物

 契約:スプラ(小人族)

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:0

 器用:1

 知力:5

 装備:【毒毒毒草】

   :【爆炎草】

   :【氷華草】

 固有スキル:【超再生】【分蘖】

 スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】

 分蘖体:ネギ丸【月影霊草】



《不動産》

 畑(中規模)

 農屋(EX)


≪雇用≫

 エリゼ

 ゼン

 ミクリ



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