第176話 極仙蜘蛛と肉
「リオン、行くぞ!」
『ヒヒーン!』
目の前で対峙する極仙蜘蛛と繭モンスターたち。リザードドッグ3体は巧みな連携で互いを庇い合い、なんとか一進一退の攻防を続けている。このチャンスは逃せない。背後の子蜘蛛はリオンに任せ、俺は天井の繭を次々と落とし、黒曜ダーツで裂いていく。真ピエロブーツのおかげで敏捷も爆上がり、流れるような動きで作業が進む。
そして、リザードドッグ3体が極仙蜘蛛の攻撃でポリゴン化する頃には、50体以上の繭モンスターを救出していた。ただ、残念ながら1/3はチックリ、もう1/3は飛蛇で、これらは速攻で逃げていった。
だが残り――熊型が5体、リザードドッグが6体、三獣士をガブガブしてた犬型が8体――こいつらが子蜘蛛を一気に殲滅し、いまや全員が極仙蜘蛛に向かっていく。
「よし、お前ら、そのデカ物をガブリンチョしてしまえ!」
俺の声に反応…はせず、それぞれのタイミングで極仙蜘蛛に襲い掛かる繭モンスターたち。その姿を見ていたら、心にある考えが芽生えてしまった。
……これ、ワンチャン倒せるんじゃね?
『ブルヒヒン』
リオンは逃げたがってるけど、湧き上がったこの気持ちは止められない。
「極仙蜘蛛が気を取られてるうちに――」
ストレージから爆裂ポーションを取り出し、
「くらえ! 爆裂ポーション&狙撃&栗々散弾狙撃!」
ドッカーーーーン!
洞窟内に轟音が響き、ものすごい熱気と風圧が吹き荒れる。が、【仙蜘蛛の真道化服】とリオンの【熱耐性】【かばう】によってなんとか無傷でやり過ごす。
ピンポーン
『星獣リオンのレベルが上がりました』
炎が燃え続ける数十秒間、俺はただ見つめていた。さあ、極仙蜘蛛よ、お前のドロップを見せてくれ。できればレアドロップでお願いしたい。
やがて炎が収まり、煙も晴れて視界がクリアに。地面にはドロップの山、そして――中央に鎮座する巨大な繭。なんだこれ、ボスドロップか? アイコンもなしに明確な姿……まさか【皇小鬼の呪大斧】枠?
「ま、まあ、とりあえずドロップ回収っと」
ボスドロップの繭は一旦放置して、周囲のドロップを回収。熊型から【熊胆】【熊バラ肉】、猪型から【猪牙】、犬型から【犬歯】、リザードドッグから【ドッグ革】など。
「問題はこのデカい繭だよな。今度は名前表示もされてないし……リオン、収納できる?」
『ブルヒヒン』
『できるわけねえだろ、さっさと逃げるぞ』的な反応。逃げるって…… 何から?
ザクッ
「ん? 今、変な音しなかったか?」
ザクザク……
「あれ? 危険察知? はっ!?」
嫌な予感を胸に急いで繭の背後に回ると、そこには繭から突き出る巨大なノコギリのような脚――
ギシャーーーーーーーーー!
「ヤバい、リオン、逃げるぞ!」
『ヒヒーン!』
リオンが【躍動】でトップスピードに。そこから【跳躍】を交えつつジグザグに出口へ向かう。
ギシャギシャーーーッ! ダンダンッ!
しかし、極仙蜘蛛が脚で地面を叩くと、逃げ道の天井からまたしても仙蜘蛛が降ってくる。また50匹近い大群だ。
『ブルヒヒン』
それを見てリオンが立ち止まる。背後には音もなく近づいてくる極仙蜘蛛。暗闇の中、光る赤い光……え?
「あれ? 目が減ってる?」
さっきは8個あった赤い眼が、今は5個だけ。上段の3つが消えている。
「……ってことは?」
ノーモーションで黒曜ダーツを【狙撃】。
キーン!
極仙蜘蛛が即座に脚で目を覆い、弾かれたダーツが俺の足元に戻ってくる。だが、全ての眼を5本の脚で守るその姿からは、余裕が消え、焦りすら見える。
「なるほど、弱点は“眼”ってわけか……ま、でも今さらだな」
先の混戦時に気づいてたら何とかなったかもしれない。でも今は完全に挟み撃ちの状況。これでは弱点が分かったとてどうにもならん。くそ。
「リオン、一か八かで子蜘蛛に突っ込むぞ! 糸は俺がどうにかする!」 『ブルヒヒーン』
リオンから伝わってくるヤケクソ感。そりゃそうだ。50匹の糸をかいくぐるなんて無茶だ。でも、最後まで足掻くのもまた冒険者の務め。リアルでもクソ上司のパワハラに足掻きながら生きてきたんだからな。
「じゃ、行くぞ、リオン!」
『ヒヒーン!』
危険察知が教えてくれる無数の蜘蛛糸。その網目のような赤い光が、俺たちの悪あがきをあざ笑っている。
「黒曜ダーツ散弾狙撃・乱れ撃ち!」
4本の黒曜ダーツが40本に分裂、赤い網を切り裂いていく。開いた穴へリオンが跳躍。ギリギリで網を抜ける。
「よし、行けた――おわっ!?」
『ブルヒヒーン!』
抜けたと思った瞬間、リオンの体勢が乱れ、ガクンと勢いが落ちる。俺は【騎乗】のおかげで振り落とされず共に横転。ダメージ4。
「リオン、どうした!?」
『ブルヒヒン……』
後ろ脚がバタバタともがいている。【危険察知NZ】が教えてくる脚に絡まる赤い蜘蛛糸。その糸の先――そこは極仙蜘蛛のデカい尻。そして、視界全体を真っ赤に染め上げていく危険反応。これは…
「マジかよ……。ここで死に戻り……」
あ、そうだ、ミーナを呼ぶか? でもチートは1回15秒、流石に無理か……
キシキシキシ……
ギシャーーーッ!
「……ん? なんだ?」
諦めが頭をよぎったその時、仙蜘蛛たちが急に慌ただしくなった。俺への敵意が薄れ、視界の赤みが消えていく。なんなんだ、なにが起こった?
「スプラ、なにやってんの!」
「うわっ!?」
突然現れたミーナ。来ると思ってなかったからめっちゃビビった。
「ボス戦始まっちゃって!」
「もう、ピエロ君なんでいつもいつもそうなるの。危険中毒なの?」
いやいや、普段は畑で野菜作ったり、薬調合してる平和なピエロですが?
「爆発音はするは飛蛇は飛んでくるわで、心配になって来てみたらコレだもん!」
「まあ、いろいろあってさ。でもなんか敵意が薄れてきてるみたいなんだ」
「わたしが【挑発NZ】使ってるのよ」
「マジで!?」
いやいや、いくらチートとはいえこの数は無謀じゃないか? 君、単体攻撃しかないでしょ?
「わたしが無策で来ると思ってるの? ちゃんと“連れてきてる”わよ」
連れてきてる? 誰を? ジャンヌ一味か?
「ほら、来たわよ」
ミーナの顎先を追って出口側を見ると、音もなく現れた飛蛇の群れ。ああ、そういうことか。って、どうやって?
「【魔好香】使ったらすぐ来たわよ。そこから【挑発NZ】で誘導してきたの」
なるほど……挑発、そういう使い方もできるのか。……ミーナさん、もしかしてIQ高い?
「IQなんて当てにならないわよ」
心の声にフツーに答えてくるミーナ。俺もIQ信じてないけど、ミーナの心読み能力だけは信じるようになってきている。
と、その間に飛蛇 vs 仙蜘蛛がスタート。
ギシャーーーーーッ!
キシキシキシ……
極仙蜘蛛が飛蛇に囲まれて鬱陶しそうにしている。子蜘蛛も苦戦しながら数を減らしている。
「さあ、今のうちに逃げるわよ」
【挑発NZ】を切ったらしいミーナが出口を指す。今なら間違いなく逃げられる。でも……
「実はミーナさん、こんなのが取れちゃったんですが……」
【熊バラ肉】
大陸北地域に生息する熊型モンスターの腹肉。珍味として高級品。
「珍味?!……どうやって?」
「天井の繭の中に熊がいるかも」
洞窟の奥にうっすらと見える繭を指す。
「……よし、あの邪魔なデカブツをやっちまいましょう!」
「……だよな」
❖❖❖❖ レイスの部屋 ❖❖❖❖
おお、あの腹ペコ猫、やるじゃねぇか。
スキルは応用してなんぼ。
小僧、これがスキルってもんだ。
やたらめったらに数だけ覚えりゃいいってもんじゃねぇぞ。
「先輩、ダイジェスト映像できましたよ」
「え? もう?」
「アルゴリズムで一発っす」
「でも、お前、見てないだろ、小僧のこと」
「条件だけ指定して、マスターが好きそうなとこ繋げばいいんすよ」
「え、なにそれ……」
「やだなあ、先輩。仕組みを少し応用しただけじゃないっすか」
「 応用……? えっ?」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・爆裂ポーションで繭モンスターを全滅させてしまう。
・リオン:Lv15
・繭モンスターのドロップ入手
・ミーナに助けられる。
・ミーナ、地頭良い説。
・熊肉を見せてミーナのスイッチオン。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:なし
職業:斡旋員
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)
】
:飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv8】【寸劇Lv1】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv4】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】
所持金:約1000万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密ハンター】【秘密開拓者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:武器屋マークスの困り事>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:15(+1)
HP:260(+10)
MP:370(+15)
筋力:38(+2)
耐久:36(+2)【+42】
敏捷:95(+5)
器用:37(+2)
知力:54(+3)
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】【躍動】【跳躍Lv1】
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【氷華草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




