第175話 仙蜘蛛洞窟の戦い
ブーン
『パーティーメンバーのセーキマッツが死に戻ったことにより、セーキマッツとのパーティーが解除されました』
「はい?」
ドロップが集まったところで戻ろうとしたら、聞き覚えのあるアナウンスが流れてきた。あれ? デジャブ? いやいや、前はリオン救出の時だったし。ってことは、これ二回目? は?
「…うん、まあ、セーキマッツには糸見えないもんな。しゃーない…かな。んじゃ戻ろっか、リオ……ん?」
出口に向かおうとしたら、左右の視界が同時に赤く染まる。なんだ?
「あれ? まだ仙蜘蛛が残ってたか?」
一応俺もセーキマッツ同様、仙蜘蛛対策はしてきた。といっても、黒曜ダーツと大どんぐりを連続で散弾狙撃するだけなんだけど。黒曜ダーツで糸を切って、どんぐりで仕留める。ただそれだけ。リオンに騎乗していれば、それでも対処可能なはずだ。
黒曜ダーツと大どんぐりをストレージから取り出しながら、後ろを振り返る。
「ぐわっ、なんじゃこりゃ」
暗闇の一部が凄まじいほど真っ赤に煌めいている。まるで素材融合かってくらいの赤さだ。
急いで光度を落とすが、それでも強烈すぎて見えない。仕方なくスキルを一旦切ると、洞窟の奥――真っ赤に輝いていた場所に、青く光る八つの大きな光点が見えた。四つずつ、横二列に並ぶそれは、ゆっくりと明滅している。さっきのがパチンコ玉なら、今度のはバスケットボール級だ。で、そこまで確認した時――すごく嫌な予感がした。
ギシャギシャギシャギシャギシャギシャ
【極仙蜘蛛】
仙蜘蛛の親。
……これ以上なくシンプルな紹介だな、レイス! もうちょっと仕事してくれてもいいんだぞー!
ギシャーーーッ!
ダンダンダン!
俺の三倍はあろうかという巨大な極仙蜘蛛が、威嚇のつもりか、馬鹿でかい脚で地面を叩きまくる。その振動と同時に、背後からボタボタと何かが落ちる音。振り返ると、退路が子仙蜘蛛でびっしり埋め尽くされていた。その数、およそ50匹。つまり、俺は極仙蜘蛛と子仙蜘蛛の群れに挟まれた、というわけだ。これじゃ【逃走NZ】も使えない。
「マジかよ……やられたな」
『ブルヒヒン!』
リオンも焦っているらしい。俺としてもこれは想定外すぎる展開だ。強引に退路をこじ開けようにも唯一有効な武器である黒曜ダーツはまるで足りない。って事は、いきなり奥の手を使うしかないらしい。
「凍結ポーション&狙撃!」
凍結ポーションを子蜘蛛の群れに投げ込み、狙撃しようとする。
シュシュシュシュシュ
「……は?」
凍結ポーションが狙撃される前に繭になった。そしてその繭が、どんぐりの散弾をすべて弾いてしまう。
マジかよ? ってことは黒曜ダーツしか通用しない?
「くっそ、勿体ないけど仕方ない。散弾狙撃・黒曜ダーツ!」
黒曜ダーツが10本に分かれて群れに向かって飛んでいく。
シュシュシュシュシュ
子蜘蛛が放つ蜘蛛糸をすべて切り裂き、8体をポリゴン化。密集しているおかげで効率は上々だ。
「じゃあ、どんどん食らいやがれ」
続けて黒曜ダーツを連射。5本使ったところで、子蜘蛛は残り1/4にまで減少した。だが、ここで問題も発生する。数が減ると隙間が広くなり、命中率が下がってしまうのだ。
「こりゃ、最後は一体ずつ狙ったほうがいいな……」
ギシャギシャギシャギシャギシャギシャーーッ
残りの殲滅方法を考えていると、極仙蜘蛛の絶叫が洞窟に響く。振り向くと、さっきまで青かった目が真っ赤に変わっていた。いやいや、その演出はダメだって。腐った森のどでかい虫のパクリって言われるぞ。
『ブルヒヒン!』
俺が心の中でツッコんでいると、その時、リオンが突然、横っ飛び! 【跳躍】スキルを覚えてからというもの、リオンの横っ跳びの勢いは尋常じゃない。この首への衝撃、リアルならムチ打ち必至だ。
跳んだ先を見やると、さっき俺が立っていた場所に、小山のような白い物体――繭になり損ねた糸が山積みになっていた。
「……この親蜘蛛、どんだけ糸吐くんだよ」
ギシャー
『ヒヒーン!』
ギシャー
『ヒヒーン!』
ギシャー
『ブルヒヒン!』
糸を避けていたリオンが急に動きを止めた。
「リオン、脚どうかした?」
リオンが右後ろ脚を必死に動かそうとしている。急いで【危険察知NZ】を有効化。そこには赤い糸がしっかりと絡まっていた。その糸の先には子仙蜘蛛の群れ。キシャキシャと笑ってやがる。
「黒曜ダーツ!」
ダーツで糸を切断。リオンは即座に再び跳躍してその場を離れる。
ギシャギシャーーッ!
だがその間に、極仙蜘蛛が信じられないスピードで距離を詰めてきていた。目の前に迫るその巨体。見上げるほどの高さから、赤い目で俺をじっと見下ろしてくる。
ギシャーッ!
『ヒヒーン!』
「散弾黒曜ダーツ!」
極仙蜘蛛が糸を吐こうとした瞬間、リオンが跳躍し、俺はダーツを放つ――
ギシャーッ!
キンキンキンキン!
「うっそ、マジ?」
俺が撃った黒曜ダーツは、すべて極仙蜘蛛の立派な脚によって弾かれた。いやいや、確かに固そうな脚だけど、黒曜ダーツまで弾くのかよ?
【黒曜爪】の説明には「他のあらゆるモンスター素材を凌駕する」とか書いてあったはずだぞ? それを弾くって、どうなってんだ。
……それはともかく、今のこの距離は危険過ぎる。ここは弾かれると分かっていても、撃ち続けるしかない!
「狙撃、狙撃!」
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン――スパッ ドサッ!
極仙蜘蛛はその巨体からは想像もつかないほどの俊敏さで、まるで北斗〇拳のように残像が見える動きで黒曜ダーツを捌いていく。
だが、その弾いた一発が、天井から吊るされていた繭に命中する。繭ごと極仙蜘蛛の頭の上に落下した繭。もちろん、それで極仙蜘蛛にダメージが入るわけはない。ないのだが――
「……え? なんでリザードドッグ?」
落ちてきた繭の中から這い出してきたのは、かつて南の森で世話になったリザードドッグだった。まさか、こんなところで再会するとは。
……くそ、まずはこいつを倒すしか――
ギシャーッ!
ガルルルル……
そう思ったのも束の間、極仙蜘蛛がリザードドッグに向かって威嚇を始めた。対するリザードドッグも戦闘態勢に入る。
え、まさかの――仲間割れ?
いや、違うな。繭に入ってたってことは、リザードドッグは“餌”だったんだ。つまり、こいつらは敵同士ってことか?
「え、ってことは……!」
天井を見上げると、まだ数十個の繭がぶら下がっている。
これは……いけるか?
「散弾狙撃!」
仙蜘蛛ではなく、天井を狙って黒曜ダーツを放つ。2つは空中でポリゴンになってしまったが、8つの繭を落とすことに成功。
ギシャーーッ!
それを見た極仙蜘蛛が怒りの咆哮をあげる。だが、俺と極仙蜘蛛の間にはリザードドッグが立ちはだかっている。
ガウガウッ!
リザードドッグが牽制している隙に、落ちた繭を黒曜ダーツで裂いていく。中から現れたのは、熊型や猪型、飛蛇、そしてまたしてもリザードドッグ。飛蛇4体は即座に逃走。熊と猪は子蜘蛛へ突撃。2匹のリザードドッグは、先の1体と合流し、極仙蜘蛛へと向かっていった。
「あ……もしかして、これが攻略方法だったのか?」
よし、続けて繭を落としていこう!
「それっ、散弾狙撃!」
モンスターたちの乱戦を避けつつ、さらに繭を落とし、黒曜ダーツで切り裂く。いくつかはポリゴンになってしまったが、それは仕方ない。
熊型モンスターは子蜘蛛の群れに突撃して3体をポリゴン化。しかし糸に絡まり繭化→即ポリゴン。猪型は2体をポリゴンに変えた後、こちらもポリゴン。
繭モンスター2体で子蜘蛛5体撃破。これなら、なんとか逃げ道が開けそうだ。
「リオン、やるぞ!」
『ヒヒーン!』
❖❖❖❖ レイスの部屋 ❖❖❖❖
お、小僧。まずはそこに気づいたか。
しっかし、本来なら【酸袋】を揃えて最前線のプレイヤーパーティーで挑むべき極仙蜘蛛を相手に、一人で……
まあ、黒曜爪なんてエンドコンテンツ用だもんな。
そんなもん持ってたら、こんな事態にもなる――
訳ねぇだろ!!
特級感知スキルに融合素材、特殊加工武器。おまけに一文字AIのZが独立騎乗型星獣になってて、ようやく可能性が見えるってレベルだぞ?
それを、さも当然のように戦ってやがって……。
って、ま、いいけどな。
小僧がどれだけ頑張っても、今回ばかりは――相手が悪すぎた。
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・会敵:極仙蜘蛛
・繭の中に味方モンスターがいることを発見
・モンスターに戦わせる戦術を確立
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:なし
職業:斡旋員
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)
】
:飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv8】【寸劇Lv1】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv4】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】
所持金:約1000万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密ハンター】【秘密開拓者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:武器屋マークスの困り事>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:14
HP:250
MP:355
筋力:36
耐久:34【+42】
敏捷:90
器用:35
知力:51
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】【躍動】【跳躍Lv1】
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【氷華草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




