第174話 仙蜘蛛の洞窟
「うわーん」
泣きじゃくる聖女を前に立ち尽くす俺と上空に目を泳がせるミーナとセーキマッツ。なにこの鬼のような状況。
「あ、あのさ、聖女さん、よかったら俺たち協力するからさ、とりあえず仲間の人たち助けに行こうか？ あ、これ食べる？」
ストレージから焼き森鹿肉ロース肉を取り出して譲渡してみると、一瞬でそれが消える。肉の行方を探すと目の前の聖女の口にガブリンチョされている焼肉。なんかどこぞの猫さんを彷彿とさせるな。
「誰が同類よ」
「言ってませんが？」
俺の心の声にすぐさまリアクションする猫姫は置いといて、今はこの食いしん坊聖女を何とかしよう。
「聖女さん、あのさ」
「ジャンヌ」
「はい？」
「聖女じゃなくてジャンヌ」
「…あのな、ジャンヌさん、今までやってきたの事ってのは変えられない。それはもう確定しちゃってるからな。でも、これから先のことは何一つ確定していない。自分で決められるんだ。自分が変わるなら未来も変わる」
昔何度も読み返した漫画の一コマを思い出すな。まさか自分が人にそんなこと言う日が来るとは。
「どうやって変わるってのよ。モグモグ。変わるなんてそんな簡単に言わないでくれる。モグモグ。変われるもんならとっくに変わってるわよ。モグモグ」
そうだよな。それはわかる。俺も今がそうだからな。でもさ。
「変わりたいって思ってるならそれは変わってきてるって事だと思うぞ。あとは失敗を恐れずに一歩踏み出すこと。俺たちが背中押してあげるからさ」
だー、もう、誰がどの口で言ってんだよ。恥ずかしいから早く決めろ、聖女。
「そうですよ。スプラさんの気持ち悪い励ましはともかくとして、行動せねば何も変わりません。一歩踏み出したいのなら我々がお手伝いしましょう」
「…ぷっ。確かに気持ち悪い。モグモグ」
うん、ジャンヌが笑ったのはいいが、俺の心はどうでもいいのか、セーキマッツ。
「（自虐ネタ？）」
「（ちゃうわ！）」
ミーナまでが心を抉ってくる。俺だって言いたくて言ったんじゃない…嘘、実はちょっと言ってみたくもあった。 そんな機会は死ぬまでないと思っていたが。
「ああ、もう、じゃあさっさと行くぞ。リオン、ハイヨー」
『フンス♪』
俺の気合のハイヨーでリオンが動き出す。そう、ゆったりと。いやいや、ここは勢いよく躍動してくれよ、リオンさん、マジでかっこ悪いから。
「あははは、かっこ悪い～」
「うっさい、早く行かないとみんな待ってるだろ。お前を信じて。ほら行くぞ！」
『ヒヒヒーン』
今度は勢いよく駆け出してくれたリオン。ジャンヌの仲間はまだ死に戻っていない。ってことはまだ彼女の事を信じて繭の中で待ってるってことだ。これは急がないといけない。洞窟に着くまでに準備を整えておくか。
…
「ここで間違いないな？」
「うん、この洞窟」
ジャンヌが仲間を連れて行かれた洞窟はリオンが連れて行かれた洞窟と同じだった。どうやって一人だけ逃げてきたのか不思議だったが、何人もの取り巻きが身代わりになってれたと渋々ジャンヌが白状した。それなのに一人で逃げようとしてたのか、コイツ。肝が据わってるというかなんというか。
「じゃ、入ろうか」
注意しながら洞窟に入るが、危険察知はまだ反応しない。どうもまだ仙蜘蛛に気づかれていないようだ。そのまま前回リオンが捕まっていたところまで移動をする。
「うわ、キモ」
「たしかにキモイですね」
ジャンヌとセーキマッツが天井からぷら下がる仙蜘蛛の繭を見て顔をしかめる。リオンからもなんとなく嫌そうな気持が伝わってくる。捕まっていたことを思い出しているのか。
「ジャンヌ、パーティーメンバーのHPは大丈夫？」
「うん、まだ半分以上あるかな」
「じゃあ、あの繭切り裂いていくから落ちてきたら出口まで連れてってくれ」
ついさっき繭にされたってことは一番手前の繭が仲間たちなんだろう。あの辺かな。
「じゃ、黒曜ダーツ！！」
繭を掠めるようにダーツで狙撃する。狙い通りに手前の繭が切り裂かれると、その裂き口からヌルンと出て来るプレイヤーのアバター。俺的には繭自体よりこのヌルンの方が気持ち悪い。
「やった、うわー」
「出れた、うわ」
ドサトサドサ
繭から出てすぐに落下するプレイヤーたち。
「びっくりしたー、あ、聖女様、やっぱり来てくださったんですね」
「え、あ、まあ、当然ですわよ」
ジャンヌが視線を泳がせながら皆を立ち上がらせる。
「あれ、もしかしてピエロ君？」
「ああ、ピエロ君じゃん。それに猫姫もいる。どうなってんの」
二陣と思われる奴らが騒ぎ出すが、今はその相手をしている場合じゃない。リオンの時と同じように繭を切った瞬間から危険察知がガンガンに反応しているのだ。
「ジャンヌ、さっさと出口に向かえ。すぐに来るぞ」
「さ、皆さま、出口に向かいますわよ」
俺とミーナに近寄ろうとする二陣たちの背中を押して出口に向かわせるジャンヌと取り巻きたち。
「来るぞ、ミーナ、セーキマッツ」
「準備完了、モグモグ」
「スプラさん、ミーナさん、ここはわたしに任せてください。この汚物達には大きな借りがありますので」
セーキマッツが俺とミーナの前に出る。この前は速攻で死に戻りになったが事やっぱり悔しかったのか。北門で平気そうだったのは強がりだったらしい。
「さあ、全部まとめて消毒の時間だ～！」
セーキマッツの声に反応してか、洞窟の奥に小さな青い光が点々と現れる。そして鼠算式に増えていく青い光。洞窟の奥が全て青い光で埋まる。危険察知越しではもう暗闇は真っ赤に染まっている。
「すごい数だ、セーキマッツ気をつけろ」
シュシュシュシュシュシュ
洞窟内が仙蜘蛛の発する威嚇音で満ちた時、無数の赤い糸が一斉にこちらに向かって飛んできた。
「糸、来た！」
ここでセーキマッツが動く。ストレージから何かを取り出したようだ。…ん？ あ、それ見たことあるんだけど。
「奥義、アシッドファイヤー」
取り出した【酸袋】を片手に炎魔法をぶっ放すセーキマッツ。飛んできた蜘蛛糸が全て地面に落ちて煙を上げる。これは、もしかして仙蜘蛛の糸は酸で溶けるってことなのか？
作りたてほやほやの【仙蜘蛛の真道化服】を見る。…これ溶かしたらマークスさんに顔向けできんな。
「はははっ、さあさあさあ、汚物は消毒消毒消毒ヒャッハー！」
調子が出て来たセーキマッツが酸入り炎を放ちながら洞窟の奥へと移動していく。リアルだったら間違いなく酸欠で窒息するだろう光景が繰り広げられる。しかしここは仮想現実、酸欠とか一酸化炭素中毒はない。
しばらくして洞窟の先で金色の光が現れ始める。どうやら仙蜘蛛の殲滅が始まったようだ。
「どうする、スプラ。大丈夫そうだし戻ろうか。聖女たちも心配だし」
「うーん、でもドロップがなあ」
仙蜘蛛の糸はおいしいドロップ。すぐそこにドロップがあるのにそれを放っていくのは流石にもったいない。
「ミーナ先に行っててくれる？ 俺はリオンとドロップ拾ってから行くから」
「うん、わかった」
サッと姿を消すミーナ。俺はドロップを集めに洞窟の奥へと進む。
「おお、メチャクチャ落ちてるな。これはありがたい」
しばらく進んで広い空間にたどり着くと、辺り一面がドロップだらけだった。念のため空間内を確認すると、天井にびっしりと繭が吊り下がってはいるが危険察知にはなんの反応もない。
「大丈夫…そうだな」
安全が確認できたところでリオンから降りてドロップを拾いまくる。リオン越しにでも取得できるが、広いと言ってもここは洞窟。小回りが利くため自分で拾っていく。新ブーツのお陰で敏捷マシマシのため、ドロップ拾いもサクサクと進む。ストレージにすごい勢いで【蜘蛛の脚】と【仙蜘蛛の糸】がたまっていく。敏捷って本当に大切だな。
「さてと、だいぶ集めたしそろそろ戻ろうか…」
ブーン
『パーティーメンバーのセーキマッツが死に戻ったことによりセーキマッツとのパーティーが解除されました』
はい？
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
おいおいおい、また行くのか。
懲りねえ奴だな。
言っとくが、今回は甘くねえぞ。
いくらチートがいるとしても…2つくらい潰して逃走ってところか。
ま、下手すりゃ全滅だ。
引くなら今の内なんだがな。
なんかボーっとしてるし無理そうだ。
あ、でも一応プロモ用に撮っとこ。
有名人の小僧がやられるところもバズるかもしれんしな。
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・聖女に気持ち悪い励ましをして心に傷を負う。
・再び仙蜘蛛の洞窟に潜入する。
・ドロップに惹かれる。
・セーキマッツの死に戻りに頭の中が真っ白になる。
◆ステータス◆
名前：スプラ
種族：小人族
星獣：リオン［★☆☆☆☆☆］
肩書：なし
職業：斡旋員
属性：なし
Lv：1
HP：10
MP：10
筋力：1
耐久：1（＋33）
敏捷：1（＋53）
器用：1
知力：1
装備：仙蜘蛛の真道化服【耐久＋33、耐性（斬撃・刺突・熱・冷気・粘着）
】
：飛蛇の真道化靴【敏捷＋53】
固有スキル：【マジ本気】
スキル：【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv8】【寸劇Lv1】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv4】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼（薬草）】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】
所持金：約1000万G
称号：【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密ハンター】【秘密開拓者】
従魔：ネギ坊［癒楽草］
◎進行中常設クエスト：
＜薬屋マジョリカの薬草採取依頼＞
＜蜥蜴の尻尾亭への定期納品＞
●特殊クエスト
＜シークレットクエスト：武器屋マークスの困り事＞
〇進行中クエスト：
＜眷属？？の絆＞
◆星獣◆
名前：リオン
種族：星獣［★☆☆☆☆☆］
契約：小人族スプラ
Lv：14
HP：250
MP：355
筋力：36
耐久：34【＋42】
敏捷：90
器用：35
知力：51
装備：赤猛牛革の馬鎧【耐久＋30、耐性（冷気・熱）】
：赤猛牛革の鞍【耐久＋12】
：赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇（小）】
固有スキル：■■■■ ■■■■
スキル：【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬（極）】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】【躍動】【跳躍Lv1】
◆契約◆
名前：ネギ坊
種族：瘉楽草［★★☆☆☆］
属性：植物
契約：スプラ（小人族）
Lv：1
HP：10
MP：10
筋力：1
耐久：1
敏捷：0
器用：1
知力：5
装備：【毒毒毒草】
：【爆炎草】
：【氷華草】
固有スキル：【超再生】【分蘖】
スキル：【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体：ネギ丸【月影霊草】
《不動産》
畑（中規模）
農屋（EX）
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ
