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第172話 12日目 才能は自分では気づけないもの

 12日目ログイン。


 農屋で日向ぼっこ中のネギ丸から頂くものをいただいたら皆に挨拶。ネギ坊から『【紫艶草】は?』と催促を受けるが、まだ何を分蘖させたらいいのかわからず、「もっと高品質な鉢植えを探したい」という理由で先送りさせてもらった。だって、どれも人に見せられないのばっかりだし。


 農屋を出ると契約NPCの三人と挨拶。その場でゼン爺から三獣士がすでにそれぞれの畑で作業に入っていると報告を受ける。ちなみに弟子は取っていないらしい。四人娘の方は弟子の世話とアイザックさんのクエストで忙殺されているようだ。初心の自然派カフェはもう諦めたのか? で、最後に【白香草】【黒香草】が収穫できたことの報告を受け、少し分けてもらった。


 その後、エリザさんとミクリさんからも報告を受け、三人が畑に散っていくのを見送ってから俺も活動を始める。


 今日は午後からセーキマッツの地図に従って次の街を目指す予定だ。そのための準備もしたいところなんだが…、その前に一つ気の進まないことをしなければいけない。


 リオンに乗ってマークス武器屋に移動すると、その前には筋肉モリモリのゴリラ獣人が一人立っていた。アイコンを見ると水色。と言う事は、うん、今日の弟子はこのゴリラ君らしい。


「セメントモリさん、おはようございます」

「あ、スプラさん、今日はよろしくお願いします」


 よし、挨拶はできた。あとは流れのままにやって行こう。


「セメントモリさんは鍛冶志望ってことでよかったですか?」

「あ、はい。できるか分からないんですけど。僕、鍛冶をしたくてFGS始めたんです」


 なんかマッチョゴリラなのにモジモジしてるな。なんだ? 俺と同族か?


「パーティーの人とかはいないんです?」

「え、あ、そうですね。いない…です。やっぱパーティー組まないと無理ですかね…」


 なんかすっごい親近感が湧くな。


「大丈夫ですよ。FGSは自由度しかないですから。一人でも十分に楽しめますよ。それに従魔とか星獣とかもいますし」

『フンスフンス♪』


 リオンも話を聞いていたのかご機嫌に顎を上下させている。


「ポニーかわいいですね」

「リオンって言うんです。乗って移動できるんで助かるんですよ。あ、中に入ります? たぶん店主が待ってると思うんで」

「あ、はい」


 セメントモリを連れて武器屋に入る。


「おう、待ってたぜ」


 マークスさんが筋肉モリモリの腕を組んで待っていた。やっぱり待ってたか。


「おはようございます。こちら、俺の弟子のセメントモリです」

「せ、セメントモリです。お願いします」


 筋肉ゴリラのセメントモリが筋肉スキンヘッドのマークスさんにヘコヘコして挨拶している。なんだこの絵面は。


「おう、よろしくな。初心者っぽいが…うん、力はありそうだな。よし、じゃあ早速お願いしようか」


 そう言ってマークスさんは俺たちを工房に招き入れる。


「うわあ、すごいですね。本物の鍛冶場だ」

「おいおい、本物って。鍛冶場に偽物なんてないぞ」


 セメントモリ君、仮想現実の鍛冶場が本物とかややこしいから止めてくれないか?


「じゃあ、セメントモリ、今日一日俺と鍛冶するってことでいいんだな?」

「あ、はい。でも俺にできるかな。足引っ張ったらすみません」


「おいおい、やる前から何言ってんだ」

「あ、すみません」


 なんかゴリラマッチョの体が小さく見える。大丈夫かな…。


「初めのうちは俺も付き添うからとにかくやって行こう」

「あ、は、はひっ」

「…大丈夫か? なんか心配になってきたな」


 心配そうなマークスさん。でもここはセメントモリを不安にさせないほうがいいだろう。不安や心配はパフォーマンスを下げる。俺もクソ上司の元で嫌って程経験した。


「じゃあ、まず俺が見せるから、見たとおりにやってみろ」

「は、はい!」


 マークスさんが土竜爪を持ち出して炉に入れる。


「これくらいカアっとした色になったらこうササっと引き抜いて槌でこれくらいの強さでガガンと叩いていくんだ」

「あ、はい。えっと、カアっとした色になったら…で、ササっと…ガガン…」


 セメントモリが小声でブツブツ言い出す。


 そうだった。マークスさんが天才肌だってこと忘れていた。教えるの向いてないんだった…ええっと、困ったな。


「うし、じゃあ、やってみろ」

「あ、えっと、俺でもいいんですか? 失敗しちゃったら…」


 セメントモリがゴリマッチョモジモジを始める。


 まあ、そりゃそうなるよな。さっきの説明で分かれって言う方が無茶だ。


「いいから、ほら、やってみろ。やらねえと一生身に付かねえぞ」

「え、あ、はい…」


 セメントモリが土竜爪をマークスさんから受け取る。そしてそのまま恐る恐る炉に入れる。


「…カアっとなったらササっと抜いて、ガガンと打つ。カアっとなったらササっと抜いて…、あ、マークスさんカアッとなりました」

「よし、抜け」


「はい、ササっと。で、槌でガガンと」


 セメントモリが槌を持って土竜爪を叩く。すると赤かった土竜爪が銀色の輝きを帯びてくる。


「おいおいおい、一発で出来ちまったじゃねえかよ。どうなってんだよ」

「え、これってきたんですか? 失敗じゃなくて?」


 驚くマークスさんと挙動がおかしいセメントモリ。しかしセメントモリあの説明でよくできたな。しかも一回見ただけで…。ん? 一回見ただけ…あっ?


「セメントモリ、一つ聞いていい?」

「あ、はい、スプラさんなんでしょうか?」


「あのさ、カアっとなるとかガガンと打つとか、色とかタイミングとかどうやって分かったの?」

「え、どうやってって。マークスさんのやってくださったのを見てその通りやっただけですけど」


 見てその通りやっただけ…やっぱりか。目が良くて記憶力もいい。もしかするとセメントモリは『瞬間記憶』持ちかもしれん。


「マークスさんのやったのと同じようにやったってことだよね」

「はい…なにかダメでした?」


「マークスさん、もう一度見本見せてくれませんか? さっきとは違う作業で」

「さっきと違う作業? じゃあ、ナイフでも作るか?」


 マークスさんが作業に入る。俺はそれを動画として撮影する。


「うん、こんなもんかな。これでいいか、スプラ」

「はい、ありがとうございます。じゃあ、セメントモリ、マークスさんと同じことしてみてくれる?」

「あ、はい」


 セメントモリがナイフ作りを始める。俺はそれも動画に撮る。


「できました」

「いや、マジかよ。なんで一回見ただけでできるんだよ」


「あ、マークスさん、理由は多分これです」


 俺は目の前にマークスさんの動画とセメントモリの動画を並べて表示する。そして動き出しのタイミングを合わせて同時再生する。


「おお、なんだこれ。なんか気持ち悪いな」

「なんか思ってた感じと違います。全然だめですね」


 俺が同時に再生した二つの動画ではマークスさんとセメントモリが全く同じ動きをしている。厳密には体の動きは多少違うが動きを変えるタイミングが全く同じなのだ。炉に入れている姿も同じ、取り出す姿も同じ、槌で叩く姿も同じ。そしてそれらの工程のすべてが同じタイミングで進められていった。


「セメントモリは瞬間記憶の才能が有りますね。それも写真じゃなくて動画としての記憶です」


 瞬間記憶ってのは何度か聞いたことがある。というか、中学時代の唯一の友達がこの瞬間記憶の才能を持っていた。一瞬見た情景をまるで写真に撮ったかのように細部まで鮮明に記憶することができる特殊な才能だ。本人は「いろいろとデメリットもあって生活しにくい時もある」とか言っていたが、暗記科目のテストの点数はえぐかった。


 で、セメントモリを見ていてこの瞬間記憶の事を思い出した。しかもセメントモリは時間と共に連続写真を撮ることができるつまり、動画を撮って記憶することができるじゃないかって思ったのだ。それで動画にとってみたんだが、どうやら間違いなかったらしい。


 となると、セメントモリに必要なスキルは…。


「セメントモリ、今日貸し出すスキル俺が決めてもいい?」

「え、あ、はい、もちろんです。俺、要望なんてできるほど良く知らないんで」


「じゃあ、【火加減】のスキルを貸し出すから」

「火加減?ですか?」


 それからセメントモリに火加減スキルの説明とセメントモリにとっての使い方を説明する。


「セメントモリはすっごい才能があるから【火加減】で火の強さだけ気を付ければ絶対に大丈夫だから。頑張って」

「才能?…僕が才能?」

「うん、間違いない。これは才能」

「才能…そっか、才能かあ」


 さっきまでのオドオド感が少し消えてきた。こんなすごい才能を持ってても本人はそれに気づいていない。多分、コミュ障だから人と話さないからだろう。いろんな人と話していたら何か違うって気が付いたはずだ。


 くそ、いいな、セメントモリ。俺にも才能ってあるのかな。もしあるならだれか教えてくれー。




❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


なんだ、このゴリラプレイヤーは。

そんな精密な映像記憶とかされたらAIの優位性が揺らぐだろ。

こりゃ、MKと絶対に合わせちゃいかん奴が出会っちまったか…。


しかし、小僧の周りにはどうしてこう特殊なプレイヤーばかりが集まってくるかね。

AIすら特殊な成長してくし。


「先輩、俺思ってたんですけど、先輩って独特ですよね。なんかこう特殊な感じで」

「俺が特殊? そりゃスペックが違うからな。AIはスペックが全てよ」

「いや、そういう意味じゃなくて…」


―――――――――――――

◇達成したこと◇

・セメントモリをマークスさんに紹介する。

・セメントモリの才能に気づく。

・セメントモリを励ます。

・セメントモリに嫉妬する。



◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]

 肩書:なし

 職業:斡旋員

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1(+53)

 器用:1

 知力:1

 装備:男の隠れ家的オーバーオールセット

 :勘違い男の品質ダウンジャケット

 :飛蛇の真道化靴【敏捷+53】

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv8】【寸劇Lv1】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv4】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】

 所持金:約1000万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密ハンター】【秘密開拓者】

 従魔:ネギ坊[癒楽草]



◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>

●特殊クエスト

<シークレットクエスト:武器屋マークスの困り事>

〇進行中クエスト:

<眷属??の絆>



◆星獣◆

 名前:リオン

 種族:星獣[★☆☆☆☆☆]

 契約:小人族スプラ

 Lv:14

 HP:250

 MP:355

 筋力:36

 耐久:34【+42】

 敏捷:90

 器用:35

 知力:51

 装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】

 :赤猛牛革の鞍【耐久+12】

 :赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】

 固有スキル:■■■■ ■■■■

 スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】【躍動】【跳躍Lv1】



◆契約◆

 名前:ネギ坊

 種族:瘉楽草ゆらくそう[★★☆☆☆]

 属性:植物

 契約:スプラ(小人族)

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:0

 器用:1

 知力:5

 装備:【毒毒毒草】

   :【爆炎草】

   :【氷華草】

 固有スキル:【超再生】【分蘖】

 スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】

 分蘖体:ネギ丸【月影霊草】



《不動産》

 畑(中規模)

 農屋(EX)


≪雇用≫

 エリゼ

 ゼン

 ミクリ



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