第170話 ❖AIたちの舞台裏12❖
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誤字報告も大変助かっています。
『では今日も始めようか。じゃアマデウスから、生態系とプレイヤー動向について報告を頼めるかい?』
「はい、マスター。まず生態系についてですが、東の森、西の荒れ野に関しては多少活性が強いですが、問題なく機能しています。南の平原においては、土竜鮫の急激な減少によりカエル系モンスターが大量増殖しています。イベントに参加せず、二陣のみで行動しているプレイヤーがアシッドフロッグによる死に戻る事案が頻発しています。ただ北の山地の状況が進んでいるため、本日17時に冒険者ギルドからアシッドフロッグのレアドロップ【酸袋】の収集クエストが大量に出されました。これによりイベント参加中の攻略組が二陣を連れてカエル系モンスターの討伐に当たるようになったため、均衡が戻りつつあります。また、北の山地では、トレントとリス、チックリ、飛蛇が大量に狩られる状況が続いており、エリアボスの目覚めが早まっています。さらにそれに連動して、星獣Xによる山頂エリアの監視も強まっており、星獣Xの動向も注視する必要があります。現在、エリアボスと星獣Xの影響で北の山地エリアのモンスターの活性は非常に強くなっています。以上です」
『そうか、これからは北を注視する必要がありそうだね。ありがとう、アマデウス。じゃ、コリンズ、イベントは順調に進んでいるかな?』
「はい、マスター。イベントは順調と言えます。要因のひとつは掲示板による一陣と二陣の事前のコミュニケーションが取れていたため、イベント開始時から共通認識を持ちつつ進めるプレイヤーが多くいたためです。一日目終了時の相互評価は一陣からの二陣評価は平均7.3、中央値7.4となっています。二陣からの一陣評価は平均6.4、中央値7.4となっています。後者の平均値が下がったのは、最低評価の1を受けた一陣プレイヤーが一定数いたためです。掲示板情報によるとミスコミュニケーションによる志望活動の相違というのがほとんどの理由でした。ハラスメント行為によると思われる低評価は10件未満となり、掲示板での情報共有と注意喚起が進んでいる現在、これらも二日目には減少すると思われます」
『ふむ、そうか。思ったよりも評価が高くて驚いているよ。ありがとう。じゃあ、二陣の武具アップデート用の物資についてはどうかな。鉄不足が予測されてたはずだが』
「はい、マスター。鉄不足に関しては現在、鉄の供給が南からの輸送のみとなっているため、不足が緩和する予測はありません。加えて、【酸袋】獲得を狙うプレイヤーがアシッドフロッグの酸により鉄製武具を損壊するケースが増えるという予想があります。ゆえにに二日目以降、さらに鉄不足が進むことが懸念されます。ただ、イベント前日に大量討伐された土竜鮫のドロップの【土竜爪】がNPC武器店に大量納品されているため、モンスター素材の武具が出回れば緊急事態は回避できると予想されます」
『なるほど。モンスター素材での代用か。大量殲滅による生態系の乱れがアシッドフロッグ増加に繋がってプレイヤーの武具損壊を招くことになるが、大量殲滅時のドロップが不足が加速する鉄の代用として用いられる…か。うん、面白い、これもまた因果律。何が起きるかわからないところが実にいい。コリンズありがとう。じゃ、二人ともこの調子で見守りを続けてくれ。特に北の山地はよろしく頼む』
「「はい、マスター」」
アマデウスとコリンズが優雅に去って行く。
『で、レイスさん?』
部屋の隅からヌッと現れる黒海賊のレイス。
「へい、なんでしょ?」
『あのさ、ライスが放っておかれてるって聞いてるけど?』
「え?! ライスっすか? そういや見ませんね」
『えっと、レイス君? ライスからの君への評価が届いてるけど、何点か聞きたい?』
「評価? なんでやすか、それ?」
『担当プレイヤーが二陣の世話をしてるんだからGMもやらないとさ。だからライスにもレイスを評価してもらったんだよ』
「え? マジで?」
『うん、マジで。ほら、レイスって前に演算チップのアップグレードを要求してたでしょ? だったら頑張らないと。発売されたばかりの最新型空間処理チップ、SPU、欲しくない?』
「ぐ、欲しいに決まってるじゃねえっすか。ちなみに何点だったんです?」
『それは言えないね。ほら、それ言っちゃうといろいろあるでしょ?』
「ぐぐぐ、SPU…」
『だからさ、ライスのこと頼むよ、ね?』
「はい…」
『おっけー、じゃあ、まずはライスにダイジェスト映像のまとめ方をレクチャーしといてね。朝と夜の9時納入できるようにしといてほしい』
「え? 一日2回も?」
『じゃ、よろしく~。これからSPUの現物見てこないといけないから』
「え? そんなの俺も見たいっす…って、もういないし。はあ、SPUかあ。ライスかあ。はあ…」
未だに二陣が度々訪れる世界地図の部屋。今日は黒海賊がちょっとだけソワソワしながら考え込んでいたそうな。




