第167話 追跡、リオン
「この辺だな」
「じゃ、行ってくる!」
パッと姿を消すミーナ。そして、数秒後に打ち上げ音が聞こえ、その後上空で爆発音。音の方を見ると空に紫色の煙が雲のように漂っている。
30分ほど前、街で準備を終えた俺とミーナとセーキマッツの3人は北門を抜けて山地へ猛ダッシュ。途中のトレントはセーキマッツの範囲炎魔法で尽く消し炭になっていった。その威力に始めは俺も戦慄したのだが、一発毎にMPボーションをあおるように飲む姿を見てこの人が水色銀仮面ウェイブ枠だと知った。恐らく何らかのデメリットを持ってるんだろう。もしかしたら炎魔法をぶっ放す時に決まって言い放つ「ヒャッハー、汚物は消毒だぁ〜」ってよく分からんセリフが関係しているのかもしれん。もしかして一定以上の羞恥心を感じないと発動できないとか?
ミーナがなんか変なもんでも見る目で見ていたが、あなたも前世は同じ枠だったとは口が裂けても言えなかった。
「あっちです、スプラさん、参りましょう」
「あ、うん」
上空に浮かぶ紫の雲を確認してすぐに動き出す。マークスさんの【飛蛇の真道化靴】によって今、俺の敏捷値は54。爆上がりしたスピードで紫雲に向かってダッシュする。で、それに余裕でついてくるセーキマッツ。なんで魔術師なのにこんなに速く動けるのか不思議だったが、一般プレイヤーはレベルが上がると言うことを思い出して戦慄する。
「レベル上がるって凄いことなんだな…」
「あ、スプラ、こっち」
木々を抜け、岩肌が露出している場所でミーナが手を振っている。その上空には紫の雲。なんか全然消えんが大丈夫か…?
「お待たせいたしました。で、あ、もしかしてこちらで?」
セーキマッツが視線を送る先にあるのは岩肌にポッカリと開いている大きな穴。高速道路のトンネルかってくらいの大きな穴が真っ暗な内部をさらけ出している。
「多分ね。どうする?」
「危険察知は反応していないから、慎重に入ってみよう」
「なになに、何が出てもこのわたくしが消し炭にしてやりますよ」
セーキマッツが頼もしいことを言ってくれる。でもあの恥ずかしいセリフを何回も言わせるのはちょっと可哀想なのだが。
「ではわたくしの後に続いてください」
セーキマッツが用意してきたランタンに火をつけて洞窟に足を踏み入れていく。オレンジの光に照らされた洞窟内は意外とすっきりしていて壁も天井も地面も凹凸が少なく滑らかで順調に進むことができた。その間、危険察知は一度も反応しない。
「何も出てこないけど、普通は洞窟ってその大きさで中の難易度が決まってるわよね」
「え、そうなの?」
ミーナがさも上級者かのような発言をしてくる。
「この大きさだとボス戦とかもある大きさよ。気を付けたほうがいいわ」
「猫姫殿の言う通りですね。これはボス戦の芳しい香りが漂っています」
セーキマッツまでが不吉なことを言い出す。
「でも危険察知は反応してないからなあ…ん? あれなんだ?」
奥の方になにかある。天井からなにかが吊るされているような…?
「なんかぶら下がってるわね、何かしら?」
「白い繭のようなものですね。にしても数が異常に多いようですが…」
洞窟の先にあったのは天井から吊るされた繭。なんかこういうのどこかで見た覚えがあるんだが…。あ、そうそう、子供の頃のクリスマス会の飾りつけだな。天井から沢山の白いフワフワしたのを糸で吊るしてあったアレだ。ま、言い換えれば白い大量の蓑虫が天井ぶら下がっているとでも言えなくもないが。
「いろんな大きさがあるわね…あれ? あの繭動いてない?」
ミーナが指す方向に目をやると、確かに大きな繭がモゾモゾと動いているように見える。
「なんだろ、あれ」
ピンポーン
『星獣リオンと従魔ネギ坊を発見しました。ステータスの確認ができるようになりました』
「え、マジで?!」
「なに?どうかした?」
「なんかリオンとネギ坊を発見したってアナウンスが…げ、HPヤバいじゃん」
ステータス画面を見るとリオンのHPが37/355になってる。ネギ坊は10のまま。
『ブルヒヒン』
「あ、今あの動いてる繭からリオンちゃんの声が聞こえた」
「え、ってことは、あの中にいるのか?」
俺たちが話を始めてから、繭の動きも激しくなる。どうやら間違いなさそうだ。リオンが俺たちの声に反応してるんだろう。
どうする? あそこから落としたら流石にダメージ入っちゃうよな。うーん、それじゃあ…
「黒曜石ダーツ!からの【引馬】!」
スパンッ トサ
リオンが入っているだろう繭が切り離されて俺の近くの地面に繭ごとワープしてくる。【引馬】って初めて使ってみたけど、ワープするんだな。なんか物理法則無視したこの感じ、昔のRPGチックで懐かしい…って、ん?
「げっ!」
リオンが俺のそばに来た瞬間から危険察知が猛烈に反応し始めた。反応は洞窟の奥。黒曜ダーツで繭を割き、リオンを助けながら見ていると、奥の暗闇に小さな赤い光の点が現れ始める。そしてその光が鼠算式に増えていき、数秒もしないうちに洞窟の奥が一面真っ赤に染まった。
ピンポーン
『星獣リオンと従魔ネギ坊の捕縛状態が解除されました。契約者スプラに合流します』
「やばい、早く逃げないと」
「なにかいるの?」
「奥がやばい。リオンが連れ去られた時よりもやばい」
繭から出てきたリオンにHPポーションを素早くかける。
『ブルブルブル ブルヒヒン』
HPが回復して元気を取り戻したリオンが俺に擦り寄る。
『フンスフンス』
『ゆら~!』
「リオン、ネギ坊、二人ともよかった無事で」
『ブルヒヒン』
俺が二人との再会を喜んでいると、リオンから『そんな場合じゃないからすぐに乗れ』と背中を押し付けられる。それに応じてリオンに騎乗するとリオンが嘶く。そして、横っ飛び。洞窟の奥から飛んできた蜘蛛の巣を避けてくれたようだ。
『ヒヒヒヒーン』
それから連続して横っ飛びするリオン。【騎乗】スキルがなかったら落馬していたであろう程の激しい動きで次々と蜘蛛の巣を避ける。リオンの耳がクルクルと回る。そして今度は勢いよく出口に向かい走り出す。振り返ると、洞窟の奥から一斉に赤い線が飛ばされてきた。だがギリギリのところでなんとか避けられたようだ。出口方向を見るとすでにミーナが赤い蜘蛛の巣を避けながら移動していた。ってか、なんで蜘蛛の糸が見えてるんだ。危険察知持ってないよな?
「お二人とも、ここはわたしに任せて先に行ってくださいませ」
俺とミーナが出口に向かうところを、なぜかセーキマッツだけがその場に残ってカッコいいセリフを言い放つ。「ここは俺に任せて先に行け」この誰もが憧れるセリフを恥ずかしげもなく言えるなんて…ちょっと羨ましい。でもセーキマッツの広範囲炎魔法ならあんな糸も焼き切れるはず…ん? あれ? なんか引っかかるな。蜘蛛の糸…仙蜘蛛の道化服…熱耐性… あれ?
「では…ごほん。オラオラオラ、汚物は消毒だあ~」
セーキマッツがお馴染みのセリフを叫ぶとその構えた手の平から巨大な炎が洞窟の奥へと放射される。
「オラオラオラオラ~、汚物は消毒……」
「え?」
「は?」
俺たちが見ている前でセーキマッツが白い繭に覆われてしまった。そのまま天井に吊り上げられていくセーキマッツ。
ブーン
『パーティーメンバーのセーキマッツが死に戻ったことによりセーキマッツとのパーティーが解除されました』
はい?
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
はあ、仙蜘蛛の繭は斬撃耐性もあるんだけどなあ。
小僧が素材融合で変なもん作っちまったからなあ…こりゃ、仙蜘蛛も形無しだな。
本当の突破口は【酸袋】の酸。南の平原に取りに行かせて北の山地への密集を緩和させるはずだったのになあ。色んな過程をすっ飛ばしやがって…。
そうそう、その炎男みたいに何度も繭にされながら攻略法を見つけるのがミソだったのにな。
あーあ、
そういや、仙蜘蛛開発したのって誰だったけな。今度ライスに差し入れ持って行かせるかな〜。
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・リオンとネギ坊主救出。
・セーキマッツの死に戻りを見届ける。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:なし
職業:斡旋員
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
装備:男の隠れ家的オーバーオールセット
:勘違い男の品質ダウンジャケット
:飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv8】【寸劇Lv1】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv4】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】
所持金:約1000万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密ハンター】【秘密開拓者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:武器屋マークスの困り事>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:14
HP:250
MP:355
筋力:36
耐久:34【+42】
敏捷:90
器用:35
知力:51
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv6】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【氷華草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




