第165話 雲の世界
ここは…何処だ?
久々に味わうこの感覚。なんだか懐かしさすら込み上げてくる。が、今はそんな感慨に浸っている場合ではない。早く街に戻らないと。
なんてことを思っていたが、回りを確認した後、俺の中からそんな考えは吹き飛んでしまった。
なぜか。
頭上すぐそこにどんより雲の天井が迫っているのだ。雲上の世界を上下ひっくり返したような奇妙な光景。なんだ、俺は仙人の国でも来てしまったのか?
だが、視線を落とすとそこには低い山々が見えてくる。そして、その向こう側には街っぽい黒い影。
「ああ、もしかしてここ山頂か?」
だんだん理解が追い付いてきた。どうやら俺は北の山地の山頂に来てしまったらしい。
「そっか、反対方向に来ちゃったのか。じゃあどんどん逃走して…あれっ?」
ここで俺は恐ろしい可能性に気づく。
「こんな場所にモンスター出るのか?」
なんせ、山頂だ。下腹がぞわっとなるくらい回りに地面が少ないのだ。その広さ、およそ一坪。つまり畳二畳分。その先は崖とも思える急斜面だ。足を踏み外してしまったら何百mも転げ落ちるだろう。もしこんなところにモンスターをポップさせたらクレームものだ。
「…うん、やっぱり出ないか」
少しだけ待ってみるがモンスターが出て来る気配は全くない。
「仕方ない。取り敢えず、ちょっとずつでも降りてみるか…」
一番降りやすそうな場所を探して一坪内をウロウロ、そして足を止める。
「ん? なんだ?」
足元に何かが落ちている…気がする。なんにも見えないのだが、何かがそこにあるって感じる。俺はその見えない何かを意識して手を伸ばす。と、触れる直前でアイコンが表示された。
【極凰の羽根】
詳細不明。
「詳細不明? こんなの初めてだな。なにか条件でもあるのか? 鑑定系のスキルが必要とか? うーん」
ま、よくわからんものはストレージの奥に仕舞い込んでおくに限る。【超絶除草剤】と同じ引き出しにでも入れておこうか。
「じゃあ…降りるか」
なるべく下を見ないように足元だけに集中して降りていく。フワフワする下腹に力を入れて落ち着かせる。俺が崖を降り出すと、こんなときに限って下から強風が吹き上げてくる。甲高い風音が恐怖心をバンバン煽ってくるが、ここは手元足元に集中してやり過ごしかない。
「早くしないとな。リオンとネギ坊が心配だし」
リオンが捕縛された時のことを思い返す。あの時、リオンは俺をかばって、俺を逃がすために自分から捕まった。リオンがそうしたってことはそれがあの時の最善だったんだろう。だけどリオンなしでどうやって助けに行ったらいいのか。他のプレイヤーならあの糸に対処できるのか。
「しかし、リオンたち今どうなってんのかな」
リオンとネギ坊が捕縛されたアナウンスの後、二人のステータスを見ることができなくなっている。流石に死に戻ったりしたらアナウンスがあるだろうから、今のところはなんとかなっていると思いたい。
「リオンはともかくネギ坊はHP10、しかも紙耐久。心配だな…うおおおっ」
ビュオオオオオオーーー
いきなり下からものすごい突風が吹いてきた。一瞬体が浮いたんだが? 思わず死に戻りを覚悟してしまった。
「あれ? なんか暗くなった?」
風が吹いた後に急に周りが暗くなった。どうした、雨でも降るのか? 足場が滑るから止めてほしいのだが…。
『我の目を搔い潜り登頂したお前は何者だ』
雨が降る前に降りないとと焦っていたら誰かの声が聞こえてくる。この感じ。言葉じゃないのに言葉として入ってくるこの感じ…確かどこかで経験したような?
「…」
『お前が【念話】持ちであることはバレておる。我の声が聞こえぬなどとは言わさぬぞ』
いや、これってアレじゃない? リオンを初めて見た時の。レイドボス戦始まる前のアレだよな?
『答えよ。どうやって我の目を掻い潜って登頂した?』
うん、なんとなく状況が分かってきた。ここはあの南の平原の湖的な場所ってことらしい。で、おそらく俺の上、北の山地の頂上にはおそらくリオン的な奴がいる。いや、こんな場所でレイド戦とか無理だぞ。黒曜ダーツだって残り20本もないんだから。
『答えぬと言うのなら力ずくで答えさせるがよいのか?』
「あ、いや、それはちょっと無理…あれ?」
俺が慌てて山頂を見上げると、そこにはなにもいなかった。
「えっと…あ、ああ、もしかしてあの時の?」
なにもないが、空間が揺らいでいるような感覚が伝わってくる。この感じは覚えがある。これはアレだ。ジェットな鳥を倒した後も【自動照準】がしきりに反応してたあの見えない何かだ。確か「北の山地『???』と遭遇しました」とかアナウンスがあった気がする。
『お前は我が見えるのか。なぜ見える。この呪われし体を』
なぜ見えるのか。それは俺にもわからん。その答えはたぶん【観察眼】さんが持っていると思う。
「見えるというか、『なにかいるかな』程度ですけど」
『…特別な力を有するお前は何者だ。名を示せ』
「スプラです」
『ではスプラ、お前にこの山の悪意を討伐する権利を与える。謹んで受けるがよい』
「はい?」
この人今、なんて言った? 山の悪意を討伐する? いや、意味が分からん。 っていうか、今はそんなことをしている暇はない。リオンとネギ坊を助けないといけないのに。
『…? 再度伝える。お前にこの山の悪意を討伐する権利を与える。謹んで受けるがよい』
なぜかもう一回伝えてくる見えない何か。
「えっと、すみません、無理です」
『無理…ん? そのほうは山の悪意と戦うために来たのではないのか?』
なにそれ、話が見えん。そんなものと戦う気などないし、今はそれどころではない。
「来たというか間違って来ちゃったというか? それにちょっと今忙しくて」
『…では、今すぐこの山頂から去れ。この山は悪意で満ち始めておる』
「いやそれが去りたくても去れないというか? 崖が急すぎて」
去れるもんならとっくに去ってます。
『我の目に触れることなく登頂しておいて崖が急すぎて無理とは…お前はこの我を愚弄する気か』
目の前の空間が大きく揺らぐ。静かな水面が急に波打ったようだ。もしかして怒ったのか? いや、怒られてもな。
「あ、そうじゃなくて、ここに来たのはスキルのせいであって来たくて来たわけじゃないんで。リスから逃げるためにスキルを使ったらいつの間にか山頂にいたというか?」
『…リ、リスから逃げて…なんと、よもやリスから逃げるような者がこの山頂に、この聖域に到達しようとは…なんたること』
なんか俺がものすごく悪いことしちゃったみたいな空気を放ってくるんだが? いや、そんなこと言われても知らんがな。
『はあ、仕方のない。では我が去らせるとしよう。行き先に希望はあるか?』
え、今なんて言った?「行き先に希望はあるか」って、え? それって、もしかして街まで移動させてくれるってことか?
「始まりの街って行けますか?」
『始まりの街…そこの南の麓の街のことか?』
揺らぎがなんとなく始まりの街を指してる気がする。
「はい、その街にお願いします」
『では、この聖域から去らせるとしよう』
ビュオオオオオオ
俺の周りを突風が回り出す。つむじ風の中ってこんな感じなのか。なんか不思議な感じだ。
ビュオオオオオオオオオオオオオオオ
風がさらに強くなる。いや、つむじ風どころか竜巻っぽいんだが? 俺はどうなるんだ? 視界が薄暗くて何にも見えんぞ。
…
…
竜巻の中心で風が収まるのを待っていたらだんだんと風がやんでいく。そして俺の視界に映ったのは始まりの街の北の門だった。
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
あああー、そこはXの場所じゃねえかー。
なんでよりによってそこにたどり着くんだよ、小僧!!
…
しっかしZに続いてXにまで。
小僧、お前、自分のしてることわかってんのか?
…わかってるはずねえよなあ。
はあ。
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・北の山地の山頂に到着。
・取得:【極凰の羽根】
・北の山地『???』と会う。
・つむじ風によって始まりの街に戻る。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:なし
職業:斡旋員
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
装備:男の隠れ家的オーバーオールセット
:勘違い男の品質ダウンジャケット
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv8】【寸劇Lv1】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv4】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】
所持金:約1000万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密ハンター】【秘密開拓者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:武器屋マークスの困り事>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




