第160話 扱いに困るもの
「で、これどうすりゃいいんだ?」
『フンス?』
足元のドロップを拾うと【蛇牙】と表示される。小指の先ほどの小さな牙だ。次を拾うと目的のものが見つかる。
「お、出た」
【飛蛇の軽羽】
レアドロップであろう【飛蛇の軽羽】を自分の手で入手した。前世ではブーツを素材化して手に入れてたから、こうやって自力で入手できたことにちょっとした感動すら覚える。
「ってか、これ全部拾うのかよ」
一面に散乱する飛蛇のドロップアイコン。これマジで拾わんといかんのか? いい加減この仕様なんとかならんもんか。範囲魔法の使い手はいつもこんな大変な思いをすることになるぞ。
敏捷がない今、ドロップ拾いも人の何倍も時間がかかる。せめてリオンに乗りながら取得できんものか。そう思ってやってみたら俺が意識さえしていれば、リオンが触れたドロップは取得扱いになった。…いや、もっと早く教えてくれ。
…
【飛蛇の軽羽】×97
【蛇牙】×158
途中からドロップ拾いが加速して一気に拾い終える。そして100近くの【飛蛇の軽羽】を入手することができた。牙の使い道はさっぱりわからんのでしばらくはストレージの肥やしになるだろう。
ピンポーン
『パーティーメンバー「ミーナ」がパーティーから抜けたためパーティーが解散されます』
ドロップを拾い終えたところであれこれ考えながら休憩していたら、聞こえてきたパーティー解散のアナウンス。どうやらミーナがパーティーを抜けて街に戻って行ったらしい。なんかあったかと思ったが、「弟子の様子を見てくる」とメッセージが届いていた。そっか、コールがあるんだからメッセージもあるよな。対人関連のシステムはあんまり使わんから今更気づくことも多い。
「うーん、じゃあ、どうしようかな。弟子かあ…」
タラコの事はちょびっと気になるが、マジョリカさんはああ見えてすっごく面倒見がいいからな。むしろ俺が心配して見に行ったら「何しに来たんだ」とか言われそうなんだよな。
「よし、先に進んでみますか。卵までとは言わずもせめて天雷鳥だけでも見つけたい。と、なれば…ささっと作っちゃうか」
【凍結ポーション】×2
ネギ坊からあらかじめ貰っておいた【氷華草】2本を調合しておく。これでストックがなくなった。あとは今ネギ坊のお手々になってるやつを貰うしかない。
対飛蛇特攻ポーションを作り終えて再び山道を走り出す。もちろん【遠見】【観察眼】で天雷鳥とその巣を探していく。木の上も岩場や倒木の影も目に付く怪しいところは全て確認しながら山を登る。
「ん? あれってゴブリン…じゃないな。プレイヤーか?」
努力の甲斐なく天雷鳥どころか飛蛇にも会えずに進んでいると、木の切り株に何かが座っているのが見えてきた。アイコンが見えると色は青。プレイヤーらしい。
「先を急ぎたいしな。ここは【俺はあなたに気づいていません】を発動して通り過ぎ…え? どうした?」
なんか切り株に座っているプレイヤーがいきなりその場に倒れ込んだ。なんだ、もしかして空腹か? ぐぐ、さすがにこれを見過ごしにしたら夢見が悪いよな。
「あの、どうかされました?」
「…」
「あの、どうかされましたかー?」
「…」
「もしもーし」
「…ん? あ、ああ、プレイヤーさんですか。何か御用で?」
行き倒れプレイヤーが俺に気が付く。いや、何か御用でって。
「いえ、急に倒れたようだったんで、大丈夫かなって」
「ああ、これ、スキルなんですよ。お気遣いなく」
「…スキル?」
「あ、もしかして気になります? MPポーション3個と交換なら教えても差し上げてもいいんですよ」
…なにを言ってるんだこの人。ちょっと面倒くさいタイプか?
「あ、じゃ、俺行きますんで」
「ああ、ちょっと、2個で手をお打ちましょう。MPポーション2個」
「…持ってないんで。それじゃあ」
「ああ、ちょっと、わかりました、1個で大丈夫。1個でどうです?」
「…持ってないので」
「ああ、ちょっと、食べ物でも大丈夫ですよ。もし持っていれば…」
「…それじゃ失礼」
「ああ、ちょっと、わかりました。じゃあ、こうしましょう。あなたはわたしのためにMPポーションを調達する。代わりにわたしはこの辺の敵を一掃する。これでどうです? この辺の敵はこれまでと一線を画します。わたしがボディーガードになりますよ」
…この人はいったい何がしたいんだ? ロールプレイにしても面倒くさすぎるんだが? ウェイブのストーキングの方がまだマシまであるぞ。
「ボディーガードも間に合ってるんで」
「え、もしやこの辺の敵をご存じでない? 知らない間に噴水送りにされますよ。いいんですか?」
さっきまで後始末してたので知ってますが?
「これ、【蛇牙】と【飛蛇の軽羽】です。さっき倒してきました。これでいいですか?」
「…」
これでも何か言ってくるならもう無視だな。
「ほう、猛者の類でしたか。これは失礼仕りました」
そう言ってさっさと立ち上がる面倒プレイヤー。さっきまで態度がガラッと変わる。…あ、そっちのタイプの人? 余計にややこしいんだが。
「わたくしは『セーキマッツ』も申す者でございます」
「…あ、じゃあ、俺急ぐんで」
「待たれよ。このセーキマッツ、あたな様のその猛者っぷりを見込んで一つお願いがございます。聞いてはいただけまいか?」
「…いやあ、ちょっと時間が…」
まずい、俺こういう強引なのに弱いんだ。頑張って断っても「もしかしてなんか深い理由とかあったのかな」とか、後からウダウダ考えちゃうタイプだからな。
「お忙しいのは承知の上、ですが、あなた様が猛者であるなら決して損な話ではございませんぞ」
「いや、俺、猛者とかじゃないんで…」
セーキマッツと名乗るこのプレイヤー、装備はボロボロのローブに杖代わりの貧相な棒を1本持っているだけ。どう見ても普通ではない。まあ、品質0ジャケットを着ている俺が言うのもなんだけど。
「わかりました。ではこうしましょう。実はわたくし、次の街への地図を持っております。もしご協力いただけるのでしたら次の街へご一緒にいかがですかな?」
「え?」
地図? 俺もマークスさんから貰ってるんだけど、古くて中身が間違いだらけなんだよな。同じ地図なのかな? それともグレードの高い地図なのか…。
「地図?」
「そう、地図です。これがその地図です」
「おおっ」
新しい地図じゃん! しかも金縁とか、なにその王宮仕様。すっごい見たいんだが?
「実は俺も地図持ってるですよ、でもこんな古くて」
「おお、地図をお持ちで。するともしやシークレット的な?」
「と言うと、そちらも?」
「と言う事はやはりそちらはシークレット的であると?」
「お話お聞きしても?」
「はい、もちろんでございますとも」
と言うことで、怪しい行き倒れプレイヤーのセーキマッツから話を聞くことにした。でも話を聞く前に、弁当を強請ってきた。本当に飢餓状態でヤバかったらしい。
なんでも初めから目的は弁当だったみたいで、俺が来るのを発見して交渉の為に行き倒れてみたんだと。で、先に高いハードルを示してから低いハードルを示す交渉術を使いたかったらしい。…いや、その交渉術は相手にニーズがあってこそだぞ。そもそも使うシチュエーションが間違ってるんだが? それに俺はそういった駆け引き的な交渉は好きじゃないのだ。それなら初めから飢餓状態で困ってると言ってくれればいくらでも満腹亭弁当を出してやったのに。
「ほほう、こうやって比べるとずいぶんと違うものですな。モグモグ」
セーキマッツが弁当片手に俺の地図と自分の地図を見比べて感心している。
「俺の方は間違いが多くてほとんど使い物にならないんですよ。多分そっちの方が正確だと思います」
「それはそうだと思いますね。なんせこの地図は領主の第二夫人から貰ったものですから」
「え?」
第二夫人? というと、あれ? 俺、何かしたよな?
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
あのなあ、こんな序盤でこんな大量破壊兵器があるなんて世界線は俺たちの予測には入ってないの!
せいぜい、その先にいる炎魔法馬鹿かお前の連れのキャラ変前の氷魔法くらいだぞ!
ったく、苦労して倒したモンスタードロップが無機質にストレージに入ってるなんて味気ないだろうっていうAIなりの気遣いをクソ仕様扱いしやがって。
大量殲滅率が上がってきたら仕様変更する計画なんだよ…ん?
あれ? 星獣越しにドロップ取得? 何それ、聞いてない。
あ、さては…Z、お前また勝手なことを…?!
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・獲得:【飛蛇の軽羽】×97、【蛇牙】×158
・行き倒れプレイヤーのセーキマッツと出会う。
・第二次婦人仕様の地図を確認して驚く。
・第二夫人関連でやらかしていた事を思い出しそうになる。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:なし
職業:斡旋員
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
装備:男の隠れ家的オーバーオールセット
:勘違い男の品質ダウンジャケット
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv9】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv8】【寸劇Lv1】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv1】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv3】【融合鍛冶Lv4】【観察眼】
所持金:約1000万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密ハンター】【秘密開拓者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:武器屋マークスの困り事>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:14
HP:250
MP:355
筋力:36
耐久:34【+42】
敏捷:90
器用:35
知力:51
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv6】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【氷華草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




