第158話 師匠の師匠は師匠
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…してから、ずっと農屋でダーツをして過ごしている。的は【土竜金剛爪】だ。何をどうしても壊れないなんて的としては申し分ない。で、飛ばしているのは【狂気な元道化師のベリーショート】、黒曜爪と羽根で作ったダーツ、通称「黒曜ダーツ」だ。
なぜダーツかって?
それは今日、イベント参加の二陣プレイヤーとこれから会わないといけないからだ。就活の面接前を彷彿とさせるこの時間、コミュ障にとっては限りなく億劫な時間なのだ。こういう時には生産的なことをする心の余裕などないが、かと言って何もしないのも落ち着かない。ということでダーツをしている。
因みに黒曜ダーツは現在42個ある。作るのにジェット羽根が必要なはずのものがなぜ42個も作れたのか。それは残ってた41個の作りかけダーツをどうしようかと思って作業台に向かった際に、【狂気な元道化師のベリーショート】がレシピに出てきたのだ。そしてその表示文字の色は白。つまりジェット羽根がなくても手持ちの素材で作成可能だったのだ。ということで、迷わず残りの作りかけダーツ41個を使って黒曜ダーツ41個を完成させたという訳だ。
『ゆらゆら?』
「あ、もうすぐだな。あー、もう時間なのかよ」
『フンス』
「ふう、じゃあ行こうかリオン」
ネギ坊とリオンに背中を押されるようにして農屋を出る。今日もネギ丸から【癒楽草】と【月影霊草】は入手済みだ。
待ち合わせは8時に薬屋の前。相手については「タラコ」というプレイヤーだという事しかわからない。薬師志望で時間もかなり取れる人ってことで申し込んだから、そういうプレイヤーではあるんだろう。
相手がすでにログインしていることはイベント画面でわかっている。で、相手方のアバターには水色のアイコンが生じされているとのこと。
リオンに乗って向かうと遠くに薬屋が見えてくる。そしてその前にプレイヤーの影が数体。…え、数体? もしかしてお客さんが並んでるとかか? 珍しいな。
近づいていくと、向こうからこっちに手を振ってきた。水色のアイコンが1つと青いアイコンが4つ。手を振っているのは水色アイコン。
「おはようございます!よろしくお願いします!」
元気な挨拶に軽く頭を下げてきたのは女性プレイヤー。その他は男性3人と女性1人。仲良さげな感じからおそらくはパーティーメンバーか。薬屋の客じゃなかったらしい。
「おはようございます。スプラといいます。よろしくお願いします」
「やっぱりピエロ君だったな」
「うわー、いいなー、タラコ」
「えへへ」
なんか俺が挨拶したらワチャワチャし出した5人組。
「えっと、タラコさんは薬師志望ってことでよかったですか?」
「あ、はい、よろしくお願いします」
なんか、すっごい元気だな。若そうだし、それになんか純粋そう。俺なんかと関わって大丈夫かな、この子。
「じゃあ、頑張れよ」
「しっかりね」
「ダーツも教えてもらえよ」
4人があれこれタラコに声をかけて去って行く。俺的には多数相手は辛かったからありがたい。
「簡単に自己紹介しますね。俺はスプラ、このポニーはリオンって言います。今は薬師じゃないんだけど、前は薬師だったことがあって、ここの店主にはとてもお世話になったんです。で、今日はここでいろいろと調合関連をやってもらえたらと思ってるんですけど、大丈夫ですか?」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「じゃあ、貸し出すスキルなんだけど…【調薬】でいい?」
「え、【調薬】?【調合】じゃなくて?」
「はい、イベントフォームには【調合】って書いたんですけど、やっぱり【調薬】があったほうが無難かなと思って。あ、もしかして【調合】のほうが良かったですか?」
「い、いえ。でも【調薬】なんて凄いスキルいいんですか?」
ん? 【調薬】だよな? この子【創薬】と勘違いしてる?
「えっと、【創薬】じゃなくて【調薬】ですよ?」
「そうやく? ん?」
キョトン顔で首を傾げ出しちゃったな。こりゃ駄目だ。なんかごちゃごちゃしてきた。
「じゃ、じゃあ、【調薬】貸し出しますね」
ピンポーン
『師匠プレイヤー「スプラ」から弟子プレイヤー「タラコ」に【調薬Lv10】が貸し出されました。本スキルは師弟関係の間のみ貸し出しされます』
「へ? レベル10? って、え、カンスト?」
「じゃあ、入りましょうか。多分もう待ってると思うので」
「あ、は、はい…」
「スプラです」
「ああ、待ってたよ。早かったじゃないか。助かるよ」
マジョリカさんがいつもの片眼鏡を鼻に引っかけて出てきてくれる。流石にこの姿から太皇太后だなんて思わないよな。
「ふむ、この娘かね、手伝いってのは。ふむ…調薬はできそうだね。まあいいだろう。で、あんた、うちのスプラとの関係は?」
マジョリカさんの視線がいつになく鋭い。あんまりタラコを虐めないでほしいんだが。ってか、マジョリカさん、「うちのスプラ」ってなんなんだ…。
「関係? …え、あ、えっと、弟子?」
「へ、弟子だって? 本当かい? フッ、アッハッハ、スプラに弟子かね。こりゃ愉快だ」
いや、これだと俺が変に調子こいで弟子取ったみたいなんだが? 一応、師匠の手伝いのために弟子を取っんたぞ。
「ハッハッハ、そうかいそうかい。弟子ねぇ、フッ。…じゃ、ついておいで」
そう言ってマジョリカさんが薬房に入っていく。
「えっと?」
「入りましょう。この奥が薬房なんですよ」
「え、ここ入れるんですか?」
驚くタラコを後ろから押す形で薬房に移動する。そして薬房に入ると、脚の置き場もないほどの薬草がそこかしこに山積みにされていた。
「じゃあ、早速取り掛かるとするかね。あんた名前は?」
「あ、タラコです。よろしくお願いします」
「今回はスプラの紹介だから特別に教えるが、紹介してくれたスプラに恥かかせるんじゃないよ」
「え、あ、はい?」
「んじゃ、タラコ、ここにある薬草を全て1本ずつ確認して品質ごとに分けてくれるかい?」
「…えっと、これ全部ですか? 1本ずつ?」
「ああ、そうだよ。中には同じ見た目でも種類が違うこともある。1本1本確認しておくれ」
「…はい」
ピンポーン
『<薬屋マジョリカの手伝い3>を受けました』
ピンポーン
『<薬屋マジョリカの手伝い3>をプレイヤー「タラコ」に斡旋しました。クエスト達成後、報酬の20%を得ます』
うんうん、きっとこれだけの作業をこなせば有用なスキルが身に付くはず。ここはタラコに頑張ってもらおう。
「じゃあ、俺はこのあと用事があるから行くね」
「え、あ、スプラさん?」
「ほらほら、しゃべってる暇なんてないよ。仕分けの後はポーション調合が待ってるからね」
「え、はい。え?」
「初めは戸惑うこともあるかもしれないけど、これもスキル習得のためだから」
そのままタラコをマジョリカさんに預けて俺はミーナとの待ち合わせの北門に急ぐ。
街中では二陣と思われる衣服系防具のプレイヤーを見たことのある一陣プレイヤーが連れている姿をあちこちで見かける。もしかすると今回のイベント参加率は俺が思ってたよりも高いのかもしれない。俺の予想の20%は余裕で越えているようだ。
「おはよ」
「どあっ」
いつも俺のすぐ近くに現れる猫。毎回驚かせて何が楽しいんだ…。
「出会いはどうでした? コミュ障にとっては高き壁でしたか?」
なんか猫が上から物を言ってくるんだが?
「全然高くなかったけどな」
まあ、ダーツは30分程したけどな。遅れるのが嫌で早くログインし過ぎて落ち着かなかったとは言えない。
「そっか、じゃあお互いうまく押し付け成功したって事ね。こっちも賄い無料だって聞いて喜んでたわ」
押しつけとか人聞きの悪い。調合関連スキルの習得にはマジョリカ薬房ほどいい場所はないんだぞ。上位互換3スキルを一気に習得するとかすごい場所なんだからな。
「まあ、自覚してないみたいだからいいわ。早速行きましょう」
なんかまったく釈然としないのだが、ここは山地で発散するとしますか。あ、その前に昨日作っておいた武器の確認だな。
【狂気な元道化師のベリーショート】10/10 ×42
【どんぐり】(狙撃用)×336
【大どんぐり】(狙撃用)×180
【爆裂ポーション】×1
【凍結ポーション】×1
【超除草ダーツ】×15
ガガガガサガサ ダンダン クオオー
お、早速来たな。
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
小僧、お前、的って…
とんでもないものをとんでもない目的に使ってんな。
そんな姿を王族に見られたらどうなると思ってんだ…。
おっ、MJの奴、こりゃ本領発揮だな。
小僧相手だと妙に滑らかになっちまうからな。あの二陣が初犠牲って訳か。
こりゃ楽しみだ。
小僧、お前、最低評価食らうぞ〜、ハッハ。
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・タラコに【調薬Lv10】を貸し出して混乱させる。
・マジョリカにタラコを任せてしまう。
・ミーナと北の山地へアタック。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:なし
職業:斡旋員
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
装備:男の隠れ家的オーバーオールセット
:勘違い男の品質ダウンジャケット
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv9】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv8】【寸劇Lv1】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv1】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv3】【融合鍛冶Lv4】【観察眼】
所持金:約1000万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密ハンター】【秘密開拓者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:武器屋マークスの困り事>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:12
HP:230
MP:325
筋力:34
耐久:32 【+42】
敏捷:80
器用:33
知力:48
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv6】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【氷華草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




