第140話 三獣士
「助けてくれーー」
折角のおいしそうなお肉に冷や水をぶっかけるように聞こえてくる叫び声。
これはどうしようか。折角ミーナと関係構築しようって時にタイミングが悪すぎるんだが?
「ミーナさん、食べますか?」
「…食べようか」
「…ん?」
なんかミーナが変だ。当たり前のように食べる方向に全部りすると思っていたんだが…なんか思った反応と違う。どうした? もしかして食欲より人助けの方が大切だと悟ったのか?
『フンスフンス』
「ん? どうした、今度はリオンか?」
今度はリオンが落ち付かない様子。なんだよ、ミーナといいリオンといい。
『ゆらゆら♪』
「え? いい気味…は?」
いい気味って? ネギ坊までどうしたんだ? 俺だけわかってないとか、ちょっと嫌だぞ。
「そっか、ネギちゃんはわかってるんだね、でももう終わったことだよ、ネギちゃん。もう関係ないの」
『ゆらゆら~』
なんだよ、契約者の俺をのけ者ってか。じゃあいいよ、そっちがその気なら俺だってこうするもんね。
「ミーナさん、召し上がっててください。俺行ってくるんで」
「え、マジで?」
「んじゃ」
敏捷1でクソ遅いが声のする方に走る。リオンに乗ってないとこんなに遅いんだな俺。
『フンス♪』
「お、いいのリオン?」
リオンが俺を追いかけてくれた。ってかミーナさん放っておいて大丈夫…だな。チート覚醒がまだ残ってるしな。
パッパカ パッパカ
…
…
「おい、そっち行ったぞ」
「うわ、ちょっ、待って。がああ、痛え」
「せ、聖女様、回復を」
「わかりました、ではこちらにいらしてください」
「痺れちゃって無理です。こいつら痺れ毒持ってますよ。こちらまで来ていただけませんか?」
「おい、聖女様に危険なことをさせるな。聖女様を前線になんて出せるかよ。お前たちがモンスターを引き付けとけ! さ、今のうちに聖女様、お逃げください」
「はい、わかりました。あなた達の犠牲に、感謝いたします。では、失礼」
「ちょ、聖女様、俺また死に戻りペナルティ受けたら二陣連中にもすぐに追いつかれちまいます。どうか、一度だけ、キュアヒールを」
「こっちも痺れです。聖女様〜行かないで~」
「くっそ、この犬っころ。痛えだろ。この、この」
ドーベルマン獣人プレイヤーが同じ犬型のモンスターに囲まれて体のあちこちに噛みつかれている。
その周りにも同じような状況の獣人族プレイヤーが地面に転がっては体に噛み付いているモンスターを振り解こうと藻掻いている、
「くっそ、あれだけ尽くしてきたのにいざとなったらコレかよ。何が聖女だ、クソ」
「余裕がある時は笑顔で優しくしてたのに、モンスターが急に強くなりやがったら手のひら返すとは。やられたぜ、クッソ」
「俺、今日2回目の死に戻りだし、噴水にいる二陣に見られたらもうみっともなくて、ログインできねえぜ」
『フンスフンス』
「クッソ、またモンスターかよ。今度はロバか」
『フンスフンス』
「もういいわ、好きにしてくれ」
「あの、助け要ります? って、あ」
「え、あ、ピエロ…君」
リオンに乗って助けを呼ぶ声に駆け付けてみたらこいつら、ミーナのウェイブ時代に散々ウェイブに酷い事言って泣かせた奴らじゃねえかよ。確か俺にも絡んできてたよな。あ、ネギ坊がいい気味だって言ってたのはこいつらだったからか。
「…」
「すんません、こいつら痺れさせてくるんで、ちょっと助けていただけると…」
「…」
「あの、お礼ならするんで、お願いできないですか?」
「…」
正直、俺に対してだけだったら全然助けたと思うが、あの夜のウェイブのしょげ方を思い出すとな。米粒っ子をボコボコにした陽キャ従兄弟らぐらい許せん気持ちが湧いてくる。
『フンスフンス』
「ああ、リオン、ごめん、ちょっと訳ありなんだ」
『ゆらゆら!』
「そうだよな、ネギ坊は知ってるもんな」
『フンスフンス』
「うーん、そう言われてもな」
ドン キャイン ドン キャイン ドン キャイン
へ? 犬獣人たちに噛み付いていた犬っころたちがいきなり吹っ飛んでいった。なんだ?
『ゆら?』
「あ、ミーナ? え、ミーナが助けたの? よかったの?」
いつの間にか俺の隣でリオンのたてがみに顔をうずめているミーナ。
「う、うおああ、助かったーー!」
「まじか、よかったーー」
「俺、もうFGS止めよかと思ってたー」
三人の犬獣人がその場で大の字になって寝転んでいる。警察犬ドーベルマンに黒ぶちダルメシアンに狼系シベリアンハスキーだ。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
「ピエロ君ですよね。プロモ見ましたよ」
「そちらの猫の方、本当に助かりました」
「…だらしないな」
「え?」
「へ?」
「その声…え?」
「いつも言っていただろう。情報を仕入れて万全の準備をしろと。それを聖女に頼って怠るからこんなことになるんだ」
「ウェイブ…様?」
「え、なんで猫?」
「え、本当にウェイブ様で?」
「もうウェイブではない。お前らとも関係はない」
「ウェイブ様、俺たちやっぱり間違ってました」
「そうそう、聖女なんて碌なもんじゃなかったです」
「俺たち聖女に騙されて…ウェイブ様に酷い事を…」
「「「すみませんでしたーーー!!!」」」
三バカ犬獣人が揃って土下座の体勢になりミーナの許しを請う声が山に響き渡った。なかなか息が揃った見事な連携だな。うん。
…
ピンポーン
『特定行動により【料理Lv6】のレベルが上がりました』
「めちゃくちゃうまいっすね」
「こんな肉久々っす」
旨そうに肉を食う三獣士。結局助けたついでにみんなで肉を食うことになったんだが、ミーナはだいぶ向こうでリオンたちと食ってる。
「久々?なんで?食えるでしょ?一角亭とか蜥蜴の尻尾亭とか」
素材は高級肉だが本職とは料理の腕が天と地ほど違う。一角亭ほどではなくとも蜥蜴の尻尾亭ならこれくらいの品質なら食えるはずだが。
「NPCショップ出禁になって久しいですから」
「俺たちあちこち出禁になったんですよ」
「あのクソ聖女のために無理やり予約取らされたりしてて…」
「それはお前たちの素行が招いたことだ。このスプラは一角亭でアポもなく個室利用が許されてる」
肉を取りに来て小言を言うミーナ。でも余計なことは言わないでほしいのだが。
「え、まじっすか、ピエ…スプラさんって何なんすか。ボス戦の活躍といい」
「あ、いや、偶然?」
「そんなことよりお前たちはこれからどうするんだ? NPC信頼度がマイナスなら普通にはやっていけんだろう」
そうだよな。食い逃げ経験あるもんな君。相手の気持ちがわかるって大切なことだよな。
「…できれば、もう一度ウェイブ様と共に…」
「それは無理だな」
「早っ!」
思わず突っ込んでしまうくらいの即答だった。哀れ三獣士。
「もう誰かの威を借るのはやめて自分の力でやりたいことをやったらどうだ」
「ウェイブ様、俺たち無理なんす。リアルでもつるんでんすけど、何をどうするとかそういうの知らなくて。どこでも厄介者扱いで」
なんだ、あんなに高圧的だったのに、リアルじゃそんな感じなのか。人はわからんもんだな。
「俺たち、昔から半端なことばっかりして、なんにも身につかなくて。リアルじゃなんにもできねえからFGSなら好きなことできるんじゃねえかって。危ねえゲームって話だったし、どうせすぐ過疎って終わるだろって。だからなけなしの金使って3人で買ったんすよ。やりたい放題できるならって」
なるほどな。まあ、俺も似たような動機だしな。退廃的な気持ちだったのは同じだ。
「お前ら、そんな動機で…」
「まあ、動機なんて人それぞれですよ。あくまでゲームなんだし、気楽にやったらいいですよ。ケガもしなけりゃ病気にもならない。仕事ができなくても弱いモンスター狩ってたら何とでもやっていける。それに失敗してもゲームなんだから何度でもやり直しができる。『リアルの為の練習だー』くらいに思って気楽に何でもやってみたらどうです?」
だはは、療養中の俺が何言ってんだかな。笑える。
「練習…っすか?」
「何度でもやり直しできる」
「俺等でも何とでもなる…」
ピンポーン
『斡旋したクエスト<農業ギルドマスターアイザックの相談>が完了しました。報酬は<農業ギルドマスターアイザックの依頼>へと持ち越し越されました』
相変わらす空気を読まないピンポンさんが報告してくる。そっか、四人娘が30人達成したのか。それは良かった。でも、なんだ報酬の持ち越しって。
ビコピコ ピコピコ
「ん、なんだ? なんかピコピコなってるな」
「あ、ピコピコはフレコだよ」
「フレコ?」
「そっか、スプラってフレンドいたんだ。ふーん、そっか」
「え、ウェイブ様の日常会話?」
「新鮮だな」
「ふーん、そっかって、マジ女子?」
「あ?」
ミーナが三獣士に絶対零度の視線を送っている中、フレンドコールらしきマークをチョイ。俺フレンドいないんだが…なんかの営業とかかな?
『あ、スプラさん、すみません、勝手にクエスト更新しちゃいました。ギルドマスターから頼まれちゃって断れなくて』
ん? この声はサクラか? なんで?
「えっとサクラさん?」
『はい、サクラです』
「なんでフレンドコール?」
『え、フレンドになりましたよね? 畑に入る時に』
え?畑に入る時?畑に入れるように登録はしたな。え、あれ、フレンド登録なの?
「あ、あれってフレンド登録なの?」
『フレンド登録かつ入場許可です。フレンドであることは最低条件で、フレンドだけに入場許可が出せるんですよ』
「あ、そういうことか、なるほど。で、クエスト更新ってさっきピンポンさんが言ってたやつ?」
『ピンポンさん? あ、アナウンスですね。そう、それです。なんか、あと5人追加してくれないかって』
「そうなんだ、わかったよ。頑張ってね」
『あ、それがですね、今日中にって事なんです。受けちゃってからよく考えたら声かけられる人には声かけちゃってて、ちょっと厳しいかなって。それでもし失敗しちゃったらスプラさんに申し訳ないなって。せっかくクエスト斡旋してくれたのに』
「今日中かあ、ま、しょうがないよ。何でもできる訳じゃない…」
サクラを慰めようとしてたらちょうど目の前にミーナに睨まれて縮こまっている犬獣人たちが視界に入る。…ふむ、これはアリ…だな。
「あ、サクラ、3人はこっちで確保できると思うから2人くらいならどう? いけない?」
『え、3人、本当ですか? 2人くらいなら何とかします。してみせます』
「うん、じゃあ、そういう事で頑張ってね。ただ、無理のないように」
さて、じゃあ、帰りますか。流石にこの3人なら帰り道知ってるよな?
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
ふむ、人間ってのはなんで自分の不利益にしかならないのに助けるかね。
たしか自業自得って言うんだろ、そういうの。
そんなことより鉄不足の方を何とかしてくれねえかな…。
意外と深刻化するの早まりそうなんだがな。
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・ウェイブの取り巻きを助ける。
・習得:【料理Lv7】
・取り巻き3人を三獣士と一括りにする。
・初めてフレコを受ける。
・三獣士に畑をさせようと企む。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:なし
職業:なし
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
装備:男の隠れ家的オーバーオールセット
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv7】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【匙加減】【火加減】【下処理】【創薬Lv4】【依頼収集】【料理Lv7】new!【寸劇Lv1】【鍛冶Lv2】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【よく見る】【乾燥】【雄叫び】
所持金:約1000万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:武器屋マークスの困り事>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:5
HP:160
MP:220
筋力:20
耐久:18【+42】
敏捷:45
器用:19
知力:27
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv4】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【氷華草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
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