第136話 2本の尻尾
「ガルルルルル」
美味しそうな肉を咥えながら俺を威嚇する森林大狼。俺はヨダレを垂らせばいいのか、怖がればいいのか…どっちだ?
ヒヒーン
慌ててリオンが向きを変えて走り出す。
「ガルルル」
が、向きを変えた瞬間に森林大狼に回り込まれてしまう。メッチャ速いな。リザードドッグが亀に思えるくらい速いぞ。
ヒヒーン
「ガルルルルル」
再度向きを変えるリオン。しかし向き終わった瞬間に嘲るようにして行く手に立ち塞がる森林大狼。
「ガフ、ガフ」
肉汁を滴らせながら焼き鹿肉を咀嚼する森林大狼。
クッソ、美味そうに食うな、コイツ。腹立つから【自動照準】からの【狙撃】…
ヒュン ヒュン
俺の無言かつノーモーション狙撃したピエロダーツが遥か彼方に飛んでいく。コイツこれも避けるのかよ、マジか。
ヒヒーン
再び方向を変えるリオン。あのネヒルザ婆相手にも対抗できたリオンから焦った気持ちが伝わってくる。もしかして、この森林大狼って強敵なのか? 全く逃げられんとか、そんなモンスターいるはず…あ、いたわ。大渓谷にそんなのいたぞ。ってことは…おいおいまさかコイツって【渓谷鷲】枠なのか?
いや、じゃあ、ピンポンさんこないとダメじゃん。なんで来ないんだよ。
「【逃走NZ】発動!」
ブーン
『パーティーメンバーが取り残されるため【逃走NZ】は発動できません』
は? なんそれ。聞いてない。聞いてないし、書いてない。おい、レイス、何度も言わせんな。ちゃんと書けよ、そういうの!
「ガルルルルル」
肉を平らげた森林大狼が残すは俺をガブリンチョするだけだと言わんばかりに牙を剥く。
やっば。今、お金凄いあるんですけど。弁当もダーツも、鹿肉もいっぱい持ってるんですけど? でも、それ以上にガブリンチョで死に戻るのは嫌すぎる。
「ほらほら、オオカミさん、こっちこっち!」
「え?」
俺を威嚇しまくる森林大狼。その森林大狼の背後にいきなりミーナが現れる。それを知った森林大狼の姿が消え、ミーナの背後に現れる。と同時に今度はミーナが消えて森林大狼の背後を取る。そして消える森林大狼。…なんだコレ?
俺の周りで展開される、消えては現れの鬼ごっこ。逃◯中とは全く趣の異なる逃走劇が繰り広げられる。
『フンス…』
リオンも何がなんだかと困惑している様子。
『ゆらゆら?』
ネギ坊が『見てるだけでいいの?』とか言ってくるが、いや俺にどうしろと?
とりあえずステータス画面だけでもチェックしとくか。姿が見えんからステータスくらいからしか状況が分からん。
「あっ、ミーナ、これダメじゃん」
ミーナのステータス画面を見て焦る。なぜか? ミーナの満腹度がもう1/2を切っているのだ。
「どうしよう…」
あんな状態でミーナが弁当を食えるはずもなく。あ、そうだ、こういう時は…。
「リオン、石板に戻ろう」
…
…
「ミーナ、こっち」
俺は【焼き飯おにぎり】を目の前に現れたミーナに渡す。一角亭弁当の中身を石板で焼いて作ってきたやつだ。
「あんがと」
一言残して姿を消すミーナ。満腹度を見るとすでに半分以上に回復している。「食うの速えな」とか思いつつも口には出すまい。
その後も腹が減っては俺の前に現れておにぎりを掻っ攫っていくミーナ。そのまま森林大狼との変態的鬼ごっこが30分以上続く。そして俺が「そろそろ疲れたな」と思い始めたその時、ついにこの時を迎える。
キュルルルルルルル
急に姿を消さなくなった森林大狼。そのお腹からは分かりやすい空腹のお知らせが鳴り響く。
物欲しそうな顔の森林大狼が頭を垂れながらと森を振り返る。哀愁漂う森林大狼の後ろ姿が森の木々の陰に消えていった。
ピンポーン
『パーティーメンバー「ミーナ」が条件を満たしたため固有スキル【マジ舞餌】の効果が解放されました』
【マジ舞餌】
三柱の一人レイスに認められ、この世界を敏捷さのみで生き抜く覚悟を持った者に与えられた固有スキル。初期種族は無類の敏捷さを誇るが常に空腹状態の魔獣三尾猫。満腹度の減り方は不動時10倍、移動時20倍…
《追加》
魔獣三尾猫が覚醒する時、それは世界に存在する敏捷の特異点を凌駕した時。覚醒した三尾猫は限られた時間、その増える尾と共に敏捷値に伴う能力を得るだろう。
《効果追加》
・日に2度まで覚醒状態になれる。
・覚醒状態:敏捷値以外のステータス値の一つを敏捷値まで引き上げる事ができる。
・覚醒状態時は満腹度減少がさらに20倍となる。
・覚醒状態は満腹度を回復させると解除される。
・【連撃】【一撃】【結界】【回避】のスキルを習得する。
【連撃】
威力(筋力依存)、連撃数(敏捷依存)による連続斬撃攻撃。連撃中は相手にスタン効果。
【一撃】
威力(耐久と敏捷の低い方の値×8依存)による体当たり打撃攻撃。ノックバック効果(大)。
【結界】
魔防(知力依存)、範囲(敏捷依存)による対魔法バリア。
【回避】
完全回避率(敏捷依存)、部分回避のダメージ軽減率(器用依存)による物理回避術。
…だから〜、長いって。説明が長い!
…
…
「モグモグ、つまり1日2回、チート戦闘能力を得られると。モグモグ」
「モグモグ、でもせいぜい1回15秒程度ね、満腹度的に。モグモグ」
「モグモグ、短いな。モグモグ」
「モグモグ、チートなんだからそんなものよ。モグモグ」
「モグモグ。来てすぐ必殺技だけ使って帰っていくウル〇ラマンって感じだな。モグモグ」
「モグモグ。ジェンダーフリーだからウルト〇ファイターね。モグモグ」
「モグモグ。面倒だな。モグモグ」
「モグモグ。いろいろあるの、世の中は。モグモグ」
「モグモグ。とりあえず、こまめに満腹度回復しといた方がいいかもな。モグモグ」
「モグモグ。いつ戦闘始まるか分かんないもんね、今回みたいに。モグモグ」
「ゴクゴク。今ちゃちゃっと作っちゃうわ。おにぎり」
「モグモグ。うん、お願い。モグモグ」
肉を焼き続けていた石版で今度は【焼き飯おにぎり】作りを始める。持っている弁当を全ておにぎりに変えたら50個を超えた。それを全てミーナに持たせる。俺の方は焼いた肉を確保しておく。
この一連の焼肉とおにぎり作りで俺の【料理】はレベル5まで上がっている。料理レベルが上がると、料理の品質も上がる上にレシピから作る時間も短縮できた。品質は満腹度の上昇量に直結するから大切だが、ミーナの消費量を考えると時間短縮も地味に嬉しい。
「さて、じゃあ街に戻りますか?」
「モグモグ、そうだね」
あの、ミーナさん、とっくに満腹でしょうにまだ食べてるんですか? それと口元ごはん粒ついてますけど?
思っても口には出さずに森の中へリオンを走らせる。
ヒヒーン
しばらく進んでいきなり立ち止まるリオン。なんだ、敵か? いや森林大狼と鹿肉でもうお腹いっぱいだぞ。これ以上は要らん。
【森首領鹿】
森大鹿を狩るものに災いをもたらす森大鹿の守護者。森大鹿を一度でも狩る者、この森を出ることまかりならん。
いやいやいや、明らかに森のボスですやん。あ、わかった。そういうこと? だから誰も森大鹿狩ってなかったの? だよね、こんなに獲れるのに高級肉っておかしいもんね。俺の馬鹿。
ドカン! …ガン!
「え?」
なんか、ボス鹿が急に吹っ飛んで大木にめり込んでるんだが?
「これ凄いよ、スプラ」
嬉しそうに目の前に現れる米粒くっつけたミーナさん。ん? なんか尻尾が2本見えるんだが? うーん、あれやこれやで俺もさすがに疲れたか…?
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
あああああああーー!
いやいやいやいや、それはないわ。
流石にあかんって。
小僧の時の反省から確率0.000002%まで下げてたのに。
ってか、FG、お前負けてんじゃねえーーー!
縄張り内だったら空腹にならねえのに匂いに釣られてヒョイヒョイ出て来るから!
で、Z、お前も!
お前が担当委任しちゃったせいでFGが簡単に出てきちゃったんだぞ!
しかもお前、FG見てマジで驚いてただろ!
お前まで無自覚枠とかやめてくれ、ほんと。
こんなんじゃ予測が…予測が全くできねえじゃん!
…グスン。
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・森林大狼がギャオス枠だと知って絶望する。
・ミーナに助けられる。
・ミーナにおにぎりを作る。
・習得:【料理Lv5】
・ミーナの覚醒について話し合う。
・森首領鹿に行く手を阻まれ、絶望する。
・またミーナに助けられるが、尻尾が2本に見える。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:なし
職業:なし
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
装備:男の隠れ家的オーバーオールセット
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv4】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【匙加減】【火加減】【下処理】【創薬Lv4】【依頼収集】【料理Lv5】new!【寸劇Lv1】【鍛冶Lv2】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv2】【よく見る】【乾燥】【雄叫び】
所持金:約1000万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:5
HP:160
MP:220
筋力:20
耐久:18
敏捷:45
器用:19
知力:27
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv3】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【氷華草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




