第131話 9日目 腹ペコ熊の満腹亭
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「じゃあ、行こうか、腹ペコ熊の満腹亭」
「…本当に行くの?」
俺の誘いにミーナがすっごく嫌そうだ。
俺がこれからミーナを連れて行こうとしているのは「腹ペコ熊の満腹亭」。だが別に何か食べに行こうって訳ではない。理由はこれ、ミーナのステータスの一部だ。
名前:ミーナ
種族:魔獣三尾猫
星獣:なし
肩書:なし
職業:食い逃げ(15:38:52)
属性:なし
Lv:1
HP:20
…
ミーナ、こやつ、職業【食い逃げ】になってるのだ。はじめは何のことかさっぱりわからなくて放置していたが、なんとなく気になってさっき食い逃げの文字をチョンとしてみたらこんな説明が出てきやがった。
【食い逃げ】
NPCの好意にかこつけて飲食し、代金を支払わずに逃走した者が強制的に転職する。逃走後、48時間以内に償いと和解が成立しな場合には衛兵に追い回され牢獄に入れられる。
で、ミーナを問い詰めたらのらりくらり言い逃れしながらやっと白状した。
要約すると、飢餓で何度も死に戻ったことで飢餓が怖くなり、料理屋で飲食しようと思ったがメニューからの先払い制だったためできなかった。だが、たまたま訪れた腹ペコ熊の満腹亭の店主が優しそうだったから腹ペコでお金がないことを伝えたら、店で働くことを条件に腹いっぱい飯を食わせてくれた。で、約束通りにミーナが店員として働いていたら、ウェイブ時代の取り巻きだった奴らが入店してきてパニクり、気が付いたら店を飛び出して街の外まで逃げていた。で、リスの背後からの不意打ちで死に戻り、それからずるずると今に至っているとのこと。
あと15時間しかねえじゃねえかよ。危なかった。食い逃げ文字チョンしてよかった。
ということで、ネギ坊とリオンにも説得してもらいながらミーナを連れ出すことにしたのだ。満腹亭に。
「さて、じゃあ行くか」
俺はリオンに乗って、ミーナは少しづつ移動しては止まりを繰り返す。そして広場を通過するという時に、一斉に広場が光り出す。
「うおお、なんだなんだ?」
「あ、そういえば第二陣が8時にログインしてくるんだった」
「え、正午じゃなかったの?」
「早めろって声が多かったらしくて早まったんだって」
「マジか…」
広場を突っ切ろうとしてもう真ん中あたりまで来てしまってる。ログインの光の輪に囲まれてしまった。くそ、嫌だー、人込み嫌い。
「おおおー、やっときたぜーー!」
「すっげー、リアル過ぎじゃね?」
「きたー!」
「ハロー、FGS!!」
「アマデウスさーん見ててねー」
「来た来たー…あれ?」
「おお、ここがFGS…え?」
一気に光の輪から姿を現す第二陣プレイヤーたち。だが、一定数ログインしたところで沈黙が流れ出す。俺も隣のミーナも言葉が出ない。そして互いの服装を見合う。
「ちょ、なんでオーバーオールだらけなの?」
「ピエロばっかりじゃねえかよ」
「マジか、カブるとか」
「え、オーバーオールばっかじゃんか」
続々とログインしてくる第二陣の装備というか服装が、4:4:2でオーバーオール、ピエロ、その他となっているのだ。もしかして初期装備の仕様が変わったのか? オーバーオールとピエロ服だと性能が上がるとか? …んなアホな。
「あれ? ねえ、あれって…」
「あ、あの身長と薄緑の髪って…」
「白馬じゃなくてポニーだけど…」
「きゃあ、あの人猫様じゃない? え、本物?」
「え、ピエロ君…?」
なんか急に視線が俺たちに集中してきたんだが? これはとってもマズいよな。
「ミーナ、満腹亭前で会おう」
「う、うん」
ミーナが姿を消した後、リオンの【疾走Lv1】で二陣プレイヤーの間を駆け抜ける。レベル1の二陣プレイヤーにはリオンの「敏捷25+疾走」に追いつける能力はない。なんとか広場を抜け出して満腹亭に走る。
パッパカ パッパカ
「お、さすがチート猫ミーナさま、速いな」
「なによ。だれが食い逃げ猫よ」
いや、一言も言ってませんが? 猫しか合ってませんが?
腹ペコ熊の満腹亭を前にして情緒が怪しいミーナ。ここはネギ坊とリオンに何とかしてもらおう。
『ゆら♪』
『フンスフンス♪』
「なあに二人とも。そんなに優しくしてくれるの? もういっそお姉ちゃんと契約し直す?」
情緒が戻ったのはいいが、戻ってそのままレッドゾーンまで振り切れたらしい。
まあ、ここはそのままそっとしておいて、流れのままに満腹亭の店内にミーナを連れ込むことにするか。
「いらっしゃ…い…」
ミーナを見て言葉が詰まる熊獣人の店長。その目は無機質。そりゃそうだな。恩を仇で返したんだから。これはしょうがない。でもミーナ、ここからどうするかだぞ。そこが大事だ。
「あ、その…」
「そこに座んな」
顎でカウンター席を指す店長。熊だけに結構な威圧感だな。それでもあのクソ上司の半分もないが。
「その…すみませんでした。逃げるつもりはなくて…」
「わかってるよ。あの客たちが原因なんだろ」
ちょっとだけ声のトーンが変わった店長。それを知って視線を上げるミーナ。
「あの客たちを見てあんたの様子が変わった。で、あの客たちの振る舞いを見たらなんとなく想像は付いたさ。よく戻ってきた。なんか食うか?」
「え、いえ、大丈夫です…」
ま、こういうできた人も世の中にはいるが、ここは罵倒されてもひたすら謝るしかない場だな。俺もしくじった時に迷惑かけた取引先から南極点かってくらい心が冷える対応をされたことがある。が、時間をかけて信頼を回復していったらなんか知らんけど特別な関係を築けたっけか。ま、それも相手次第なんだろうが。
「あの、あの時の代金これで足りるでしょうか?」
ミーナが3万Gを差し出す。それを見た店長が目をまん丸に。
「こんなに要らねえよ。この20分の一で十分だ。うちは姉ちゃんみたいな腹ペコで金のない客を満腹にするためにやってるようなもんだからな」
「あ、でも迷惑料ということで」
「いいって。姉ちゃん異人の冒険者なんだろ? 武器なんかも必要なんだしそっちに使ってくれ。で、また腹ペコで困ったらうちで食ってってくれ。ドロップの肉でも持ってきてくれたら腹いっぱい食わせてやるからよ」
「え、そんな…」
「ミーナ、ここは店長のご厚意に甘えておこう。で、折角だし、腹いっぱい食べていこう。店長、今日は金ならあるんで、店長のお勧め料理いただけますか?」
「はっは、あんたスプラ君だろ? 蜥蜴の奴からもいろいろ聞いてるぜ。じゃあ、今日は任せてもらおうか」
そう言って店長は勢いよく鍋を振り始める。いや、俺こういう人好きだよな。
「ねえ、スプラ、ドロップでおいしいお肉ってどこで手に入るかな」
ご飯粒を口元につけながらミーナが聞いてくる。
「おいしい肉かあ。そういえば領主が高級肉って言ってた森大鹿が南の平原にある湖の森にいるらしいんだよな。なんかゴブリンのせいでいなくなっちゃったらしいけど」
「じゃあさ、ゴブリンも終わったんだし、今から行ってみようよ。熊さん店長に持ってきたいから」
「ああ、そうだな。いいかもな」
ミーナの案には俺も大賛成だ。こういう人との縁は大切にしたい。
満腹亭で満腹になった俺たちは、満腹弁当を50個購入して南の平原に向かった。まさかあんなことになるとは知らずに。
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
「食い逃げ」な。よく気が付いたな、小僧。
本来なら、初日のお前がここでご厄介になるはずだったんだけどな。
敏捷1でずっとお手伝い三昧の日々だったはずなのに。
それがこんな意味不明なチートになり果てるとは…
俺は悲しいぜ。
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・ミーナを腹ペコ熊の満腹亭に連れていく。
・情に絆され南の湖の森に行くことを決めてしまう。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:なし
職業:なし
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
装備:男の隠れ家的オーバーオールセット
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv4】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【匙加減】【火加減】【下処理】【創薬Lv4】【依頼収集】【料理Lv1】【寸劇Lv1】
所持金:約1000万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:1
HP:120/120
MP:160/160
筋力:12
耐久:10
敏捷:25
器用:11
知力:15
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv1】【足蹴Lv1】【噛み付きLv1】【運搬(極)】
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【氷華草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




