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第120話 毒薬

「ディオーネ、そこまでです」


 勢いよく開いたドアから入ってきたのは、気品とオーラに包まれた女性だ。すっごい美人。俺、この人に怒られたら確実に寝込むと思う。



「おお、メアリー、もう体調はいいのか?」


 セゾールがタタタと駆け寄る。



「はい、マジョリカ様が門番ダリンに渡してくださったお薬でこの通りよくなりました」


「…」


 美人枠のメアリーさんがディオーネに視線を送りながら応える。ディオーネは何が起きているのか分からない様子。なんかオロオロしている。


 ってか、門番ダリンって俺にマジョリカさんへの手紙を託してきた人だよな。確か商業ギルドの受付さんのお兄さん。てことは、あの手紙はメアリーさん関連だったのか?



「ディオーネ、あなたから貰った美容液、マジョリカ様に調べていただきました」


「…」


「とてもお高い物だったとわかりましたよ」



 そう言うメアリーさんの視線は氷華草のような冷気を纏っている。世の中にはこういう視線で見つめられたいという変わった人種もいると聞くが、俺は無理だ。あんな視線には絶対に耐えられない。トラウマものだ。



「ずいぶんな品だったよ。2ヶ月前に王都の裏オークションで3億Gで落札された【腐草くされぐさ】が使われてるなんてね。そこまでたどり着くのに苦労したよ」


「く、腐草ですと!? 証拠も残さず暗殺に使われるゆえご禁制になっている劇毒…ディオーネ、どういう事だ」


「…」


 さ、3億…裏オークションか、そんなのあるんたな。【腐草】が3億G、じゃあ【毒毒毒草】はいくらになる…


 ペチペチ


 隣にいるリオンのたてがみから器用に葉っぱだけ出して叩いてくるネギ坊。ネギ坊がこの反応をするってことは…どうやら高く売れるらしい。ふむ。



「メアリーの顔はひどいもんだったよ。あれじゃあ部屋から出られないのも無理はない。しかも腐草なんて普通に調べたんじゃ痕跡なんて出やしない。大金を使うだけの価値はあるってもんだ」


「マジョリカ様のお薬がなければ生涯あの部屋で過ごすことになっておりました」


「な、なんと」


 マジョリカさん、ずっと忙しそうにしてると思ったら、こんな事に関わっていたのか。毒薬の解析に、それに対抗する薬の開発。そりや、店番してる場合じゃないな。あ、もしかして生態学者のオットーさんと知り合いだったのもそれに関係してるのか?



「ディオーネ、お前…」


「セゾール様、そんな一介の薬屋の言う事を信じると仰るのですか? わたくしはセゾール様の為にこの街の発展の為に尽くして参りましたのに」



 ほろほろと涙を流して大げさな演技に走るディオーネ。なんか文化祭の演劇でも観てる気分だな。しかしディオーネよ、ここにはそんな生温かい目で見てくれる観客はいないぞ。なんせ危険度MAXの暴風雨警報が発令されている真っ最中なんだからな。しかも季節外れの大寒気まで登場してるんだ。何が起きるのか全く分からん。



「どこの誰に吹き込まれたのか知らないが、あんた、この街が物資不足に陥ることを事前に知ってたね? それに加え異人が追加で来ることも知った。そこで思いついたのか入れ知恵されたのか、あんたはゴブリン騒ぎの緊急事態にかこつけて街中の物資を領主権限を使って格安で買い叩いた。物資不足をさらに加速させて明日の異人来訪に合わせて最高値で売り切ろうって腹だったんだろ? 異人はこっちに来る時に良い武具を揃えてくるからね。物資不足の中じゃ、必要なものを買うために異人は装備を売るしかない。で、あんたは稼いだ金で異人から武具を買い漁る。で、その買い漁った武具はどうするつもりだった? 秘密裏に王都へ運ぶつもりだったんじゃないのかい? そのためには北を抜けるのが最適ルート。どうせそのルート開拓も同時にやってるんだろ?」


「お、王都へ… ではこの街は…」


「メアリーを引きこもらせて好き勝手やってくれたね。もう全て情報たまは揃ってるんだ。大量の武具を王都へ運んで何をするつもりだったのか…お前の実家は近く内乱罪で処罰されるだろうよ」


「な、内乱… はっ、一介の薬屋がしゃあしゃあとよくもそんな出鱈目ばかり並べられたもんだ」



 追い詰められたディオーネがいきなり江戸っ子になった。なんだ? 桜の入れ墨彫ったお奉行様でも出てくるのか? 



「わたしの実家が内乱罪? 四公のシェザー家が? 笑わせるんじゃないよ。そんな事ができるんならやってみろってんだ。こちとらはるばるこんな田舎街のバカ領主に嫁いでやってんだ。異人相手に稼いで何が悪い。ああ?」



 ディオーネよ、逆ギレというのはしていい場面と、絶対にしちゃいけない場面があるんだぞ。その知識を冥土の土産にするといい。



「ディオーネ…、今をもってお前を離縁する」


「はん、離縁上等!」



ピンポーン

『他プレイヤーが受注していたシークレットクエストを消失させました。スプラ様には【秘密の火消し人シークレットファイヤーファイター】の称号が与えられます』



【秘密の火消し人】

 他プレイヤーとの間に対抗するシークレットクエストが発生した際に、相手とシークレットクエスト作成NPCとの信頼度を1段階下げる。



 …誰かは知らんがすまん。悪気はない。




「女、ちょっとお待ち」


 荒々しく部屋を出ていこうとするディオーネをマジョリカさんが殺気を放って止める。



「お…女。さっきから四公出のわたくしに向かって何という口の利き方」


「ディオーネ、お前こそ口を慎め。こちらにいらっしゃる方をどなたと心得る。恐れ多くも先の国王のお母上、マジョリカラン太皇太后であらせられるぞ」


「た、太皇太后… 嘘」


 セゾール領主の言葉にその場に膝をつくディオーネ。その顔には絶望の色しかない。


 …なんか、お奉行様じゃなくて御老公が出てきてしまったようだ。



 ってか、マジョリカさん、王族とかマジっすか。なんで始まりの街で薬屋なんかやってんだよ。



「(スプラ、あんたにはいずれゆっくり話すよ)」


 …イエス、マム。



「女、お前をこの街に送ったシェザー家の思惑はすでに王都で調べがついている。大量の異人相手の商売はそりゃあ儲かるからね。だが、誰の入れ知恵か、お前は異人から武具を買い漁る計画を立てた。大量の高品質な武具を安くそれも一気に手に入れられる。それを聞いた実家のシェザー家は秘密裏に私兵団の増強を画策した。軍に対して力を持つ四公バンディー家に対抗するためだ。四公の権力バランスを崩して一気に権力を広げようとしたんだろうが、王家への報告なしに軍備を増強することは…分かるね?」



「そ、それはお父様がお決めになられた事…」


「そう、お前は実家に利用されたにすぎない。それにどこの誰かも知らない奴からもね」


「そ、そんな事…」


「ま、そこまでならあんたにも同情の余地があった。だがね、メアリーへの対応はやり方が拙がった。第一夫人のメアリーに美容液とかこつけ証拠の残らない腐草入りの毒薬を渡した。それを使ったメアリーは肌に深刻な異常をきたして部屋から出られなくなった。この街の政務を一手に支えていたメアリーを退けたあんたは、図体と見栄えだけが取り柄のセゾールをいいように操って街を深刻な物資不足に陥らせた。」


「…」


 あの、マジョリカさん、セゾールさんの取り柄の図体が小さくなってますけど…。



「言いたくなければそれでいい。まあ、よく考えたよ。食事には毒見がいるからね。毒を使うなら毒見がいない美容液が狙い目だ。それにメアリーを狙ったのも正しい判断だ。この街があるのはメアリーがいてこそだからね」


 いや、マジョリカさんこれ以上言ったらセゾールさんが…。ほら、すっごい小さくなってる。消えちゃわない? 大丈夫?



「あんたの罪は、メアリーへの傷害と街を混乱に陥れた威力業務妨害で…25年ってところか。あんたには反逆罪は適応されないからね」



「…」


 ディオーネが衛兵に連れられていく。あ、あの衛兵…ダリンさんじゃん。そっか、マジョリカさん付きの衛兵だったのか。って事は格さんだな。じゃ他に助さんもいるのか? ゴルバさんは…八兵衛か? いや、どっちかというとセゾールの方が八兵衛…


「スプラ様、マジョリカ様から伺いました。この度は貴重な薬品を開発してくださったとか。このメアリー心より感謝を申し上げます」


 八兵衛の配役を考えていたら気品美人のメアリーさんから話を振られてしまった。俺に向かってドレスの裾を上げてとっても優雅なんだが? なんか周りにキラキラが見えるようだ。


 ってか、何の話だ? 薬なんて作ったか?



「スプラ、あんたの愛弟子印のことだよ」


 あ、あれのこと? あれ薬じゃないよな。美容液だけど?



「あんたの作った愛弟子印で一発でよくなったんだよ」


「はい、傷んだ皮膚がポロポロと落ちて、前にも増して艷やかな肌になりました」


 そう言ってメアリーさんはすっごく美しく笑った。



 う、うん、よくわからんが、まあ、なにかの役に立ったんならいいや。女性はやっぱり笑ってる方がいいもんな。うん、女性の笑顔があふれる社会へ一票!




❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


はあ、MRまで小僧に取り込まれるか…。


しっかし、誰かは知らんがMRを敵に回すとか、スッゲーことしやがったな。

小僧よりも無理ゲーの道進もうとしてる奴がいるとは。

先を予測しねえのかな。

人間ってほんと不思議。



――――――――――――――

◇達成したこと◇

・メアリー第一夫人から怒られる姿を想像して戦慄する。

・愛弟子印の超絶美容液が役に立つ。

・女性の笑顔に一票を投じたくなる。




◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]

 肩書:なし

 職業:なし

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 装備:なし

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv4】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv2】

 所持金:約1万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】

 従魔:ネギ坊[癒楽草]


◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>

〇進行中クエスト:

<眷属??の絆>

<農業ギルドマスターアイザックの相談>



◆星獣◆

 名前:リオン

 種族:星獣[★☆☆☆☆☆]

 契約:小人族スプラ

 Lv:1

 HP:120/120

 MP:160/160

 筋力:12

 耐久:10

 敏捷:25

 器用:11

 知力:15

 固有スキル:■■■■ ■■■■

 スキル:【疾走Lv1】【足蹴Lv1】【噛み付きLv1】【運搬(極)】



◆契約◆

 名前:ネギ坊

 種族:瘉楽草ゆらくそう[★★☆☆☆]

 属性:植物

 契約:スプラ(小人族)

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:0

 器用:1

 知力:5

 装備:【毒毒毒草】

   :【爆炎草】

   :【氷華草】

 固有スキル:【超再生】【分蘖】

 スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】

 分蘖体:ネギ丸【月影霊草】



《不動産》

 畑(中規模)

 農屋(EX)


≪雇用≫

 エリゼ

 ゼン

 ミクリ

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