第119話 胡散臭い領主館
「ここは領主セゾール様のお屋敷だが、何の用だ」
厳つい門番さんが通せんぼしてきた。重そうな鎧で全身を固めた兵士風の門番が威圧してくる。
「ちょっと通らせてもらうよ」
「待て待て、婆さん。聞こえなかったのか? ここは『領 主 館 だ』」
あーあ、マジョリカさんを婆さん扱いしちゃったよ、この門番さん。俺は知りませんよ。スキル【俺は何も見ちゃいないし聞いてもいない】発動。
「セゾールにマジョリカが来たって言えばわかるよ」
マジョリカさんが静かに言い放つ。あれ? そうなの? もっとこう「誰がBBAだこの野郎!」って感じを予想してたんだが。
「セ、セゾール様を呼び捨てにするとは、不敬罪に問われるぞ」
門番はギロッと目を見開いてマジョリカさんを見下ろす。持っている槍先をマジョリカさんの目の前に移動させたのは威嚇のつもりだろう。
「いいから早く呼んでおいで。わたしはこう見えて忙しいんだよ」
マジョリカさんが面倒くさそうにそう言うと、門番は槍の切っ先を今度はマジョリカさんに向ける。
「セゾール様を呼びつけようとするとは、なんと不敬な。これ以上ここで狼藉を働くならただではすまんぞ」
門番が大声で叫びながらマジョリカさんににじり寄る。
「なんの騒ぎですか、これは」
「あ、セバス様」
屋敷の門越しに執事風の装いをした年配の男が顔を出した。それを見た門番がさっと槍先を引っ込める。
「いえ、この住人どもがセゾール様を不遜にもここへ呼びつけようとしたため、不敬であることを身をもって知らせようと」
セバスと呼ばれた執事風の男はマジョリカさんを見る。
「マ、マスター」
マジョリカさんを見た執事さんの膝がカクンと落ちた。
なんか前に同じような光景を冒険者ギルドで見たような気がするのは気のせいだろうか。
「セバス、丁度いい、セゾールをここへ呼んできてくれないかい」
「マスター、ここでは何かと人目もありますので、どうぞ中へお入りください」
「そうかい、じゃあ、お邪魔するよ」
そう言ってマジョリカさんは俺の腕をしっかりと掴んで門を入っていく。門番はまだ難しそうな顔して俺らを見てくるが、今のマジョリカさんとセバスさんのやり取り見てなかったのかと言ってやりたい。
「お茶とお菓子をお持ちしました」
「ああ、ありがとうよ」
そう言ってマジョリカさんはセバスさんが持ってきたお菓子をポイっと口の中へ放り込むとお茶をすする。
俺たちが通されたのは応接室だ。
30畳以上はあるだろう部屋。その壁にはこれでもかと豪華な絵や獣のはく製が飾られ、床には白と黒のふさふさとした毛皮が敷いてある。これ絶対に激強モンスターのレアドロップだろうな。
中央の机はきれいな斑模様の石材でできていて、ソファーは座るとお尻がすっぽりと沈み込む柔らかいクッションになっている。
コンコンコンコン
俺が部屋の調度品に夢中になっていると、ドアがノックされる。2秒置いて入ってきたのは、濃い緑に金の縁取りをした軍服のような装いをした大きな男と、ボリューミーなドレスに煌びやかな装飾品をこれ見よがしに身に付けた女が現れた。
「これはマスター、よくおいでくださいました」
大きな男が笑顔でマジョリカさんに近づく。
「ああ、門でずいぶんと丁寧な対応をされたよ」
マジョリカさんは男を見ようともしないで目の前のお菓子の包装を乱雑に取り除いている。
「教育が行き届いておらずお恥ずかしい限りです。しかしマスターもお人が悪い。来られるなら来られると前もっておっしゃっていただければ門番にも言い聞かせておきましたのに」
軍服大男が笑顔を作ってマジョリカさんの機嫌を取ろうとする。
「ふん、昨日の晩は見事にしてやられたからね。今日はお前がいる事を確認してから来たんだよ」
マジョリカさんは再度お菓子をポイっと口に放り込む。相変わらず甘党なようだ。
「えっと、何のことでしょうか」
笑顔を崩すことなく首を傾げる軍服男。
「セゾール、お前のことだ、どうせわたしが来た理由の検討はついているんだろう?」
そう言いながら、マジョリカさんが初めて大男に目をやる。その表情は…無表情。これはマズイぞ。すでにキレる一歩手前だ。ってかこの軍服がセゾールか。マークスさんからもクソ領主との高い評価を受けていた偉い人だな。
「…冒険者ギルドへの依頼の件でしょうか?」
悪びれもしないで領主セゾールが答える。悪い事してる奴に限って堂々としてたりするからな。この領主もその類か?
「ふん、依頼ときたか。ま、いいよ。じゃあ、まずはその《《依頼》》から聞いていこうかね。管理下にない冒険者ギルドまで巻き込んで紐付きの商会にモンスター素材を買い漁らせて何をしようってんだい」
そうだぞ、あのせいで俺がどれだけ苦労したか。茶菓子たくさんもらってゴルバさんの護衛付きで毒出し草を探す羽目になったんだぞ。【採取】とか【採取者の勘】とか習得させやがって、おまけにネギ坊とも出会わせやがって、少しは反省しろ。
「あ、ははは、商会のことまで…マスターには適いませんな」
クソ領主が開き直る。そうそう好き好んで悪いことしてる奴は最期には開き直るものだ。どうせこの後、理路整然とした準備万端の言い訳が出てくるんだろう。
「ちょっとお待ちくださらないかしら」
そう言って話に割り込んだのは、セゾールと一緒に入ってきた派手な女だ。
「異人が今この街にいるうちにモンスターの素材を買い集めることに何か問題でもおありですか? 異人はそのうち強いモンスターを求めてこの街を去って行くと聞きました。でしたら異人がいるこの時期にできるだけ多くの素材を確保し換金して街を潤し、異人が去った後のことを考えることも領主としての役割なのではありませんの? それを数日採取依頼を受け付けないくらいのことをそこまで問題にして、セゾール様を悪者扱いするのはいかがなもんでしょうか?」
「セゾール、誰だいこの女は」
マジョリカさんは無表情のままにお菓子の包みを開けている。うん、この静けさよ。この時間が長いほど迫っている台風の脅威は増すのだ。哀れ、派手女。
「わたくし、セゾール様の第2夫人のディオーネでございます」
「そうかい、メアリーはどうしたんだい」
「メアリー様は病気で療養中でございますわ」
ディオーネが口を挟んでもマジョリカさんはディオーネを見ようともしない。ってか、視界に入れてない。
「どうしたんだい、体調でも悪いのかい? 早く言ってくれたら薬の一つでも差し入れに持ってきたんだがね」
マジョリカさんがセゾールに向かって話す。さも何事もないように。こりゃそろそろ暴風雨警報が出てもいい頃だな。
「お気遣い痛み入ります。少しの間、休ませればすぐに良くなると思いますので、マスターのご心配には及びません」
「…そうかい。じゃあ、話を戻そうかね。ディオーネとか言ったね、あんた」
マジョリカさんはそう言って、片眼鏡をクイッとかけ直すと初めてディオーネ夫人に顔を向ける。
「あ、あんた…」
あんた呼ばわりされたディオーネが口をあんぐりさせて驚いている。
「もちろん、あんたが言うように異人がいる間にモンスターの素材を大量に集めて王都辺りででも売り捌けばかなりの儲けになる。この街も潤うだろう。だが、素材を扱う商会が一つだけというのはどういう了見だい。聞いたところじゃ、これまでに全く聞いたことのない商会が急に出てきて素材すべてを掻っ攫っていったらしいじゃないか」
「そんなことはわたくしが知っているわけがございませんわ。わたくしたちが出したのはあくまで『討伐依頼以外を当面は受けないようにし、全勢力を持ってモンスターを狩るように』との指示だけです。その素材がどこの商会に渡ろうが、この街に還元されるのならそれでよろしいんではなくて?」
ディオーネが勝ち誇ったかのように、マジョリカさんを見下ろす。こういう危機感のないやつが台風の時に避難もせずに川の増水を見に行っちゃったりするんだよな。
「ふうん、そうかい。わかったよ。じゃ、これの責任は取るということでいいんだね」
そう言ってマジョリカさんは机の上に何かを放り投げた。あ、これ、アレじゃん。
【巨大昆布】
「きゃっ、なんですの、この気持ち悪いものは」
…なんですのって、見て分からんか? 俺を死に戻りさせた憎っくき空飛ぶ昆布だ。ってか、なんでマジョリカさん持ってるんだ? まさか自分でも見に行ったのか?
「これは南の海水湖で採れた巨大昆布さ」
「こ、これが何だと申しますの?」
だから、俺を死に戻りさせた犯人だと申している。
「これはね、魔物の大量発生に魁て現れる海藻さ」
「…」
そうだぞ。モンスターの◯んちを吸収して巨大化したんだぞ。
「ああ、そしてその周りの森から森大鹿が姿を消した。そしているはずのないリザードドッグが群れているそうだ」
「なんと、あの高級肉が姿を消した…」
へえ、領主を以てして高級肉と認める森大鹿か。一角亭に持ってたらマーサさん喜ぶかな。
「これがどういう意味かわかるかい? 素材価値の高い魔物が大量に狩られ、素材価値の低いゴブリンみたいなのが多く生き残るようになった。そして運よく好物の森大鹿が群生する海水湖のほとりまでたどり着いたゴブリンの群れがいた。そこから大量の餌と水をもとに大量増殖して南の草原を占拠した。これが今回のゴブリン騒動のいきさつだよ」
「し、しかし、わたしが出した依頼制限は実質2日間だけ。それ以降はギルドから断られています。そんな短い期間だけでこのような大きな変化が起きるとは…」
ここへ来てセゾールも動揺を見せる。あれ?なんか急に小物感が増したな。
「何言ってるんだい。その後に商業ギルドでレア素材買い取りイベントなんかしたから生態系の乱れが一気に加速したんじゃないか」
「へ? 商業ギルド? なんですか、それは」
え、この領主、知らなかったのか? もしかして、まさかのポンコツ枠なのか?
「セゾール様、この街のことを思えば価値の高いレア素材の確保が方が…」
「ディオーネ、そこまでです」
バン
ドアが勢いよく開いてやたら気品に満ちたオーラ全開の女性が入ってきた。
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
なんかMJが溌剌としてるんだよな。
MKもSRもMSもさ。
なんで小僧と関わるとこうなるんだ?
俺なんて疲れてくばっかりなのに。
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・領主館での推理現場に同席する。
・巨大昆布を見てイラっとする。
・一角亭への差し入れに森大鹿をロックオンする。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:なし
職業:なし
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
装備:なし
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv4】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv2】
所持金:約1万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
<農業ギルドマスターアイザックの相談>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:1
HP:120/120
MP:160/160
筋力:12
耐久:10
敏捷:25
器用:11
知力:15
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv1】【足蹴Lv1】【噛み付きLv1】【運搬(極)】
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【氷華草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




