第118話 野菜人気
「「「うおおおおおお」」」
イベント終了アナウンスと共に一気に熱を帯びた街中。まったく理由がわからないが、とりあえずプレイヤースキル【俺は何も知りません】を発動して一角亭に向かう。幸い、誰も俺の存在によって気を削がれることなく、ワイワイと盛り上がったり、この世の終わりのようにへ垂れ込んだりしている。
目立つことを恐れてリオンに乗らずにゆっくりと街中を移動すること10分、ようやく一角亭に到着する。
「いらっしゃいま…こちらのお部屋にどうぞ」
いつもの店員さんが俺を見て奥の個室に案内してくれる。一角亭でも俺の記憶は無事に回復したらしい。しかし、今日は弁当と釘のお礼を伝えに来ただけなんだが。
「聞いたわよ、スプラ君、ゴブリン討伐すごかったらしいじゃん」
女店員さんがすっごく馴れ馴れしく話してくる。いや、俺的には別にいいんだけど、一応仕事中なのに大丈夫なのか?
「じゃあ、いつものお勧めでいいわよね」
そう言ってメニューも見せずに去って行く店員。なんか俺、完全に仕事帰りの常連の立ち位置じゃね? 実のところメニューを見ていろいろと料理について知りたかったのだが…。
畑じゃうまそうな野菜が取れてる。それに前に路地販売で買ったたくさんの野菜を死に戻りで消失させてしまった後ろめたさもある。これからは死に戻る前にいろいろと作って食べていこうと思ってたんだが…。
「材料とか知りたかったんだよな。特に肉類」
肉類はおそらくはモンスタードロップ。なら、どのモンスターの肉なのかあてをつけておけば、狙って集めることもできる。あまり強くないモンスターという条件付きにはなるが。
「スプラ君、いらっしゃい。聞いたよ、ゴブリン退治、頑張ったそうだね」
肉の入手法についてあれこれ考えていたらあっという間に時間が経ってしまった。この前の時よりも豪華さを増した料理を運んできたマーサさんが俺の対面に座る。そしてマーサさんからもゴブリン討伐の話。どうもゴブリンエンペラー討伐の件はすでに住人に知れ渡っているらしい。
「マーサさんから頂いた釘があったから討伐できました。ありがとうございました。それにまたお弁当と釘をもらっちゃって。物資不足なのにいいんですか?」
「ああ、いいんだよ。それにこっちこそ、この物資不足の中であんないい野菜を大量に貰っちゃって。とっても助かったよ。ありがとうね」
そういや、アイザックさんが街の食料関連店舗から大型定期購入依頼が入ってるとか言ってたよな。一角亭は大丈夫なのかな。
「そういや、マーサさん、明日から異人がまたたくさん来るみたいですけど、材料とかは大丈夫なんですか?」
「おや、スプラ君も心配してくれるのかい? アイザックも心配してきてくれたけど、まあうちは何とかやるよ。それより蜥蜴の尻尾亭や腹ペコ熊の満腹亭なんかが心配だよ。これまでも異人の為に安価な料理を提供するために値段の安い遠方産の材料を買ってたからね。この物資不足で供給が止まって大打撃受けてると思うよ」
そっか、一角亭は地産地消って言ってたもんな。もともとの仕入れ先は確保されてるんだろう。でも蜥蜴の尻尾亭は心配だな。腹ペコ熊の満腹亭は知らない店だけど、困ってるのか。うーん。
…
…
「いらっしゃい、おっ、兄ちゃんじゃないか。久しぶりだな」
「あ、どうも」
蜥蜴の尻尾亭に来た俺を接客してくれたのは、ネヒルザ婆との一回目の食事の時にいろいろと俺をサポートしてくれた店員さんだ。二回目は記憶がなくなってたみたいだったがこちらも無事回復したらしい。
蜥蜴の尻尾亭に来たのは野菜を届けるためだ。ゼン爺が農屋に置いておいてくれた野菜を持ってきた。たが、所要時間が畑経由で20分。ちょっと時間がかかり過ぎてしまった。もうリオンに乗っちゃおっかな。気配消すスキルとかないもんかね。
「あの、これよかったら使ってください。俺の畑で穫れた野菜です」
「え、マジでいいのか? こんな物資不足の中なのに?」
「ええ、いいんです。いろいろとお世話になりましたから」
「ん? 世話したこと…あったか?」
「はい、ネヒルザさんの時とか」
「ああ、あん時か。ネヒルザはうちの天敵だからな。喜んで協力させてもらったよ」
「ってことで、野菜どうぞ。使ってください」
「そうか、あ、じゃあちょっと待っててくれ」
店員のお兄さんが勢いよく調理場に入っていく。そして店主にあれこれ話してる様子。そしてすぐに戻ってきた。
「じゃあ、これ生もので悪いけど持ってってくれ」
【オーク肉】×5
「え、いいんですか?」
「ああ、うちは肉の仕入れは十分にできるんだ。今足りないのはセットにするための野菜でな。実は兄ちゃんが持ってきてくれてスッゲー助かったんだ。肉だけじゃどうしても品質に限界があってな」
そっか、肉だけあってもバフつかないもんな。スープにパンに副菜もつけないと。じゃあ、ここはお言葉に甘えて。いただいておこう。
「で、兄ちゃん、ちょっと聞きたいんだが、さっきの野菜って兄ちゃんの畑で穫れたってことでいいんだよな?」
「あ、はい、そうですけど」
「そっか、じゃあもしよかったらなんだけど、兄ちゃんのとこの野菜をうちで定期的に買わせてもらえないかな。あれくらいの品質なら店用としても十分過ぎるくらいなんだ」
「え、ああ、そうですね…」
あの野菜はミクリさんの【栽培促進】とエリゼさんの【良い声】で穫れた野菜だし、これからエリゼさんに畑全面で歌ってもらったら4日で収穫できるはず。大丈夫だろう。
「はい、大丈夫だと思います」
「そうか、じゃあさっきの量の3倍を目安に4日ごとに届けてくれると助かるんだがどうだ?」
「はい、大丈夫ですよ。了解です」
ピンポーン
『<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>を受注しました』
…
…
「マジョリカさーん、スプラです」
「おや、スプラかい。今日は早い時間に来たんだね。昨日は遅かったいろいろ話せなかったけど、ゴブリン討伐よかったじゃないか」
そうだった。本当なら真っ先にマジョリカさんに報告してしかるべきだった。マジョリカさんからの白金貨で勝てたようなもんなんだから。
「マジョリカさんから頂いた白金貨のおかげです」
「おや、アレが力を貸したのかね。そりゃ激戦だったんだろうね。よく無事に戻ってきたよ」
いや、無事ではなかった。
「実はちょっとへまをして死に戻っちゃいまして。職業もスキルも失っちゃって困ってるんですよ」
「死に戻ったって…はあ、異人の言う事はやっぱり違うねえ。死んでもこうやってピンピンしてるんだから。羨ましい限りだよ。で、だったらどうするんだい?」
うん、この雰囲気、マジョリカさん、俺の言いたいことわかってくれてるな。
「薬房でいろいろ学ばせてもらえたらなと」
「そうかい、ちゃんとやる気はあるんだね。じゃあ、行くよ。ついておいで」
そういうマジョリカさん、俺を連れて店を出る。…店を出る?
いやいや、マジョリカさん、俺の言葉聞いてたのか? 俺、薬房で学ばせてほしいって言ったよな? 確かに言ったよな?
理解に苦しみながらもマジョリカさんの後を追う。だいぶ先をちゃきちゃきと歩くマジョリカさん。リアルでもスッゲー速さで歩くおばさんがいるがマジョリカさんもその枠だった。
あの、マジョリカさん、俺その速さちょっとついて行けないんですが…。あ、角曲がった。これは見失うぞ。くそ、仕方ない。リオン!
パッパカ パッパカ パッパカ パッパカ
もう人目を気にしている場合ではなくなってしまい、仕方なくリオンに乗ってマジョリカさんを追いかける。スキル【俺はお前らの視線に気づいていません】を発動しながら疾駆してようやく追いついた時、そこは見たことのあるお屋敷の前だった。
「ここは領主セゾール様のお屋敷だが、何の用だ」
厳つい門番さんが通せんぼしてきた。いやなぜお屋敷?
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
ほう、領主館ね。
MJのやつとうとう決着つけようってか。
小僧巻き込まれて大変だな。
ホジホジ
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・受注:<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
・マジョリカによって領主館に連行される。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:なし
職業:なし
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
装備:なし
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv4】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv2】
所持金:約1万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>new!
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
<農業ギルドマスターアイザックの相談>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:1
HP:120/120
MP:160/160
筋力:12
耐久:10
敏捷:25
器用:11
知力:15
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv1】【足蹴Lv1】【噛み付きLv1】【運搬(極)】
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【氷華草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




