第113話 【マジ舞餌】
俺は自分のTシャツの裾をめくりあげて『れいす』の文字をウェイブに見せつける。
「え、え、って事は、スプラも? え、もしかして始めから?」
さっきまで極寒の視線を送ってきてたことを忘れたように距離を詰めてくるウェイブ。ほんとこういうところ猫っぽいよな。
「海賊野郎にやられたんだよ」
「ええー、マシで。それって、え? 大変だったんじゃない…?」
「まあね」
…
…
「そっかあ。それでスライムに苦戦してたんだ」
「まあ、そんなとこ」
女々しくて悪いが、あの時お前に呆れ笑いされたことは忘れたわけじゃないぞ。別に何とも思ってないけどな。でも忘れてはいない。
「でも、凄いじゃん。そんな状況でイベントボス倒したんでしょ?」
「…なんでそれ知ってんの?」
もしかして、あの場にいたのか?
「さっきプロモーション動画アップされてたよ。スプラのダーツとか白馬に乗って空飛んだりとか、プレイヤーに号令出すとことか」
「…マジデスカ」
プロモーション…、そっか、それを忘れていた。そういや海坊主さんがそんな事でキャッキャしてたよな。ぐぐぐ。
「え、なんで落ち込んでんの? かっこよかったよ。『お前を置いていけっかよ』って」
「……」
もう、いなくなってしまいたい。なんでこの世に俺なんかが存在してんだよ。
「ね、それもいいけどさ、わたし今大変なんだ。英雄ピエロのスプラ君に助けてもらえたらなって」
「…そんな気分じゃない」
「えー、助けてもらえないと元気出せないなー。そばにいるだけじゃなー」
ぐっ、くそ、言質取られちまってるから逆らえん。
「わかったよ。何したらいいんだ?」
なんでこう助けてばかりになるかな。ヒュペリオン助けたばかりなのに…ん? まさかまた【献身】とか発動せんよな。…せんか。
「食べ物欲しいんだ。大量に」
「食べ物?」
なんだ? 一角亭弁当に味をしめたのか? そういや魚やった野良猫がしばらく「魚くれ〜」って付きまとってきたっけ。
「…なんか失礼な事考えてない?」
「…カンガエテマセン」
「ま、いいけど。実はさ、ログインして1時間くらいなのにもう6回死に戻ってるんだ。空腹で」
「はい?」
どういうこと? 無理ゲーさせられてるのは分かるが、1時間に6回とか、俺より酷くね?
「ステータス見せるね」
ピンポーン
『プレイヤー「ミーナ」よりパーティー参加申請がありました。参加しますか?』
「ん?」
「パーティーメンバーにステータス見せる設定があるのよ。わたしも初めて使うんだけど」
「お、おう」
なんか分からんが申請を許可してパーティーを組む。ってか、ウェイブ名前変えたのか。ミーナね、へえ。
「設定したから見てみて。ステータス画面にわたしの名前『ミーナ』があるはずだから」
言われるままにステータス画面をチョイチョイ。お、見れた。へえ、他人のステータスなんて初めて見るな。
名前:ミーナ
種族:魔獣三尾猫
星獣:なし
肩書:なし
職業:食い逃げ(47:36:11)
属性:なし
Lv:1
HP:20
MP:150
筋力:2
耐久:2
敏捷:133
器用:2
知力:2
装備:なし
所持金:0
固有スキル:【マジ舞餌】
スキル:なし
はっ? 敏捷値がおかしいんだが? 俺の全盛期の配達中の2倍近いとか。チートか? で、食い逃げってなんだ?
「どうせチートとか思ってんでしょ? 固有スキル見てみてくれる? ふざけた名前のやつ」
「お、おう」
なんで心が読まれるのか分からんが、まあ、見てみるか。
【マジ舞餌】
三柱の一人レイスに認められ、この世界を敏捷さのみで生き抜く覚悟を持った者に与えられた固有スキル。初期種族は無類の敏捷さを誇るが常に空腹状態の魔獣三尾猫。満腹度の減り方は不動時10倍、移動時20倍。満腹度が0になると敏捷が極度に落ちる。初期における、職業、属性、所持品、所持金を失う。死に戻るたびにレベル、職業、属性、所持品、所持金、スキルが初期状態に戻る。
世界と関わった魔獣三尾猫が死に戻ったとしても、その刻まれた足跡は世界の住人の心から消え去ることはないだろう。その小さな足跡が世界の今を支えているのだから。
おお、俺以外の死に戻り呪縛だ。こうして見るとなんか感慨深いものがあるな。でもあれか、始めからNPCとの関係は維持されるってことか、なるほどな。で、敏捷はチートだが、空腹度が足枷で何もできんと。ってか、筋力2じゃリスも倒せんのでは? これじゃ素早いだけの役立た…
「どうせ役立たずとか思ってんでしょ?」
「…」
いや、今回は思いかけたけど途中で止めた。だから、それは思ってないということだ。
「思ってませんが?」
「…ま、いいんだけど。だからさ、食べ物がいるのよ、食べ物が」
なんだ、その「何か寄越せ」的なゼスチャーは。街のならず者だぞ、それは。ってか、どんな無理言ったらこんな固有スキルになるんだ。俺が言うのもなんだけど。
「で、どんなカスハラしたんだ?」
「カスハラ? ちょっと、人を碌でもない人間みたいに言わないでくれる?」
…その碌でもない事をした奴が目の前にいるんだが?
「言っとくけど、スプラのせいなんだからね。わたしがこんなスキル押し付けられたの」
は? なぜここで俺のせいになる? あ、まさかレイスが何が言ったのか? 「スプラってやつのせいだぞ〜」とか?
「…スプラがそばにいてやるからって言うから。でもスプラ急にいなくなっちゃうじゃん。だから追いつかないとと思ってさ。『何でもいいからとにかく素早さ全開で』っていい続けたらさ、黒い海賊が出てきて、よくわかんないうちに猫になって噴水前にいたって訳。ま、猫はいいんだけどね。仮面必要ないし」
いや、俺が言ったのそう意味じゃなくてさ。「困った時にはそばにいるぞ~」ていう、こう精神的な感じの話じゃん? 物理的にいつもそばにいたら鬱陶しいだろ?
「もしかして責任取らない的な発想してる?」
「いえ、そんなことは…ないです」
ま、とにかく助けられるものなら助けてやりたい。実質困ってるんだもんな。うーん、しかしどうするこれ。ウェイ…ミーナはもうキャラ変できないしな…
ん? キャラ変? あれ? そういやキャラ変の金ってレイスが貰うとか言ってなかったっけ? え、じゃあミーナのキャラ変代の12万って…。はあああああ?
「よし、じゃあ、2人でFGS楽しみまくろうぜ。あの海賊が悔しがるくらいにさ」
「え、う、うん、そう…だね?」
おい、レイス、どうせ見てんだろ。お前の嫌がらせなんかに負けんからな。12万分しっかり働かせてやるから。
そうと決まれば…
「マジョリカさーん」
「なんだい、スプラじゃないか」
今度は普通に出てきてくれたマジョリカさんに配達の仕事を聞いたら、俺が薬房に置いておいた【愛弟子印の超絶美容液】を1本売ってほしいと頼まれた。その額なんと15,000G。マジョリカ印を超えてるんだが?
驚いたが、現状の15,000Gは少し前の100万Gより嬉しかったりする。ここはありがたくい頂戴しておき、2人で食料買いに街に出る。で、気がついた。
「夜…だな」
「…夜だね」
時間を忘れてまた夜更かししてしまった。医者の呆れたような顔を頭の中から追い出しながら近くの宿屋にチェックイン。パーティーメンバーのミーナの分も俺が支払い、次の待ち合わせを確認してログアウトした。
こうして、俺は長い長い7日目を終えた。
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
ぐふふ、【マジ舞餌】だって。
俺のネーミングセンスって上限突破してるよな。
今回は知り合いだからって小僧にかこつけて作ったけど、これはマジマジシリーズ化もありだな。うん、アリ寄りのアリだ。
第二陣が今から待ち遠しいぜ。
次はマジ何にしよっかな~。
いい案ないかな〜。
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・ミーナのステータスを確認する。
・【マジ舞餌】に感じ入る。
・FGSを楽しみまくってレイスに12万円分働かせることを決意する。
・愛弟子印をマジョリカに売る。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:なし
職業:なし
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
装備:なし
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】
所持金:0
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:1
HP:120/120
MP:160/160
筋力:12
耐久:10
敏捷:25
器用:11
知力:15
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv1】【足蹴Lv1】【噛み付きLv1】【運搬(極)】
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★☆☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【氷華草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】




