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第105話 対エンペラー戦2

ピンポーン

『ゴブリンエンペラーの固有スキル【皇帝の威光】が発動しました。通常ゴブリンのステータスが上昇します』



 あの…今回の戦闘のピンポンさん、いつものピンポンさんと別のピンポンさんって事ない? 伝えてくることが過激すぎるんだけど。


 おい、レイス、急な担当替えは前もって言っておくのが先方へのマナーだぞ。



「うわ、なんかゴブリンたちが緑に光りだしたよ」

「モンスターバフ状態よ。あんたち気をつけなさい」



 エンペラーの特大の叫びを聞いた雑魚ゴブリンたちが一斉に動き出す。うっすらと緑がかっているのがステータス上昇を表しているんだろう。



「みなさん、これ渡しときますね」



 【上級MPポーション】を全員に1個ずつ、【HPポーション】を団員たちに2個ずつ、海坊主さんに1個渡す。【上級MPポーション】は紫紺スライムが頑張ってくれてた間にネギ坊から癒楽草をもらって作っておいた。結果、現在ネギ坊は全てのお手てを無くして帽子の中で寂しいことになってる。回復してやりたいが、いかんせんイベント仕様なのか、日光が雲に遮られている為無理なのだ。ちょっと我慢してもらうしかない。



「あの、これ、上級って…品質も…」

「聞いたこともないMPポーションが譲渡されてきたんですけど…?」

「ま、いいの? スプラちゃん」


「はい、どうぞ。俺MP使うようなスキルないですし、それにあの棍棒でぶっ叩かれたらポーション使う前に死に戻るんで」


 俺の視線の先には、緑の光に包まれたゴブリン達が棍棒をブンブン振り回している。俺をホームランする気満々のご様子だ。



「あんたたち、これ受け取ったからにはスプラちゃんを命がけで守るのよ!」

「「イエス、マム!」」



『じゃ、君は僕に乗ってたらいいよ。あんなのに当てさせないからさ』



 白馬が頼もしい事を言ってくる。なんだ、今までの上から発言を帳消しでもしようってか? 言っとくが、別に何とも思ってないぞ。



「じゃ、わたし早速行ってくるから、あんたたち頼むわよ」



 海坊主さんが早速MPポーションを飲み干すと目の前で棍棒をフルスウィングしているゴブリン達に襲いかかっていく。対して団員達は俺と白馬をぐるっと囲んで臨戦態勢だ。


「グギャー」


 ゴブリンの悲鳴と共に海坊主さんが非現実的な動きでコプリン達を投げ飛ばし、蹴り飛ばし、ジャイアントスイングで何十体も巻き込んでポリゴンに変えていく。少しづつだが、エンペラーに近づいて行っているようだ。


 海坊主さんが離れていくと、周りのゴブリンのターゲットが俺たちに移る。徐々に間合いを詰め一斉に襲いかかってきた。



「ウィンドカッター」

「おっらー突き倒し」

「スラッシュ」

「バニッシュ」



 おお、なんだよ、団員たちスゲーじゃん。


 リザードドッグ相手の時とは違って個の力でゴブリン達の圧力を押し返していく団員たち。小細工主義の俺には到底出せない感動がそこにあった。


 しかし、結局のところは多勢に無勢。時間と共にゴブリン達の物量戦術の前に徐々に包囲の輪は縮まってくる。


「GAAAAAAAAA」



 エンペラーの咆哮が響き渡る。すると今までバラバラだったコプリン達の攻撃に変化が起きる。



「ちょ、何? 急にやり難くなったんだけど」

「きゃ」

「大丈夫?HPポーション」

「サンキュ」

「ウィンドカッ…痛ーい」

「HPポーションはい!」


 急に団員たちが劣勢になった。これって…


『連係してきたね。難易度が一段上がったよ、気をつけて』


 俺が思ったことを白馬が追認する。やっぱり連係かよ。くっそ面倒くせえな。



「きゃー」

「狙撃」

「あ、ピエロっち…」


 団員の劣勢度を見ながら効率的にダーツを狙撃していく。消耗品だから温存したかったが、目の前で団員を死に戻らせるわけにはいかない。


「狙撃、狙撃」

「ありがと、ピエロっち」

「いえ」


 ダーツの残りは5本。なのに一向に減る様子のないゴブリンの群れ。団員のポーションも殆ど残ってなさそう。これは流石に詰みだな。こんなの相手にしながらどうやってエンペラー倒すってんだよ。



 ドッカーン



 俺の中で諦めムードが漂い始めた時、湖の反対側で爆発音。なんだ? 新手か? そんなもん無くてももうすぐ終わるぞ。



 ドッカーン ドッカーン



 なんか湖の対岸がやたら賑やかになってきたな。なんなんだ?


「グギギ?」

「グギャグギャ!」

「グガガ?」



 なんか目の前のゴブリン達が急に移動し始める。行き先は…あっち、つまりさっきから賑やかになってる対岸の方か。



「あれ? なんか向こう行っちゃうね」

「あー、良かったー。もうダメかと思ったー」

「流石にもうおかわりは要らん」

「しんどかった〜」



 団員たちがその場にヘタレ込む。しかし、ゴブリンたちはそんな団員たちには目もくれずどんどん対岸の方へ移動していく。



『僕らも行こう』


 白馬は俺にそう告げるとひと嘶きして走り出す。…湖の上を。



「水の上?」


『こんなの朝飯前だよ』



 得意げな白馬が湖面を疾駆する。紫紺スライムの残渣なのか風がめっちゃ冷たいのだが、そんな事も忘れるくらいにテンションが上がる。だだっ広い湖面を馬で走るって、こんなのリアルじゃ絶対無理だしな。



 水上疾駆に感動していると徐々にに対岸の様子が見えてくる。なんかカラフルな点がわらわらと動いている様子。【遠見】を使って見てみると…



「え? プレイヤーじゃん。なんで?」



 どんどん近くなる対岸に合わせて拡大を調整する。すると、プレイヤーの一部がこっちに気がついたようだ。なんか手を振ってるんだが? とりあえず状況が分からんから、近づいてみる。



「ピエロくーん!」


「げ、追っかけヤロー」



 なんと手を振っていたのは、街でも東の森でも俺に絡んできた陽キャプレイヤーだった。


 海坊主さんに凄まれて退散したはずなのにまた追っかけてきたのかよ。マジか。



「ピエロくーん、ごめんねー!」


 湖面で止まってどうしようか迷っていたら、なんか謝られた。なにがどうした?



「みんな連れてきたからー」


 なんか、こっちに手を振るプレイヤーが多くなってきた。これ、行かないとダメなやつか? なんかそんな空気だよな。いやあ…。



「うわー」


 俺がプレイヤーの跋扈する対岸に行くべきか悩んでいたら湖畔を移動していたゴブリンの大群が追いついてきたようだ。じわじわとプレイヤー達を押し込み始める。



ドッカーン


「え、なにあれ?」


 プレイヤー陣から飛び出したでっかいサイがゴブリンの群れに突っ込んで行った。遥か向こうまでゴブリンがポリゴンになってるんたが?


 ぐ、気になる。…これは行くしかないか。





「ってなわけで、俺ら反省したんすよ。やっぱゲームだからって何でもかんてもしていい訳じゃないんだって」


 俺を追っかけてきた陽キャプレイヤーのヤックンから事の次第を一通り聞いた。


 簡単に言うと、俺を追いかけたプレイヤー達がNPCから総スカンを食らった挙げ句に節度あるプレイヤー達からも非難轟々の状況になってすごく反省した。そんな時にジェネラル戦が始まった事が称号【魁の息吹】によって、まだゴブリンを討伐していないプレイヤー全員に位置情報と共に知らされた。そこで、追っかけプレイヤー達は反省の意も込めて、討伐戦参加を迷ってたプレイヤー達に声を掛けまくって1000人以上集めてこの湖にやって来たということだ。因みにさっきのサイは契約物を使ったらしい。北の門番さんから貰った『古代城壁の欠片』っていうやつらしい。いいな、超カッコいい。



「街にいた討伐済みプレイヤーからも物資を買いまくってきましたから。どんどん使ってちゃってください。あと契約物持ちもまだ80人以上いますんで、あのデカブツをやっちゃいましょう!」



 …なんか陽キャのパワーと行動力ってスゲーな。1000人巻き込んでくるとか、なにそのスター性能。



「1000人とか凄いですね…」


「何言ってんすか。みんなピエロ君の名前に釣られて来たんすよ」


「…」


 いや、俺の名前はピエロではないぞ。それになぜジェネラル戦をやってるのが俺たちだとわかったんだ? は、まさか俺の名前まで皆にアナウンスされたのか?



「あ、ピエロ君がボス戦やってるってのは俺たちの推測ですよ。ピエロ君がオネエ様たちとこの森に向かってたのを見てたプレイヤーがいたんすよ。でもこの森って何もなかったはずなんすよ。なのに協力要請の場所がこの森だったんで、これはなんかのフラグが踏まれたに違いないって。そこでこれは高ランク契約物を持ってるはずのピエロ君で間違いないってなったんす。それにあのオネエ様までいたらもうその可能性しかないっすよ。でもちょっとだけ不安だったんでピエロ君いてくれてよかったっす。ピエロ君の名前出して集めてきたから、もしいなかったら大変だったっすから」


「そ、そうなんだ」


 見切り発進にも程があるだろ。そしてピエロは名前じゃない。



「ま、って言ってもピエロ君の契約物にあやかりたいってのもあるんすけどね。でも、ピエロ君じゃなきゃこんなに集まってないっすよ」


 ああ、星獣の加護のことね。海坊主さんから聞いたな。ま、そうだよな。善意だけで1000人とか言われるよりそのほうが納得できる。


「じゃ、ってことでやっちゃいましょう!」



 それからの陽キャ達の勢いは「凄まじい」の一言だった。あちこちを行ったり来たりしながらプレイヤー達を乗せまくって行く。陽キャ達に乗せられたプレイヤー達は躊躇する事なく契約物を使っていき、いつの間にか意思統一されたプレイヤー群はすごい勢いでゴブリン達を押し込んで行った。


 そうなんだよな。結局さ、学校のクラスとかでも陽キャ達が積極的に参加するかどうかで盛り上がりやまとまりが全然変わってくるんだよな。


 ちょっとだけ悔しさが込み上げるが、今はそんな気持ちを丸めて飲み込む。それよりもあのデカブツエンペラーを何とかしないと。これだけ集まったからには失敗なんてできないのだ。失敗なんかしたら俺が戦犯にされてしまう。



「GYAAAAAAA」



 プレイヤー達が勢いのままに押し込み、エンペラーに迫る。すると、いきなりエンペラーから悲鳴に似た声が上がる。それを聞いたゴブリン達が攻撃を止めてエンペラーを振り返る。それに釣られてプレイヤーたちもエンペラーの様子を伺いだした。


 ゴブリン達が見つめる先を見ると巨大マッチョのエンペラーがお尻を押さえて悶絶していた。


 なんだ? HPバーがさっきより目に見えて減っている気がするんだが?


 暫く悶絶するエンペラーを見ていると、遠くからゴブリン達の頭を踏みつけながら海坊主さんが走り戻ってきた。



「あははっ、あのデカいケツに一発ぶち込んで来ちゃった」


 すっごくいい表情て報告してくる海坊主さん。何したんだ? どうしたらあんなことになるんだ?



「(キャプテン、世の中知らないほうが幸せなこともあるんです)」


 なんか団員が耳打ちしてきたんだが、知らないほうがいいってなん…



「GUUUUUOOOOAAAA」



 悶絶から戻ってきたエンペラーが牙を剥き出しにして俺たちを威嚇する。ん? ってか、なんか俺を見てないか? いや、俺はお前のケツに何もしてないんだが? 


 なんか家族で猿山に行った時に俺にだけ猿が威嚇してきたのを思い出す。あれって一番弱い奴を分かってるよな。妹より俺を威嚇するとか。



 ドスン ドスン


 俺たち、いや俺に向かって大斧担いで走り出すエンペラー。大斧からは漆黒の炎がこれまでにないほど凄まじい勢いで吹き出している。そんなにケツが痛かったのか…。


 漆黒の炎が雑魚ゴブリン達を巻き込んで消滅させていく。ポリゴンすら残さずただただ消していくのだ。



 バンバンバン


 そこに銃声のような音が響く。見ると3匹の猿が火縄銃の銃口をエンペラーに向けていた。


 まさかの銃器とか。これなら俺の注入釘とか真っ黒ダーツなんて可愛いもんかもしれん。



「GUHEEEE」


 しかし、エンペラーは猿たちを嘲笑うかのように無傷で笑う。その体の前には大斧から噴き出す漆黒の炎。契約物もあの炎の前には無力ってことらしい。



『ねえ、なんで契約物使わないの?』

「…ん?」


 なんか白馬が周りを煙に巻くような発言をしてくる。


 白馬よ、今見たとおり、効かないのだ。会社の会議でそんな発言したら後から反省文だぞ。



『あの人持ってるじゃん』


 そう言って白馬が首を向ける相手は… 海坊主さん。ああ、「生態全書」ね。オットーさんがくれたやつ。



『さっさと使ったらいいのに』


「生態全書を使えって事なのか?」


『早くしないとみんな消えちゃうよ』



 そっか、白馬が言うならそうなんだろう。じゃ。



「海…シーボーイさん、契約物って使えますかー?」



「あらん、そうだったわ。お髭のオジ様がくれたんだった。いやん、わたしとしたことが」



 クネクネしながら海坊主さんが画面をチョイチョイ。すると海坊主さんの目の前に「生態全書」がぷかぷかと浮かんで出てきた。



「じゃ、行くわよん。契約物『生態全書』を使用っと」



 ぷかぷか浮いていた生態全書が急に光りだすと、分厚い百科事典がパラパラと捲られて半ばで止まる。その開いた生態全書から出てきたのは…眉毛が異様に長いお爺さんっぽい羊だった。人型の。



「えええー、うそープリチーじゃないの?」



 海坊主さんの悲鳴をガン無視して、お爺さん羊は持っている杖を掲げる。



『森羅万象』



 爺ちゃん羊の優しくゆっくりと紡がれたその言葉が妙な静寂の中に響いていった。




❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


おお、なんだよ。人間ってバグにも戦いに行くんだな。スゲーな。

 

あーーー、そうそう。そうだった。


Z-2、よく思い出したな。

そうだよ、Z-4がいたじゃん。


よかった~。やっぱ持つべきものはキャンセラーだよな。 



――――――――――――――

◇達成したこと◇

・みんなに残りのHPポーションを全部渡す。

・MPオーションを渡してまた白い目で見られる。

・白馬に乗って湖の上を疾駆する。

・追っかけプレイヤーのヤックンと和解する。

・陽キャにちょっとだけ嫉妬する。

・海坊主のケツ攻撃に戦慄する。

・海坊主に契約物を使ってもらう。




◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 星獣:(仮)星獣ヒュペリオン[★★★★★★]

 肩書:マジョリカの愛弟子(EX)

 職業:上級薬師

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1(+3)

 敏捷:1(+13)

 器用:1

 知力:1

 装備:ただのネックレス

 :悩める道化師のトルピード

 :仙蜘蛛の道下服【耐久:+3、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気)】

 :飛蛇の道下靴【敏捷+13】

 :破れシルクハット

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv10】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv10】【採取者の勘】【精密採取Lv3】【調合Lv10】【匙加減】【投擲Lv10】【狙撃Lv2】【鍛冶Lv9】【調薬Lv10】【団粒構造Lv2】【農地管理Lv4】【農具知識EX】【料理Lv1】【広範囲収集】【遠見】【工作Lv1】【釣りLv1】【木登り】【よく見る】【自動照準】【下処理】【火加減】【創薬Lv4】【念和】【騎乗】

 所持金:約1045万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】

 従魔:ネギ坊[癒楽草]


◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

〇進行中クエスト:



◆契約◆

 名前:ネギ坊

 種族:瘉楽草ゆらくそう[★☆☆☆☆]

 属性:植物

 契約:スプラ(小人族)

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:0

 器用:1

 知力:5

 装備:【毒毒毒草】

   :【爆炎草】

   :【氷華草】

 固有スキル:【超再生】【分蘖】

 スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】



《不動産》

 畑(中規模)

 農屋(EX)


≪雇用≫

 エリゼ

 ゼン

 ミクリ

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