第1話 1日目 FGSの舞台
248話(第二部)完結まで毎日投稿です。
「ぐふふふ、お前の種族ほか諸々が決定したぞ。お前のお望み通りだ。じゃあさっさと行ってこい。スリル満点の世界にな」
「あ、ちなみにどんなキャラ…」
「いいから行ってこい!」
「え、もう行くの? え? ええ?」
キャラ作成時、どうやら俺はトラブルを起こしてしまったらしい。そして俺の前に現れた強面AI。
俺のゲームキャラを「決めてやる」と言うその海賊AIが愉快そうに笑うと、問答無用に俺の視界は暗転していった。
…
…
コボコボコボ ザッブーン
目を覚ますと、目の前には抜けるような青空を背景にそびえ立つ巨大な噴水。プロモーション映像で見たFGSの世界が展開されていた。
……え、マジで来ちゃったのか?
とりあえず落ち着くために状況を確認していく。
目の前には巨大噴水、その周りは石畳調の広場となっている。その広さ、サッカー場二面ほどか。遠くに建物が小さく見える。
で、その広場がプレイヤーが溢れ返っている。
パーティーと思われる数人で固まるプレイヤーたちもいれば、あちこちに声かけて必死にパーティーメンバーを募集してるプレイヤーもいたり。
そうして俺が見渡している間にも石畳の地面が頻繁に光る。光が消えるとそこには新しいプレイヤーが登場し、周りをキョロキョロと見渡している。たぶん俺もあんな感じでこの世界に来たんだろう。
次に近くのプレイヤーの様子を横目で伺う。
カッコいい大剣使い
法衣を着た聖職者
とんがり帽子の魔法使い
弓を担いだ狩人
……弓か。やっぱエルフ風はカッコいいな。
ファンタジー要素満載の姿をしたプレイヤーたちが楽しそうにしている。一部のプレイヤーには猫の耳やキツネの尻尾が付いている。
「あれが獣人族か」
視線を戻して自分のお尻を見る。尻尾は……ない。耳は……普通。ということは俺は人族ってことらしい。
自分の姿を確認するため噴水の受けの皿の水を覗き込む。
「へえ……ま、悪くないじゃん」
揺れる水面に映り込んでいるのは、薄緑の髪を後ろで束ねた美少年。どことなくあどけなさを感じさせる顔。身長は…だいぶ小さい。感覚的には140㎝くらいか。
「小学生並みに小さいな」
まあ、ゲームだし、そういう体験ができるってことか。
「しかし、なんちゅう恰好してんだこれ」
水面に見えるのは、上はグレーのヨレヨレTシャツ、下は黒に二本線のジョガーパンツ、いわゆる裾ゴムのジャージ。で、極めつけはなぜか素足に装着されてる草鞋。
「草鞋? 健康法? は?」
最後に肩にかかった古ぼけたショルダーバック。ふたを開けると中は真っ黒。どうやらストレージにつながっているらしい。
「ここに物を入れると持ち運べるってことだよな」
で、それ以外はなにもない。武器や防具らしきものはどこにもない。背中に弓とかは……ないか。
俺は再度周りのプレイヤーたちを見る。
「大剣に法衣にとんがり帽子……うん、わかりやすいファンタジー」
で、もう一度自分を見る。
剣…ない。鎧…ない。兜…ない。
ヨレシャツ…ある。ジャージ…ある。草鞋…ある。
「おーい、海賊! なんで俺だけ健康生活に目覚めた中年オヤジなんだよ!」
ヨレヨレのシャツをじっと見続けると裾の部分にアイコンが登場。「なんだろ?」と思って裾をめくって見ると、 へったくそな“れいす”と書かれてある。
「“れいす”って……は? レイス? ってことは……これアイツのかよ!」
レイスとはさっき俺のキャラを自分で作ってこのFGS世界に放りこんだ海賊AIだ。
「いやいや、装備確認はどうするんだこれ。えっとステータス画面は……おわっ」
ステータス画面を意識した瞬間、俺の目の前に半透明の画面がパッと表示される。
「……くそビビったな。フェードインとかでフワッとできんもんかね。メンタルに優しい世界にしてほしい」
意表を突かれ大きく仰け反ってしまったが……周りの様子を伺うと誰も俺のことには気づいてないらしい。ま、そんなもんか。
改めてステータス画面を確認する。
名前:スプラ
種族:小人族
職業:なし
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
固有スキル:【マジ本気】
スキル:なし
装備:なし
所持金:0G
「は? ……なんだこれ?」
半透明の画面に表示されているのはおそらく俺のステータス。俺がつけた名前『スプラ』が記載されていることから恐らくはそうなんだろう。
だがしかし、どうやら表記がバグってるらしい。
「ステータスが全部1?」
中学時代にこんな成績取ってクラス中に見せて回ってた同級生を思い出す。
ってか、ステータスどころか、属性も所持金も装備もスキルもなんもないんだが? このオヤジ装備も何一つ表記されていない。
「流石にこのバグは酷いな。でも、ま、配信直後だし、こんなこともあるか」
GMコールするために、ステータス画面をチョイチョイと探す。
「ねえ、見てあの服……」
「なにあれ……」
すると周りから聞こえてくるヒソヒソとした話し声。横目でチラ見すると青マーカーのプレイヤーたちが俺の方を見て何やら話している。
因みにマーカーの色だが、青はプレイヤーで緑はNPCだ。
ヒソヒソ話はどうしても気になる俺。聞こえていない振りして聞き耳を立ててみる。
「なあ、あいつ、なんであんな恰好してるんだ?」
「…どんなキャラ設定したらあんな恰好に…」
「ちょっと、聞こえるわよ。… 」
ヒソヒソ
「もう、だから、聞こえちゃうって、フフフ」
ヒソヒソ
え、恰好? 俺のこれか。いや、これたぶんバグだから。違うって……あかん、ダメだ、俺こういうのは無理なんだ。今すぐ早くこの場を去らないと。
プレイヤーたちから距離を取るようにして広場を去る……が、ここで予想外が起きる。
「あれ? 全然進まん」
必死に足と腕を動かそうとする俺。
だが体の動きが鈍い。
移動も全然進まない。
すぐ隣を緑マーカーを付けたNPCの子供が早歩きで追い抜いていく。
フォームを良くすれば少しは速くなるかもとシュパーンシュパーンと腕を振ってみる。が、そのシュパーンシュパーンの動きすら遅い。
全身が遅い。
まるでプールの底を走ってるみたいだ。
「いや、余計に目立ってるから。恥ずいから、マジで」
キレッキレフォームのスローモーションとか何の罰ゲームだ。
そんな俺に一身に注がれる周りからの好奇な視線。
その地獄に耐えながら必死に体を動かすこと体感30分(実質5分)。やっとの思いで広場を抜け、勢いそのままに建物の影へ逃げ込んだ。そこからはひたすら人気のない道を進む。
「最終局面の逃○中ってこんな気持ちなのか」と、どうでもいい思いがよぎる中、とにかく落ち着ける場所を探して移動し続けると徐々に街並みが途切れてくる。
さらに進むとポツンと建つ小屋を見つけた。周りにプレイヤーがいないことを確認して中を覗き込む。
小屋の中は田舎にある農家の倉庫、農屋といった感じで壁には鍬や鎌、スコップなどの農具が立てかけてあった。
「……誰も…いないな」
農屋に入って、ようやく一息つくことができた。休んでいると、気分もだんだんと落ち着いてくる。そこでGMコールの為に改めてステータス画面を開く。
名前:スプラ
種族:小人族
職業:なし
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
固有スキル:【マジ本気】
スキル:なし
装備:なし
所持金:0G
「表記はバグったままか。……ん? ちょっと待て」
俺の目は一つのステータスに目が行く。
「敏捷値が1? ……え? ちょっと?」
重大な事実に気が付く俺。
今までただの表記バグだと思ってたオール1のステータス。そのバグステータスが実際に俺のアバターに反映されてしまっている可能性があるのだ。
「え? これ表記バグじゃなかったのか……ん? これはなんだ?」
俺はステータス画面を凝視する。視線の先には一つのスキル。
『固有スキル:【マジ本気】』
……チョイ。
【マジ本気】
三柱の一人レイスに認められ、この世界をリスクを顧みず貪欲に生き抜く覚悟を持った者に与えられた固有スキル。
初期種族は最弱を誇る小人族。レベルが極端に上がりにくく、スキルの習得には多大な犠牲が求められる。
初期における、職業、属性、所持品、所持金を失う。
死に戻るたびにレベル、職業、属性、所持品、所持金、スキルが初期状態に戻る。
≪効果≫
・小人族:初期ステータス減少(極大)、レベル上昇率減少(極大)、スキル習得率減少(極大)
・初期職業、初期属性、初期所持品、初期所持金の喪失
・死に戻りにつきレベル、職業、属性、所持品、所持金、スキルが初期状態に戻る。
……マジかよ。
おい、海賊! これバグじゃなくてお前が作ったスキルじゃねえかよ!
で、なんだ、この極悪効果はよ!
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
だーはっはっはっは。いいリアクションしてくれるぜ小僧の奴。
バグな訳ねえだろ。FGSなめんなよ。
ま、お前にはこのスキルを使いこなすなんて出来っこねえわな。
だが自分の行動が招いた結果だ。せいぜい頑張れや。
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・意図せずFGSの世界に登場してしまう。
・変な動きで好奇の視線に晒される。
・ステータスを確認してバグだと思う。
・固有スキル確認してバグじゃないと知って怒る。
名前:スプラ
種族:小人族
職業:なし
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
固有スキル:【マジ本気】
スキル:なし
装備:なし
所持金:0G
20251114 改稿
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