第97話 プリュトンの運命
「母上様、助けに来てくれてありがとうございます」
「馴れ馴れしく話すのは、おやめなさい。あなたはエンデデアヴェルトを武力制圧した反逆者です。国家反逆罪として、私自ら連行します」
嬉しそうな笑みを浮かべるプリュトンとは対照的にグリレ王妃は、淡々とした表情で、義務的な言葉を使う。
「カリオス、罪人を私の馬車へ連れて来なさい」
「わかりました」
「ちょっと待ってください、母上様。先に拘束具を外させてください」
「王妃殿下、どう致しましょう」
「罪人の拘束を解くことは許されていません。そのままにしておきなさい」
「わかりました」
カリオスは、プリュトンを引きずるようにして、馬車に乗せようとした。
「触るな無礼者が!移動くらい自分でできるわ」
プリュトンは運動神経が優れている。両手両足が拘束されているのにも関わらず、ぴょんぴょんとウサギのように跳ねて、グリレ王妃の馬車の前まで来た。
「扉を開けろ」
「はい」
カリオスが馬車の扉を開けると、プリュトンは走り高跳びの選手のように背面ジャンプをして、50センチほどある段差を飛び越へ、馬車の中へ着地した。
「俺の運動神経を舐めるなよ」
プリュトンはカリオスを睨みつける。一方、カリオスは頭を下げて非礼を詫びる。
「カリオス、例の場所へ向かいなさい」
「わかりました」
カリオスは御者席に座り、グリレ王妃は馬車の中へ入る。
「母上様、聞いて下さい」
「……」
グリレ王妃は無表情のまま何も答えない。
「監禁していたロベリアが逃げ出して、傀儡兵を無効化したせいで、計画が失敗しました。やはり、ロベリアは監禁でなく殺処分すべきだと思います。それに、ローゼの成長が想定よりも早いのです。終焉の魔女の予測はあてになりません。即刻、ローゼの対処も考えるべきです」
「……」
プリュトンは知り得た情報と対処方法をグリレ王妃へ報告するが、全く聞いている様子はない。
「これから、私はどうすれば良いでしょうか?ストロフィナッチョ兄妹は私を裁くつもりでいましたが、形式上だけなら、裁きを受けても構いません。どうせ、私は無罪放免となることは決まっています。それならいっそ、私に非礼な態度をしたストロフィナッチョ兄妹を処罰したほうが面白いと思います。私は創世の魔女に操られた被害者という設定です。そんな私を拘束して罪人のように扱ったことを許すわけにはいきません」
プリュトンは早口で熱弁する。
「着いたみたいね」
馬車は静かに停止する。しかし、王都に着くにはあまりにも早過ぎる。
「母上様、どこに着いたのでしょうか」
『ガチャ』
馬車の扉が開く。
「降りなさい」
グリレ王妃は淡々と命令する。
「わかりました」
プリュトンは持ち前の運動神経の良さで、体をひねって、軽快に馬車から飛び降りた。
「カリオス、馬車を出しなさい」
「わかりました」
カリオスはプリュトンを置き去りにしたまま、馬車を走らせる。
「ちょっと待って下さい母上様、私を忘れています」
プリュトンは拘束された体で、器用にピョンピョンと跳ねて馬車を追いかける。しかし、さすがに馬車のスピードに追いつけることはなく、次第に離されてしまい、気づけば、見知らぬ場所で1人ぼっちで取り残されてしまった。
「母上様、どうしてこのような酷い仕打ちをするのでしょうか?私は与えられた使命を一生懸命に全うしたのに……」
プリュトンは涙を流して地面に倒れ込んで絶望した。
「リーリエさん、なんとか全ての傀儡兵を元に戻すことができました」
ローゼはイーリスと協力して、全ての傀儡兵の解呪に成功した。しかし、無理がたたって倒れてしまった。
「ローゼ、よくやったわ。しばらくはエンデデアヴェルトで休養するとよいわ」
私たちはローゼとイーリスを宿屋へ連れて行き、ベッドで休ませた。
「リーリエ、これから何をするつもりなの」
メーヴェが真剣な眼差しで私を見る。
「この場に残ったのには、別の理由もあるのね」
シェーンも何かあると予測していた。
もちろん私はローゼとイーリスに、協力する為にエンデデアヴェルトへ残った。しかし、他にも用事があったのだ。