第95話 プリュトンの悪あがき
「糞ったれ、お前は俺を騙していたのだな」
「騙したとは人聞きが悪い言い方ですね。これは作戦と言います。私はローゼさんが詠唱する時間を稼ぐためにあなたの気を引くために話をしていたのです」
「正々堂々と戦っていれば俺が圧倒して勝つことができたはずだ。卑怯な手を使ってしか勝てないお前達には未来はないぞ」
「私の心配をしてくださるなんて、とてもお優しい方なのですね」
リュンヌはニコリと笑って余裕の笑みを見せつけた。
「勝利の笑みを浮かべるなど愚かな行為だ。残念だが、お前は大事な事に気付いていない。俺は次期国王となる第1王子だぞ。俺を捕えるなど言語道断、俺の証言1つでお前は国家反逆罪で死刑になるぞ」
プリュトンは悪あがきをする。
「……わかりました。王都まで丁重に送らせていただきますので、死刑だけはご勘弁ください」
「ガハハハハハ、ガハハハハハハ、それでいいのだ」
私たちの目的は達成できた。あとは、プリュトンを国王陛下の元へ差し出すことだけなので、プリュトンの思惑にのっかかる。
「俺は非常に疲れているのだ。肩を貸しやがれ」
プリュトンは作戦が成功して横柄さに磨きがかかる。プリュトンが付かれているのは本当だ。しかし、歩けないほど疲れてはいないが、1人で歩けないアピールをして、リュンヌの肩に手をまわして体を密着させる。
「お前は強くていい女だと前から思っていたのだ。俺の妾にしてやっても良いぞ!ガハハハハハハ」
プリュトンはエロい笑みを浮かべてご満悦だ。
「丁重にお断りさせていただきます。馬車に乗るまでは肩をお貸ししますが、おとなしくしていてください」
リュンヌは怒りを抑えて冷静に振る舞う。
「ガハハハハ、つれないことを言うな。俺の隣にはお前とローゼを座らせよう。そこの醜女は俺に近寄るなよ」
プリュトンは、髪の短い男のような風貌の私を見て醜女と罵った。しかし、その瞬間、疾風のごとくプリュトンに駆け寄ったローゼは、グーパンチでプリュトンを殴りつけて、プリュトンを失神させてしまった。
「よくやったローゼ嬢。お前が殴らなければ、俺が切り殺していたところだ」
ローゼの動きがもう少し遅ければ、兄がプリュトンを斬りつけていた、しかしそれは兄だけではなかった。メーヴェも剣に手をかけていたのだった。プリュトンは私をバカにしたことにより、王都への帰路は両手両足を拘束された状態で帰還することになった。
「これで全ての任務は完了です。兄たちと合流しましょう」
私たちが北門に戻ると、一部の傀儡兵は元の状態に戻っていた。プリュトンの力によって傀儡兵にされた者は、プリュトンが闇の魔法を失ったことで傀儡化は解けた。しかし、ヘスリッヒの手によって傀儡兵にされた者は、傀儡の香もしくは傀儡毒水晶の効果が切れるまでは、感情のない人形として生活を送ることになるだろう。
「私はここに残ります」
ローゼは全ての傀儡兵を解呪することを決意する。
「ローゼが残るなら私も残るわ」
ローゼ1人だけに全てを任せることはできない。それに私にはやらなければいけないことがある。
「私も残ってお手伝いをします」
イーリスは雰囲気を察知して残ることにした。
「仕方がないわね、私たちも残るわよ」
「もちろんです」
メーヴェとシェーンも残ることにした。
「わかりました。傀儡兵のことはローゼさん達にお任せします。プリュトンのことは私たちに任せてください」
ストロフィナッチョ兄妹はプリュトンを王都まで連行し、兄はメテオール副団長とドナーの輸送を、私たちはエンデデアヴェルトに残ることとなる。
「私もここでの役割を終えたので、自分の役割を果たしに行ってきます」
ロベリアは終焉の森へ旅立つことにした。
「ロベリアさん、この帆馬車を使用してください」
イーリスは自分の帆馬車をロベリアに差し出す。
「いえ、受け取れません」
「ロベリアさん、これは報酬だと思ってください。帆馬車の中には食料とお金もあります。どうぞ、受け取ってください」
闇魔法を使えるロベリアだがお金や食料は持っていない。イーリスの申し出は非常にありがたい話だ。
「わかりました。喜んで受け取らさせてもらいます」
ロベリアはイーリスの気持ちを汲み取って報酬を受け取ることにした。