第94話 ローゼの成長
「やっと灯が見えてきたぜ」
プリュトンは暗闇の地下通路を、夜目で無事に通過して、南の監視塔の地下まで辿り着いた。
「確か南の監視塔には、脱出用に馬が繋がれていたはずだ。使えないバカだと思ってたヘスリッヒも、役に立つことがあるのだな。ガハハハハハ」
プリュトンは逃げ切れたと確信して、笑いが止まらなかった。
「今回は失敗したが、次は俺が勝つ」
プリュトンは誰もいない南の監視塔で、捨て台詞を吐いてから扉を開く。
「プリュトン王子殿下、お待ちしていました。おとなしく投降して下さい」
プリュトンが扉を開くと、リュンヌが笑みを浮かべながら待っていた。
「……どうして、お前がここに居るのだ」
プリュトンは驚いて腰を抜かして座り込む。
「あなたがプッペンシュピール礼拝堂から通じる地下通路を使って逃げたとの情報を得たので、先回りして待っていたのです」
「貴様!先回りをするなんて、卑怯者が!お前は正々堂々と戦う騎士道精神を持ち合わせていないのか」
プリュトンは逆ギレをして憤慨する。
「私は最善の策を選んだのです。卑怯者だと呼ばれても心が痛むことなどありません」
リュンヌは笑顔を崩すことなく丁寧な口調で対応する。
「この糞ったれ!お前はロベリアがいなければ、そのような傲慢な態度は取れないはずだ。まさしく虎の威を借る狐だな」
リュンヌにおちょくられていると思ったプリュトンは怒りが収まらない。
「プリュトン王子殿下は周りが見えていないようですね。この場にはロベリアさんはいませんよ」
「な~~~に~~~」
般若のようなプリュトンの怒りの表情が一転して、恵比寿顔に変化する。
「ロベリアさんには北門の傀儡兵を抑えてもらっています」
「ガハハハハハハハ、ガハハハハハハハ」
プリュトンは天にも届くほどの高笑いをする。
「お前達がおまぬけで助かったぜ。ロベリアさえいなければ俺の勝ちは確定だな。まずは手始めにお前を傀儡兵にしてやるぜ。ド~~~ン」
プリュトンは右手の親指と人差し指を伸ばして、手をピストルのような形にした。そして、指先に闇の魔力を込めて、ド~~~ンと拳銃音を口にした。
「あれ?おかしいぞ。闇の弾が飛ばないぞ」
本来なら、プリュトンがド~~~ンと叫べば、指先から小さな黒い弾が発射される。その黒い弾が体に貫通すると傀儡兵になってしまうのだ。しかし、プリュトンの指先からは闇の弾は発射されない。
「ド~~~ン、ド~~~ン、ド~~~ン」
何度もド~~~ンと叫ぶが、一向に闇の弾は発射されない。
「貴様!俺を騙したな」
プリュトンは鋭い眼光でリュンヌを睨みつける。
「騙してはいません。それよりも辺りをきちんと見てください。どこにもロベリアさんはいませんよ」
プリュトンは辺りをキョロキョロと見渡すがロベリアの姿はない。
「どこかに隠れているのだな」
「用心深いかたですね。ロベリアさんはどこにも隠れてはいません。ここに居るのは、私とメッサーさん、リーリエさん、そして、ローゼさんです」
「……ロ……ーゼ」
プリュトンはローゼという名前に聞き覚えがあった。
「ローゼ……あ!もしかして、聖女のローゼか!」
「プリュトン王子殿下ならローゼさんのことはご存じですよね」
「いや、ローゼはまだ聖女としては未成熟だと聞いているぞ。俺を浄化するほどの力を持っているはずはない」
「ローゼさんは日々成長をしているのです。今では、聖女の名に恥じない力を有しています」
リュンヌの言っていることは間違ってはいない。ゲームでは、ハーレムパーティーたちとの恋愛値によって成長するローゼだが、リアルの世界ではゲームのハーレムパーティーの誰一人とも恋愛どころか友達にもなっていない。それなのに、ローゼは日々成長している。私はイーリスの教えが功を奏していると思っていたが、他にも何か理由があるのかもしれない。
ローゼはリュンヌがプリュトンを惹きつけている間に、光魔法の詠唱を唱えて、プリュトンの解呪に成功していた。
プリュトンはリュンヌの策にまんまとハマったのであった。




