第88話 力関係
【黒百合の聖騎士と白薔薇の聖女】の結末は、闇の魔法を手にした魔女たちを全員退治した後に登場する魔王と名乗るあの人物を倒すとゲームはエンディングを迎えることになる。しかし、ここで大事なことは魔王とは終焉の魔女ではない。結局終焉の魔女は最後までゲームには登場しない。ゲームで終焉の魔女が姿を現さずにゲームがエンディングを迎えたのは、続編を作る為だと思っていたが、制作会社が倒産したので続編が世に出ることはなかった。
ロベリアが国王に会ってしまうとゲームとは全く異なる結末を迎えるのは私でも容易に想像がつく。終焉の魔女が時期尚早として、ロベリアをプッペンシュピール礼拝堂の地下に閉じ込めたことは理解した。しかし、ここで疑問が1つ浮かび上がる。
「終焉の魔女は誰にあなたを監禁するように指示をしたのでしょうか」
「創生の魔女です」
「終焉の魔女はこの場所にあなたを閉じ込めるように指示をしたのでしょうか」
「いえ違います。本来なら私は終わりの森にある禁忌の祠に監禁される予定だったのです」
「あなたを監禁する前に、ヘスリッヒが死んだのでこの場所に変更となったのですね」
「その通りです。私がこの場所に監禁されるのもゲームの世界と同じなのですね」
「それは違います」
終焉の魔女がロベリアを監禁するように指示をしたのは2つの意図があった。1つは国王と会わせないため、もう1つは私と会わせないためだ。終焉の魔女がゲームの内容を知っているのなら、プッペンシュピール礼拝堂の地下にロベリアを監禁するようにとは命じはしない。それは、私がプッペンシュピール礼拝堂の地下へ訪れる可能性があるからだ。それに対して終わりの森にある禁忌の祠はゲームには登場しない場所であり、私は知らない場所だ。もしも、終焉の魔女の指示通りにロベリアを禁忌の祠に監禁していれば、私とロベリアが再開することはなかった。
「そういうことなのですね」
ロベリアは私の心の声を聞いて理解する。
「私が知りたいことは全て理解できました。ロベリアさん、これからどうしますか」
「あなたの心の声を聞いてゲームの結末を理解しました。私は決してゲームと同じ結末にはしたくありません」
「それならば私と一緒に来てくれませんか」
ロベリアが仲間に加われば心強い。
「とても興味深いお誘いですが、私にはレーヴェ様とお会いする前にやるべきことがあるのです」
「やるべきこと?」
「はい。私はあなたに付けた呪いのアイテムを解呪する必要があるのです」
「でも、解呪は終焉の魔女にしかできないはずよね」
「いえ、もう1つ方法はあるのです」
「本当なの」
「はい。だから呪いのアイテムのことは私に任せてください。そのかわり創生の魔女たちの相手をお願いします」
「わかったわ」
今は一刻を争う時なので、私はロベリアを深く追求はしない。お互いの役割が決まったのならば、自分の役割を全うするだけだ。
「私がエンデデアヴェルトを出るまではあなた達に協力を致しましょう。借り物の力をさらに借りているプリュトンの闇の力は、私のテリトリー内では発動できません。私の前では全ての傀儡兵は案山子となり、闇の魔法を使えないプリュトンは一目散に逃亡するでしょう」
プッペンシュピール礼拝堂の地下で傀儡兵に遭遇しなかったのは、ロベリアがプッペンシュピール礼拝堂の地下に居たからである。そもそもゲームではロベリアとプリュトンが同じ場所に居ることはない。ゲームでは語られない力関係が存在していた。
「それは非常に助かります。ところでロベリアさん、1つだけお願いがあります」
「お聞きしましょう」
「私が転生者であることとゲームの世界のことは他言無用でお願いします」
私の秘密はまだ知られるわけにはいかない。
「わかっています。それに話したところで誰も信じないでしょう」
「ありがとうございます」
私はロベリアとの話し合いが終了したので、みんなを部屋に呼び寄せたのであった。