第85話 宝箱の中身
宝の部屋は20畳ほどの広さがあり、左右には2つの小部屋と繋がっている。ゲームではこの3つの部屋にヘスリッヒの宝が保管してあったが、聖剣スーパーノヴァ以外は、くだらないガラクタばかりが保管してあった。リアルではメインの宝の部屋はロベリアを監禁するために使用されているので、私たちは残りの2つの小部屋を捜索することになる。
「リーリエさん、こちらの部屋の扉には大事な宝の部屋と書いてあります」
「リーリエ、こちらの部屋にはガラクタ部屋と書かれているわ」
ここで注意する必要がある。ゲームでは2つの小部屋の1つは罠の部屋であり、部屋へ入った瞬間に扉が自動的に閉まり針の付いた天井が落ちてきて死んでしまう。この運命の二択の小部屋を成功させるにはゲームの知識が必要だ。私が主人公の時は右の扉すなわちリアルではガラクタの部屋と書かれている部屋に本当にガラクタの宝があり、大事な宝の部屋は罠であった。しかし、ローゼを主人公を選ぶと逆になってしまう。リアルの世界はローゼが主人公で私は異物の存在だ。そのことを踏まえると、この運命の二択の小部屋の答えは容易に導き出されてしまう。
「恐らくですが片方の部屋は罠になっているわ」
「それなら俺が部屋を開けるわ」
「その必要はないわ。正解はこちらよ」
私は迷わずに大事な宝の部屋と書かれている扉を開けて中へ入る。
「ほらね、正解よ」
私は笑みを浮かべる。
「……リーリエさん、無茶はしないで」
シェーンは顔面蒼白になっていた。
「リーリエ、大丈夫」
すかさずメーヴェが近寄ってきた。
「ええ、問題ないわ」
「それならよかったわ」
メーヴェは安堵の笑みを浮かべる。
「リーリエ、次は3つの宝箱が用意されているわ。これも罠なのね」
大事な宝の部屋には大中小の3つの宝箱が用意されているが、ゲームでは宝箱には罠はなく全てがくだらないガラクタ品しか入っていなかった。
「とりあえず全て開けましょう」
「リーリエ、大丈夫なの」
メーヴェは目を見開いて驚いている。
「問題ないわ」
私は扉を開いた時と同様にさっさと全ての宝箱を開けた。
「全て外れね」
「お粗末な品しかありませんね」
「とっても下品だわ」
大きな宝箱にはヘスリッヒの木像が、中くらいの宝箱には額縁に入ったヘスリッヒの自画像が、小さい宝箱にはヘスリッヒのサイン入り色紙が入っていた。 私は宝箱の内容を知っていたが、リアルでもヘスリッヒのくだらない宝を見せられて、みんなと一緒に声を上げて落胆した。すると、メーヴェが大きな宝箱に近寄ってとんでもない行動をおこした。
「なんてくだらない物ばかりなのよ」
メーヴェは大きなヘスリッヒの木像を両手で担ぎ上げて、ストレスを発散するために壁へ投げつけた。
『ガチャーン』
ヘスリッヒの木像は壁にぶつかって簡単に壊れてしまった。
「え~~~~~」
私は思わず悲鳴を上げた。それは驚きの悲鳴ではなく歓喜の悲鳴である。
「これは聖剣スーパーノヴァです」
壊れた木像の中から聖剣スーパーノヴァが出てきたのである。
「リーリエさん、これが聖剣スーパーノヴァなのでしょうか?私には黒い木刀に見えます」
イーリスの言う通り木像の中からは黒い木刀が出てきたが、これが聖剣スーパーノヴァである。聖剣スーパーノヴァは聖騎士以外が使用すると木刀としての効果しかないので、ガラクタ品と言っても過言ではない。
「ちょっと私に貸して」
メーヴェが聖剣スーパーノヴァを手にした。
「軽いわね。ちょっと素振りをしてみるわ」
聖剣スーパーノヴァは特殊な素材でできているので非常に軽い。
「えい!」
メーヴェは聖剣スーパーノヴァを振りかざしてヘスリッヒの肖像画を切り裂こうとした。しかし、剣の如く綺麗に切り裂くことができずにスリッヒの肖像画はバコンと音を立てて破壊された。
「やっぱり木刀ね。こんな木刀が本当に聖剣なの?」
「聖剣スーパーノヴァは聖騎士以外の者が使用すると木刀としての性能しか発揮しないのよ」
「そうなのね。それなら聖騎士でないあなたにも使用できないのね」
「その可能性は高いわ」
私は断言しない。
ゲームでも聖剣スーパーノヴァを完全に使いこなせるようになるのは、聖騎士となったゲームの終盤になる。ゲームの序盤では聖騎士の素質があるということで聖剣スーパーノヴァの最低限の力を引き出して使用することになる。だがリアルでは魔法が使えなくなった私を聖剣スーパーノヴァが所有者として認めてくれるのかはわからない。しかし、可能性は0ではないだろう。