第83話 ヘスリッヒからの贈り物
「この扉の先はプッペンシュピール礼拝堂の地下3階へと繋がっているはずです」
「リーリエさんの顔を見れば一目瞭然ですね」
私はゲームと同じ扉を見て、嬉しさのあまりに顔をくしゃくしゃにして喜んでいたようだ。しかしそれは仕方のない事だろう。もしもこの扉がゲームとは違う扉だったならば、私の計画は全ておじゃんになるところだった。それは私を信じてくれた仲間達を裏切ることになるだろう。これで私の面目は保たれた。
「俺が開けるからみんなは離れてくれ」
おそらくこの扉には罠はないと思われるが、念のためにシェーンが扉を開く。
『ギィギィギギギギギィ~~~』
錆びついた扉の開く音が耳に響く。いつもなら耳障りな音に聞こえるが、今は小鳥のさえずりのような心地よい音に聞こえる。シェーンが扉を開くと白壁の通路が姿を見せる。
「プッペンシュピール礼拝堂の地下で間違いないわ」
ゲームではプッペンシュピール礼拝堂の地下は白い壁で作られていたので間違いないだろう。
「やっと辿り着いたわね」
作戦を決行して2時間は経過した。ストロフィナッチョ兄妹がエンデデアヴェルトへ到着するのは昼前(10時前後)だ。私たちに残された時間は1時間~2時間くらいだろう。
「リーリエ、ここからどう進めば良いのかしら」
「まずは聖剣スーパーノヴァを取りに行くわ」
私に聖剣スーパーノヴァが使えるのか不明だが、手に入れる必要があると感じていた。
「わかったわ。案内して」
プッペンシュピール礼拝堂の地下に到着して隊列が変わる。前衛はメーヴェとシェーンが担当して、後衛に私とイーリスが陣取る。特に私は魔法が使えないので自分の身を守るので精一杯だ。
「案内は不要よ」
「え?」
メーヴェの目が点になる。
「このまま真直ぐ進めばわかるわ」
「わかったわ」
メーヴェは少し不満げな顔をして先へ進む。
「リーリエ……。これは罠なの」
メーヴェの頭に疑問符が浮かび上がる。
「信じても問題ないわ」
「……」
私たちがT字路に差し掛かると壁に掲示板が掛けられていた。掲示板には、右へ進むと宝の部屋、左へ進むと地下2階へ、私が来た方向には秘密の地下通路へと書かれていた。ゲームでは、私たちが来た方向は行き止まりと書かれていたが、リアルでは変更されている。
「メーヴェ、これはヘスリッヒ自身が道に迷わないように部下に書かせたものよ」
「……」
ゲームではそのように説明されていた。
「用水路のハンドルの説明書きもヘスリッヒが書かせたものですね」
「そうだと思います」
南の監視塔からは何も表示はなく罠が仕掛けられているが、プッペンシュピール礼拝堂からは、ヘスリッヒが道に迷わないように表示されていた。
「ヘスリッヒのおかげで簡単に聖剣スーパーノヴァが手に入りそうね」
「メーヴェ、油断は禁物よ。ここからは傀儡兵が出現するわ」
掲示板の存在で気が抜けたメーヴェだったが、すぐに緊張感を取り戻して先へ進む。
「リーリエさん、この状況をどう思いますか」
私たちは掲示板に従って奥へ進む。しかし、一向に傀儡兵は姿を現さない。
「……」
私も迷っていた。ゲームでは頻繁に傀儡兵またはスーパー傀儡兵が出現して、簡単に先へは進めないはずだったのだが、リアルでは全く傀儡兵が姿を見せず、安全に先へ進むことができている。私はこの状況をどう判断すべきか迷っていた。ヘスリッヒが死んだことでプッペンシュピール礼拝堂の地下に配備していた傀儡兵を撤収させたのか、それともストロフィナッチョ兄妹が攻め込んでくるので、プリュトンがプッペンシュピール礼拝堂の地下に配備していた傀儡兵を撤収させて北門に集結させたのか、それとも別の理由があるのか私は考える。
「私は全ての傀儡兵を北門に集結させたと思います」
イーリスの判断が妥当であろう。しかし、私は何故だか腑に落ちないのであった。