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第82話 達成感

 私が水路に飛び込んで15分程が経過した。



 「早く戻って来なさいよ!」



 メーヴェは扉の奥に聞こえるほどの大きな声を上げる。



 「……」



 シェーンは扉の向こうをジッと見つめて体を震わせていた。



 「私は信じています」



 イーリスは目を閉じて平常心を保つ。



 『バシャ~~ン』



 水路の水が弾け飛び、大きな水しぶきが上がった。



 「リーリエ~~~~~」



 メーヴェはエアステップで水路の水の上に立ち、水面から顔を出した私の手を握り引きずり上げた。



 「あなたはなんて無茶なことをするのよ」

 「ごめんなさい。でも、私に出来ることはこれくらいしかなかったのよ」



 行き止まりの場所を水中を潜って先へ進むゲームのシーンを思い出して私はそのシーンに賭けてみた。しかし、これは危険な賭けであり、もしも秘密の抜け道が存在しなければおぼれ死ぬ可能性もあった。こんな危険な行為を他の誰かにさせるわけにはいかないし、私がやると言っても止めに入られるだろう。だから私はみんなに相談をせずに用水路へ飛び込んだ。



 「道は繋がっていたのね」



 メーヴェは語尾をあげて尋ねる。



 「あったわ」

 「そう、よかったわ」



 メーヴェは私の行動が無駄に終わらなくてホッとした。



 「リーリエさん、詳しく説明をお願いします」

 「わかりました。この用水路を潜っておおよそ30mほど進むと新たな通路に出ることができます。用水路を登ってこちら側の通路の壁にハンドルがありましたので、それを回すと用水路の水が横穴に通って迂回して、この用水路を歩いて通ることが可能になります。しかし、このハンドルは一度しか使えません」


 「どうしてそんなことがわかるのでしょうか」

 「ハンドルの横に説明書きがあったので間違いないです。しかも、用水路から水がなくなるのは2分となっています」


 「一度しか使えないハンドル……しかも使用時間は2分なのですね。」

 「そうです。今からもう一度用水路を潜ってハンドルを回して来ます。用水路の水が無くなったら急いで来てください」


 「お願いするわ」



 3人は私を暖かい笑みで送り出す。3人は私の心情を理解している。魔法を使えない私が少しでもみんなの役に立ちたいと思っていることに。

 私は再び用水路に飛び込んだ。今回は気持ちが落ち着いている。前回は暗闇の水の中、本当に先が続いているのかわからない状況下だったのでとても怖かった。だが、今回は違う。ただ30mの素潜りをすれば良いだけである。前回は永遠とも思える潜水の時間が今回はあっけなく時間が過ぎ去った。

 私は水面に飛び出して通路へと登る。幸いなことにここからは、魔法照明器が設置されているので、暗闇の世界ではない。私が前回、用水路を潜り続けることができたのは、奥に希望の光が見えたからである。もし、希望の光が見えてなかったら、途中で断念していただろう……。私は思った。ここはリアルの世界であるがゲームの世界と同じだ。選択肢を間違わなければ、必ず攻略方法が存在している。私がハンドルを回すと壁の中から機械音が響き渡る。次に『ドドドドドドド』と歪な音が響き、用水路の方向を変えるために上部から石の板が降りてきて用水路を塞ぐ。そして、『ガガガガガガガ』と鈍い音が響いて用水路に横穴が出現する。横穴が出現したことで水の進行方向が変化して私が通ってきた用水路が通路へと変貌した。



 『ダダダダダダダダダダ』



 通路を駆ける音が響く。



 「ありがとう、リーリエさん」

 「上出来よ」

 「俺は泳ぎが苦手だから助かったわ」



 3人は駆け足で通路を渡り、私にお礼の言葉を述べる。



 「みんなのお役に立てて良かったわ」



 私はこの作戦で初めてみんなの役に立てて嬉しかった。



 「リーリエさん、服の浄化をします」



 イーリスが光魔法もどきを唱えると私のずぶ濡れの服は瞬時に乾燥して綺麗になる。



 「ありがとう、イーリスさん」

 「お役に立てて良かったです。さぁ、先へ進みましょう」

 「ここからは俺が先頭を進むわ」



 これからの通路は魔法照明器によって明かりが灯されている。罠に備えてシェーンが先頭で進むのは当然であった。




 「リーリエさん、上に登る階段があるわ」



 通路を15分程進むと上へ登る階段が姿を見せる。これで辻褄が合うはずだ。プッペンシュピール礼拝堂の地下に存在したオブジェの扉は地下三階にあった。私たちがこの階段を登れば地下三階に相当する場所となる。



 「シェーン、お任せするわ」

 「もちろんよ」



 シェーンが1人で階段を登って行く、その勇敢な後ろ姿を私たちは黙って見送った。



 「問題ないわ。登ってちょうだい」



 すぐに元気なシェーンの声が聞こえて、私たちは安堵の笑みを浮かべる。



 「シェーンに続きましょう」



 私たちは階段を登りシェーンと合流する。



 「また扉があるわ」



 階段を登ると銅製の頑丈な扉が出迎えてくれた。間違いない。この扉はゲームで見た扉と同じデザインであった。




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