第80話 秘密の地下通路
「天井が崩れた衝撃で扉が壊れたようね。でも、瓦礫が邪魔になって奥へ進めないわ」
天上から崩れ落ちた瓦礫は、シェーンのスキルの効果によりシェーンが居た扉の前に集中して落ちてきたので、扉は瓦礫の圧力で壊れてしまった。しかし瓦礫は扉に蓋をするように埋もれてしまったので、先に進む事が出来ない。
「リーリエさん、扉の上を見てください。通気口のような穴があります」
イーリスが指さす方を見ると、扉の上に直径1mほどの通路が見えた。
「もしかするとこちらが秘密の通路かもしれません」
「私が確認するわ」
通気口のような通路は頭上3mほどに存在するが、メーヴェならエアステップを使って簡単に通路へ到達することができる。案の定、メーヴェは簡単に通路へ辿り着いた。
「リーリエ、暗くて先は見えないけど、ここが秘密の通路の可能性が高いわね。もう少し奥へ進んで確かめてみるわ」
「メーヴェ、無茶はしないでね」
「わかっているわ。ここはもう敵の本殿、一瞬の油断が命取りになるわ。安全を確認しながら様子を見てくるわ」
メーヴェは、魔法灯の灯りを頼りに慎重に通路の奥へ進む。私はメーヴェの無事を祈ることくらいしか出来ない。メーヴェが通路の奥へ進んで15分が経過した。
「待たせたわね」
メーヴェが通路から降りてきた。
「下の通路はフェイクで上の通路が正解よ」
メーヴェの説明によると、上の通路は5分程進むと直径2mほどの大きさに変わり、立って通行することが出来るようになる。魔法照明器はないが、通路としてきちんと整備されているようだ。上の通路が本命であれば下の通路はフェイクだと容易に判断できる。
「メーヴェ、このロープを上の通路に縛れる場所はあるかしら」
私はロープで上の通路まで登ることにした。
「探してみるわ」
メーヴェはロープを持って上の通路へ戻る。
「あったわ」
メーヴェの声が聞こえると、ロープが上の通路から落ちてきた。私たちはロープを使って上の通路に入ることができた。
「リーリエさん、あちらを見てください」
イーリスは通路の反対方向を指さした。
「隠し扉が存在していたのね」
私たちは最下層まで階段を降りてきたが、実は途中で隠し扉が存在していた。その扉を開ければ天井が落下する罠にかかることなく隠し通路へ入ることができた。しかし、ゲームには存在しない南の監視塔の地下通路への隠し扉を見つけ出すことは容易くない。
「そのようですね。これはこちらの通路が正解だと言う確実な証拠となるでしょう」
「そうね。危険な道を選択してごめんなさい」
みんなは私の判断を信じてここまで付いてきてくれたのに私は最初から失敗してしまった。
「またバカなことを言ってるのね」
「そうですよ、リーリエさん。私はリーリエさんを責めているのではありません。この通路が隠し通路であることを確信したと言いたいのです。この通路は必ずプッペンシュピール礼拝堂の地下へと続いているでしょう」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずよ。危険を怖がっていたら前へ進めないわ」
「……ありがとう」
この世界の主役であるローゼがいないという不安感は、いくら取り払っても消えることはないのだろう。心強い仲間の言葉や行動で、自分の気持ちを鼓舞させるが、すぐに不安に飲み込まれてしまう。
「ここからは私が先に進みながら浄化魔法で通路を通りやすくします」
「助かるわ」
秘密の地下通路にも魔法照明器がないので一寸先は闇である。そして、長年使用されていないので、南の監視塔と同様に埃やクモの糸が張り巡らされている場所もある。イーリスは先頭で地下通路を浄化しながら先へ進む。
「浄化魔法のおかげでクモやネズミに遭遇しないのは嬉しいわ」
「本当ね。Gなんかに遭遇したら傀儡兵に遭遇するよりもパニックになってしまうわね」
浄化魔法は害虫駆除にも使用されるので、様々な害虫を退治してくれるので非常に助かる。
「イーリスさん、この辺で魔力を回復しておきましょう」
地下通路を進み30分ほどが経過した。ゲームでは魔力回復ポーションを飲むと、すぐに魔力を回復するけれどリアルでは違う。すぐに魔力が回復しないリアルでは、魔力が減ってから魔力回復ポーションを飲むのではなく、定期的に飲むのが一番効率の良い使い方になる。
「俺も少し飲んでおくわ」
「私もね」
メーヴェはエアステップを使用した時、シェーンはスキルを使用した時に魔力を消費している。私以外の3人は魔力回復ポーションを飲んで魔力の回復に努めた。