第78話 作戦の日
「リーリエさん、少しは不安が解消されたようですね」
私たちが待ち合わせ場所へ戻ると、真っ先にイーリスが声をかけてきた。
「移動中ずっとしけた面をしていたけど、面構えがマシになったわね」
メーヴェは口悪く言うが、私のことを本当に心配していた。
「俺の愛のパワーが少しは役に立ったようね」
「ありがとう。元気をもらったわ」
私が素直にシェーンにお礼を述べるとシェーンは顔を赤らめて照れていた。
「よっしゃ~。やる気が出たわよ」
シェーンは照れを隠すように大声を出して誤魔化した。
「では、皆さん。今日の夜中に出発しますので、早めに食事を済ませて宿屋で睡眠を取りましょう」
私たちは食事を済ませて宿屋で眠りに着いた。そして、決戦の日を迎える。
「皆さん、起きてください」
私たちは夜中にミリューを出発して、早朝にはエンデデアヴェルトから1㎞ほど離れた場所で帆馬車を止めて休息を取っていた。
「私が先に状況を把握してくるわ」
「お願いするわ」
もしも私たちの作戦がプリュトンに漏れていれば、南の監視塔には多くの傀儡兵が待ち受けているはずなので、全員で監視塔へ向かうのは無謀だろう。しかし、メーヴェだけなら問題はない。危険を察知すればエアステップを使って逃げ出せば良いのだ。メーヴェは周囲を警戒しつつ早足でエンデデアヴェルトへ向かう。残った私たちは最悪の事態に備えて、いつでも帆馬車で逃げられるように待機する。それから15分程が経過した。
「メーヴェ、どうでしたか」
「誰も居なかったわ。念の為に南の監視塔の中も確認したけどもぬけの殻よ」
私たちの情報は漏れてはいなかった。作戦通りエンデデアヴェルトの傀儡兵は、正面の北門に集結しているのであろう。
「リーリエさん、予定通り南の監視塔へ向かいましょう」
「そうね。でも、警戒は怠らないでね」
私はローゼがいないことでとても神経質になっている。本当は私の作戦は漏れていて、私たちを油断させるために、敢えて傀儡兵を配備しなかったのではないかと疑ってしまう。
「もちろんです。みなさん油断しないで下さい」
私たちは最悪の事態を想定しながらゆっくりと南の監視塔へ向かった……が、結局何も起こらずに南の監視塔の中へ潜入した。
「本当にもぬけの殻ね」
「そのようですね。それにここは何カ月も使用していないようです」
南の監視塔の中は埃まみれでクモの糸があちらこちらに張り巡らされていた。そのことから南の監視塔は半年以上、もしくはそれ以上監視塔の役目を果たしていないだろう。
「私の浄化魔法で部屋を浄化します」
「お願いします」
潔癖症でなくても、埃とクモの糸に支配された監視塔の中を進むのは気持ちが悪い。
「purify」
イーリスが浄化魔法を唱えると、部屋の中に白いもやがかかる。そして、1分程経過すると白いもやが消え去って新築のような綺麗な部屋に様変わりした。
「あれが地下へ降りる階段でしょう。私が先に降ります」
部屋の突き当りには上に登る階段と下へ降りる階段がある。当然、地下室へ向かうには階段を降りるのが当たり前だ。
「危険です。私が先に降ります」
イーリスを危険にさらすわけにはいかないので、私が先に降りるのが良いだろう。
「リーリエさん、お気遣いありがとうございます。でも、暗い場所は私の得意分野です。魔法灯よりも視界を広くとらえることができるので先頭は私が最適です」
私たちは高価な魔法灯を用意していた。ゲームでは、プッペンシュピール礼拝堂の地下は、魔法照明器によって明かりが灯されていたので問題はないだろう。しかし、南の監視塔からプッペンシュピール礼拝堂の地下へ通じる地下通路には、魔法照明器が設置されていない可能性もあるので、高価な魔法灯を用意したのである。私の予測通りに南の監視塔の地下へ通じる階段の先は暗闇が支配していた。
「みんなそれぞれに得意分野があるわ。この場はイーリスさんにお任せするのが正解よ」
シェーンは私の肩をポンポンと叩いて笑みを浮かべる。
「あんたは頭だけ使ってくれれば良いのよ」
メーヴェはぶっきらぼうに答えるが私のことを気にかけているのであろう。私は良い仲間に恵まれている。
「イーリスさん、お願いします」
「もちろんです」
イーリスは魔法灯も使わずに暗闇へ通じる階段を降りる。私たちはその後を魔法灯の明かりを頼りにして降りていった。




