第77話 決意
結局私はみんなと一緒にエンデデアヴェルトへ向かうことになる。ローゼだけは国王の勅令に逆らうことはできないので、ストロフィナッチョ兄妹に協力する。
「みなさんの無事を祈っています」
私の愚かな行動により、予定より早く出発することになってしまったが、イーリスが帆馬車を用意してくれていたので、定期運航の馬車へ乗らずに済んだのは幸いだったと言えるだろう。私たちは帆馬車に乗りエンデデアヴェルトへ向けて出発した。
「リーリエさん、作戦は明朝になります。この村で、ゆっくりと休んでいきましょう」
エンデデアヴェルトに一番近い村であるミリューへ着いた私たちは明日の作戦に備えてゆっくりと休養を取る。ミリューからエンデデアヴェルトへは5時間程度かかるので出発は夜中だ。
「馬車疲れをして体が痛いから散歩でもしてくるわ」
王都からミリューまでの道のりは、幾度かの休憩を入れて1日半かかる。ほとんどの時間を馬車の中で過ごしていたので体の節々が痛かった。
「リーリエさん、俺がお供をするわ」
すぐにシェーンが私の隣を陣取る。もちろん、帆馬車の中でもずっと私の隣はシェーンだった。
「私は補充すべきアイテムを購入してきます」
「イーリスさん、私も付き合いますわ」
イーリスとメーヴェは戦闘で必要になるアイテムを追加購入することにしたようだ。
「お昼にここでまた落ち合いましょう」
「わかったわ」
私はシェーンを連れてミリューをぶらぶらと散歩することにした。
「決戦は明日ね。俺が絶対に守ってあげるから心配は無用よ」
「ありがとう。でも私は大丈夫よ」
シェーンは不安げな表情を浮かべて黙々と歩いている私を見て、元気づけようと声をかける。しかし、私の足取りは重く嘘の笑みを浮かべる。頭では覚悟を決めてみんなと一緒にここまで来たが、心は不安で満ちていた。
「嘘はよくないわ。まだ完全に不安を拭いきれていないのね」
「……そんなことないわ」
ゲームにはない状況なうえにローゼが居ない不安感は、虚勢を張ってもすぐに見破られてしまう。
「俺は君を見た時に初めて会ったとは思えなかったわ。そう……ずっと前から知っていたような気がしたの。それはメーヴェと出会った時も同じ気持ちだったわ。だから、メーヴェとはすぐに意気投合して仲良くなったのよ。俺とメーヴェはどんな死戦でも共に戦う誓いを立てたわ。でもメーヴェは、俺がこの作戦に参加することを最後まで拒んでいたわ。おそらく想像以上に危険な作戦となるから俺を巻き込みたくなかったのかもしれない。だが、そんな危険な作戦にメーヴェはなぜ参加したのか知っているかしら?」
「……兄から頼まれて断れなかったと言っていたわね」
「それは違うわ。メーヴェは君のことが心配だったからよ。メーヴェも俺と同じような気持ちをあなたから感じているの」
私は前世の記憶があるから2人のことを知っていたし、友達とは違う不思議な感情を抱いていた。しかし、2人は前世の記憶はないし、ましてや転生者ではないはずだ。これはゲームの調整力なのか、それとも……何か不思議な繋がりがあるのだろうか。
「メーヴェが私のことを心配しているの?」
「口では嫌がっているように言っているけど、実際は君のことが好きなのよ」
「え!」
私は顔を赤らめる。
「俺の愛しているとは違い友達としての好きという意味だけどね」
「そ……なのね」
私はホッとしたが、嬉しい気持ちもある。
「イーリスさんも君のことを親身になって考えてくれている。それはわかっているだろう」
「……」
みんなが私のことを心配してくれていることはわかっている。だからこそみんなを巻き込みたくはなかつた。
「俺達の力を信じてくれ。絶対にこの作戦は成功させてやる」
シェーンは私の両手を握り私の目をジッとみる。
「ありがとう。私は考え過ぎて臆病になっていたみたいね。必ず作戦は成功させるわ」
「そうよ。君にはその美しい笑顔がお似合いよ」
私はシェーンの言葉で完全に気持ちが吹っ切れたわけではないが、もう、ここまできたらやるしかない。ゲームにはない展開だが、ゲームの知識は必ず役に立つはずだ。私は頭をフル回転させてゲームの内容を思い返すことにした。