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第76話 絆

 次の日の夜、私はローゼに見つからないように部屋を抜け出して、フォルモーント王立学院から抜け出した。



 「これが最善の策なのよ」



 私は自分に言い聞かせる。作戦では明日の早朝にイーリスが手配した帆馬車に乗り、エンデデアヴェルトに向かう予定だったのだが、私はその予定をすっぽかすことにした。これは逃げ出したのでなく、無駄な犠牲者を出さないための新たな作戦である。どう考えてもローゼなしでエンデデアヴェルトへ潜入するのは非常に危険である。ゲームにはない展開では、私のゲームの知識はどこまで役に立つのかは不明だ。そんな不確かで危険な場所へイーリスたちを連れて行くことは出来ない。私1人で何が出来るのかはわからないが、全ての責任は私にある以上、私が責任を取るのが筋である。私は1人で夜行帆馬車を利用してエンデデアヴェルトの付近の村まで行き、村に着いたら馬を借りて、エンデデアヴェルトの南の監視塔に向かう予定だ。上手く潜入することができれば、身を隠しながら移動して、メテオール副団長とドナーを救出すれば良い。簡単なことだ。簡単なことだ。簡単なことだ。と何度も自分に言い聞かせながら、誰にも見つかることなく王都の帆馬車運航場に到着した。



 「ローゼ、後は任せたわよ」



 私は光り輝く夜空の星を見上げながら遺言の言葉を星に託した。



 「勝手に任せないで下さい」

 「……」



 私は耳を疑った。ここに居るはずのないローゼの声が聞こえたからである。



 「リーリエさん、手柄を1人占めするのは良くないことです」

 「……」



 次はイーリスの声が聞こえた。



 「ローゼの言ったとおりだったわね。こそこそと1人で何処へ行くつもりなの」

 「……」



 メーヴェの声が聞こえた。



 「駆け落ちなら俺が必要だろ」

 「……」



 シェーンの声が聞こえた。



 「どうしてみんながここに居るのよ!」



 私は大声で怒鳴りつける。



 「リーリエさんは気丈に振る舞っていましたが、私にはリーリエさんの嘘はわかるのです」



 ローゼは目を真っ赤にして私を睨みつける。



 「どうして本当のことを言ってくれないのでしょうか?そんなに私は頼りにならないのでしょうか」



 今までに聞いたことのない大きな声でローゼは私に問いかける。



 「違う……違うのよ」

 「リーリエさん、無茶はしないでと言いましたよね。どうして1人でエンデデアヴェルトへ向かおうとしたのですか」


 「全ては私のミスが原因なの。だから私のせいでみんなを危険な場所に行かせるわけにはいかないのよ」

 「リーリエさんがどのようなミスを犯したのか私にはわかりません。でも、ミスを犯したのならみんなでそれを補うのが仲間です」

 「ローゼさんの言う通りです。私たちは危険を承知であなたの作戦に協力をすると言ったのです。いまさら逃げるようなことはしません」

 「私はメッサー様にあなたを守るように言われているのよ。あなたがどんなミスをしたのかはどうでも良いわ。でも、メッサー様を悲しませることは絶対に許さないわ」

 「俺は君が向かうとこなら地獄でもお供するつもりよ」


 「……ごめんなさい。私は……私は……」

 「リーリエさん」



 ローゼは私を抱き絞めて暖かい温もりで心を落ち着かせてくれた。



 「リーリエさん、本当に勝機はないのでしょうか」

 「ローゼと兄を私から引き離したということは、私の作戦も漏れている可能性があるの」



 みんなには話さなかったが、全ての情報が魔女側に流れている可能性もあるのだ。もしも情報が流れていれば、プッペンシュピール礼拝堂へ通じる地下通路には、多くの傀儡兵が配備されているかもしれない。



 「それでは作戦を中止しましょう」

 「それはできないわ」



 選択肢を間違えればゲームではバッドエンドを迎えることになる。リアルでも同じことが想定されるので、ここで作戦を中止することはできない。



 「わかりました。それならば作戦は遂行します。でも、1人で行かないでください。それが私の最大の譲歩です」

 「でも……」



 私は最後の可能性に賭けていた。それは、このリアルの世界で異物の存在ともいえる私が死ねば、ゲームの調整力が消えて、最悪の事態が回避できるのかもしれないと。しかし、それは願望であり妄想でもある。



 「リーリエさんらしくありません。いつもの強気のリーリエさんは何処へ行ったのでしょうか?引き返すことができないのであれば、出来ることの最善を尽くしましょう」

 「しゃくだけど、いつもあなたの判断は正しいわ。今回は自信がないようだけど、私たちの力を見くびらないことね」

 「俺はいつだって君のために最善を尽くすつもりよ」

 「……わかったわ。勝機はないとはいえないけれど、かなり危険な戦いになると思うわ。それでも私に付いて来てくれるのかしら」


 「もちろんよ」

 


 みんなは快く返事をしてくれた。

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