第75話 新たな作戦
私たちがエンデデアヴェルトへ向かうのは明後日だ。兄とローゼが呼び出された日は明々後日なので、私たちと一緒に行くのは完全に不可能になった。しかし、ローゼと兄は私と一緒にエンデデアヴェルトへ潜入するとソレイユ達に伝えていたはずだ。それなのに呼び出しがかかるのは、国王の意図なのか、それとも魔女側の意図なのか、ゲームの調整力なのかはわからない。
「私はどうなってもかまいません。だから私はリーリエさんと一緒に行きます」
ローゼは覚悟を決めた。しかし、これは国王に作戦を報告しないと判断した私のミスでもある。私の作戦はローゼが居て成り立つので、ローゼが居ないと始まらない。申し訳ないが兄が居なくてもさほど問題ではない。私はローゼが来られなくなって完全に詰んでしまった。
「ダメよ、ローゼ」
私はこの報告を聞いた時、地獄に突き落とされたほどの絶望を感じたが、それと同時に自分の不甲斐無さを痛感した。結局私はローゼが居ないと何も出来ない役立たずだと。ゲームの知識で調子にのって、安易に呪いのアイテムを使用したのが全ての始まりだ。あの愚かな行為をしていなければ、リアルの世界はゲームと同じ道筋を辿っていたに違いない。私がでしゃばらなくても、ローゼが世界を救っていただろう。私は気付いてしまった。このリアルの世界を絶望に導いているのは終焉の魔女ではなく私であることに。私は何も出来ない役立たずだ。私のせいでローゼの立場を悪くすることは出来ない。
「どうしてでしょうか。リーリエさんには私が必要ないのでしょうか」
「ローゼの力があれば闇魔法を使う魔女なんて楽勝よ。でも、その力は私のためではなく王国の為に使わなくてはならないの」
ローゼは国王から勅令をうけたのだ。この世界で生きるには私ではなく国王の指示に従うのが道理である。
「私はリーリエさんのためにこの力を使いたいのです」
「ありがとう、ローゼ。でも心配は無用よ。私には秘策があるの。ローゼはストロフィナッチョ兄妹の手助けをしてあげて」
私は不安な気持ちと不甲斐無い気持ちを隠して笑顔でローゼに答える。今これが私に出来る唯一の強がりであった。
「リーリエさん、お願いします。秘策を教えて下さい」
ローゼは私のことを思うと不安でいっぱいなのであろう。私はローゼを安心させる言葉が必要だ。
「プッペンシュピール礼拝堂の地下には聖剣スーパーノヴァがあるはずなの。聖剣スーパーノヴァを使えば、傀儡兵を簡単に倒して解呪することも可能なの。それに闇魔法を使う魔女さえも倒すことも出来るのよ」
「その話は本当なのでしょうか」
私に絶対的信頼を置くローゼだが、今回だけは素直に受け入れることが出来ない。
「ローゼ、私が信用出来ないの」
嘘は言っていない。ゲームではプッペンシュピール礼拝堂の地下に聖剣スーパーノヴァがあり、聖剣スーパーノヴァで闇魔法の因子を切り裂くことが出来るので、容易く傀儡兵を倒すことも解呪することも可能だ。そして、闇魔法を使う魔女だって倒すことが出来る。しかし、それは聖剣スーパーノヴァの能力を完全に引き出せる聖騎士に限ったことだ。ゲームでは聖騎士まで成長していない私は、聖騎士になる資格があったので、聖剣スーパーノヴァの最低限の力を引き出してヘスリッヒを倒した。リアルの世界の私も3属性を授かって聖騎士になる資格はあるが、呪いのアイテムで魔法が使えない。このような状態で聖剣スーパーノヴァを使えるのかは未知数と言える。
「……わかりました。でも決して無茶はしないで下さい」
ローゼは私の言葉を信じるしかなかった。
「もちろんよ、ローゼ」
私は嘘の笑みを浮かべてローゼを安心させることに成功した。
「ローゼさん、君の代わりに俺がリーリエさんを守ってあげるから心配は無用よ」
「シェーンさん、お願いします」
ローゼは少し複雑な気分であったがシェーンに頼るしかなかった。
ちなみにシェーンはメーヴェの後を追って来て、強引に私の部屋に入り作戦の参加を申し出たのである。1人でも有能な助っ人が欲しかったので渡りに船であった。ゲームでのシェーンは土属性の属性突破をした金剛属性の持ち主で、金剛属性のスキル金城鉄壁を有している。金城鉄壁は相手の攻撃力を5分の1にするスキルで、この攻撃はあらゆる攻撃に対応する。しかも敵の全体攻撃を単一攻撃に変換して、自分を犠牲にする効果もあり、防御に特化したキャラで非常に頼もしい仲間であった。
「ローゼさん、後は私たちに任せておけば良いわ」
イーリスもローゼの不安を取り除くために親身に声をかける。
「わかりました。私もみなさんの負担が少しでも減らせるように、敵の注意を全てこちらに引き付けます」
私たちの作戦の予定はこのようになる。まずは私たちが早朝にエンデデアヴェルトへ潜入して、プッペンシュピール礼拝堂の地下を目指す。そして、その日の昼前にはストロフィナッチョ兄妹が率いる王国魔法士団と騎士団が、エンデデアヴェルトの北門に集結する。おそらくプリュトンは、内通者からストロフィナッチョ兄妹が進軍して来ることを知らされているはずなので、多くの傀儡兵は北門に配備されるはずだ。もちろん、傀儡兵を指揮するためにプリュトンも北門の近くに身を潜めているだろう。多くの勢力が北門に集中することで、プッペンシュピール礼拝堂の警備は手薄になっているはずなので、そのスキを突いて私たちはプッペンシュピール礼拝堂に幽閉されているメテオール副団長とドナーを救出することになる。ローゼが一緒に来られなくなったので、プリュトンを背後から討つ作戦が中止になったことは仕方のないことであった。