第73話 願望から現実へ
「ドナーさんの決死の覚悟は理解出来ました。しかし、リーリエさんの対案の答えとは無関係の内容だと思います」
「そうですね。少し話がそれてしまいました」
私の対案を通す為にはドナーの思いをみんなに知ってもらう必要があった。みんなにドナーの思いを理解してもらったので本題に入る。
「バランス隊長が述べた通り、エンデデアヴェルトに入るには正面の門を通るしか方法はありません。しかし、それは通常の方法の話であります。もしも、秘密の抜け道が存在すれば、その抜け道を使えば良いのです」
「バカかお前は!そんな都合の良い抜け道なんて存在するはずがない。お前はドナーの決死の覚悟を知っているのに、よくもそんなくだらないことがいえるのだな」
「リーリエさん、バランス隊長が怒るのも当然です。私たちはもしもの話をしているのではありません」
さすがのリュンヌも私の話に少し苛立ちを感じている。
「ヘスリッヒはとても臆病な性格の持ち主です。ヘスリッヒはもしもに備えて、いつでも逃げ出せるように、プッペンシュピール礼拝堂の地下から外へ逃げるための地下通路を確保していた可能性があります」
「それは本当なのでしょうか」
ゲームではヘスリッヒを追い詰めると、プッペンシュピール礼拝堂の地下に向かって逃げようとするが、逃げ切ることができずに打ち倒される。その時「ブヒ、もう少しで逃げることができたブヒィィィィ~」と最後の言葉を残す。この言葉だけではプッペンシュピール礼拝堂の地下に秘密の通路があるとは言い切れない。しかし、プッペンシュピール礼拝堂の地下でスーパーノヴァを探す時に1つだけ閉じられた扉があった。その扉は開く仕様ではなくオブジェとして存在していたので印象に残っていた。ゲームでは開くことのない扉、そして、ヘスリッヒの最後の言葉、この2つが導き出す答えは秘密の地下通路の存在だと私は考えた。
この考えはこじつけのようにも思えるが、ゲームと同様にリアルの世界にも必ず攻略方法が存在するはずである。今までのゲームの傾向から考えると秘密の地下通路以外は考えられない。しかし、あまり自信がないのでもしもと自信なさげに言ったのであった。
「リーリエさん、プッペンシュピール礼拝堂に地下など存在致しません。残念ながらあなたの推測は妄想です」
リュンヌはきっぱりと言い切った。私の意見は妄想と言うよりも願望であり希望でもある。
「リーリエさん、私は信じます」
ローゼの私に対する信頼は絶対的である。
「わかりました。もう少しだけリーリエさんの妄想話に付き合いましょう。では、仮にプッペンシュピール礼拝堂に地下通路が存在するのでしたら、いったいどこへ通じているのでしょうか?その場所がわからなければ意味がありません」
「ちょっと待てリュンヌ、リーリエ嬢の話は本当かもしれないぞ」
ソレイユがぼそりと呟く。
「兄様、どういうことでしょうか」
「エンデデアヴェルトを囲う水路は地底湖から水を引いていると聞いたことがある。もしかすると、地下の用水路がプッペンシュピール礼拝堂の地下に通じている可能性があるのかもしれない」
「ソレイユ様、それならエンデデアヴェルトの南の監視塔に固く閉ざされた地下室があると聞いたことがあります。もしかすると、そこから侵入できるのかもしれません」
私は選択肢に成功したのだろう。次々と新情報が浮かび出て私の願望が現実味を帯びてきた。
「リーリエさん、妄想話と言って申し訳ありません」
リュンヌはすぐに自分の非を認めた。
「いえ、気にはしておりません。私も確証はありませんでしたので、ソレイユ様とバランス隊長の助言のおかげで道筋が見えました。ご協力ありがとうございます」
私1人ではゴールに辿り着くことは出来なかったはずなので、素直にお礼の言葉を述べた。
「リーリエさんの対案は理解できました。その対案を実行するメンバーをお聞かせください」
私とローゼ、それに光もどき魔法を仕えるイーリスは確定である。ゲームではプッペンシュピール礼拝堂の地下にはスーパー傀儡兵と傀儡兵が行く手を塞ぐことになる。ついでに聖剣スーパーノヴァを入手するつもりなので、あまり邪魔建てされるメンバーを連れていくのは避けたい。
「光魔法と光もどき魔法が使えるローゼとイーリスさんは絶対に来てもらいます。そして、おそらく兄は来るなと言っても付いて来るに違いありません。兄が来ることになれば、メーヴェも付いて来るでしょう。私はこの5人でエンデデアヴェルトへ潜入したいと思います」
ゲームでもパーティーメンバーは5人なので、必然的に5人になるよう調整されているのかもしれない。
「これは俺が国王陛下から受けた依頼だぞ」
バランス隊長が意を唱える。
「わかっています。しかし、エンデデアヴェルトへの潜入は私たちに任せてください。バランス隊長はソレイユ様とリュンヌ様と一緒にメテオール副団長の奪還作戦を推し進めてください」
「ダメだ。俺はお前達と一緒にメテオール副団長とドナーを助けに行く」
バランス隊長は私の提案を拒んだ。