表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/124

第72話 ゲームの調整力

 「愚策だ!」



 今度はバランス隊長が私の対案にダメ出しをする。



 「勝機のない対案だ」



 ソレイユもきっぱりと私の対案を否定する。




 「リーリエさん、作戦の詳細を説明してください。今の説明ではお2人が批判するのは当然だと思います」




 リュンヌは愚策だと判断するにはまだ早いと思っているようだ。




 「わかりました。少数精鋭といっても、少人数で正面から戦いを挑むわけではありません」

 「ガハハハハ、リーリエ嬢は難攻不落と言われるエンデデアヴェルトの状況を知らないようだな。無知のお前に俺が教えてやる。エンデデアヴェルトの町は城壁で囲まれているうえに、正面以外は幅30m深さ10mの水路で囲まれているのだ。正面以外は東西南の大きな跳ね橋が設置されていて、跳ね橋を降ろさない限り通行はできない。この難攻不落のエンデデアヴェルトをどうやって正面以外から戦いを挑むつもりだ」



 ゲームではエンデデアヴェルトの警備が厳戒態勢を強いていない状況だったので、変装をして簡単に潜入することができた。しかし、リアルでは状況が変わってしまった。今では蟻の子1匹ですら入ることは難しい。



 「ドナーさんはどのようにして侵入したのでしょうか」

 「それは……」




 バランス隊長の顔は雲がかかったように暗くなる。



 「バランス隊長、隠し事は認めません。知っている情報は全てお話ししてください」



 言葉を閉じたバランス隊長にリュンヌは開口を求める。



 「知らないのだ。本当だ……信じてくれ」



 ここでバランス隊長が嘘を言う理由はないので本当であろう。それならば、ドナーはどのような方法で侵入したのであろうか。



 「本当にバランス隊長は知らないと思います」



 私の対案を愚策と罵ったバランス隊長に助け舟を出す。



 「わかりました。それで、リーリエさんはドナーさんがどのようにしてエンデデアヴェルトへ侵入したのか知っているのでしょうか」

 「おそらく変装でもして侵入したと思います」


 「それはあり得ないでしょう。そんな簡単に潜入できるはずがありません」

 「その通りです。しかし、ドナーさんは変装して潜入したに違いありません」

 「ドナーがそんな愚かなことをするはずはない」



 バランス隊長の目には涙が溢れていたが、バランス隊長も同じことを考えていたはずだ。バランス隊長は無謀な潜入捜査をしたドナーの行いを受け入れたくはないのだろう。



 「愚かなことをしたのは私たちなのかもしれません」

 「リーリエさん、どういうことでしょうか」


 「以前に私たちは、【judgment(正義) of() justice(審判)】へ加入するように要請がありましたが、その要請を断りました。その後にドナーさんは1人でエンデデアヴェルトへ潜入したのです。もしも、あの時私たちが加入していれば、ドナーさんの現状は変わっていたのかもしれません」

 「あなた方の判断とドナーさんの結果は別問題です。気に病むことはありません」



 ゲームには存在しない展開は私にも予測不能である。私のゲームの知識は万能ではないので、判断が間違っていたのかもしれないと少し後悔をしていた。



 「リーリエさん、ドナーさんは私たちに託したのですね」



 ずっと黙って聞いていたローゼが口を開く。




 「ローゼさん、どういう意味でしょうか」



 リュンヌはローゼの言いたいことを理解できないが私は理解している。



 「私が代わりに説明します。ドナーさんはワザと捕まって、プリュトン王子殿下にローゼの嘘の情報を教えることで、王都への侵攻を遅らせようとしたのです。そして、プリュトン王子殿下が王都侵攻を渋らせている間に、私たちがプリュトン王子殿下を倒してくれることに賭けたのでしょう」



 未だにプリュトンが王都へ侵攻しない理由は、ローゼの光魔法を恐れているからだと思われる。プリュトンはローゼの力を上回る戦力を確保して、万全の体制を整えてから、王都に侵攻するつもりであろう。



「まずローゼさんの嘘の情報とは具体的にはどういうことなのでしょうか」

「それはローゼの光魔法の成長度でしょう。プリュトン王子殿下が王都へ侵攻しないのは、ヘスリッヒを倒したローゼの光魔法を恐れているからです。ドナーさんは光魔法の恐ろしさをプリュトン王子殿下に過剰に伝えて、時間稼ぎをしていると思われます」



 この世界はゲームの調整力が働いているのは確実だ。もし、国王を殺して大罪を犯すことが目的ならば、全ての魔女たちが協力して一斉に攻撃すれば、全員が簡単に目的を達成することはできる。特に創生の魔女は、すぐにでも国王陛下を殺すことが可能だ。それを実行しないのはゲームの調整力があるからだ。魔女側は律儀に1人ずつ順番に攻撃をしてくる。これはゲームの調整力すなわち、終焉の魔女がゲームを楽しんでいるからだともいえるのかもしれない。

 プリュトンがすぐに王都に侵攻しないのもゲームの調整力でもあり、私たちに考える時間の猶予を与えてくれている面もあるのだろう。しかし、その猶予が過ぎればゲームと同じようにバッドエンディングが待ち受けているのも事実だ。私がガトーでストロフィナッチョ兄妹と出会い、その後にバランス隊長と出くわすのも偶然でも運命でもなく調整力だ。今私はゲームの分岐点に居るのだろう。私が分岐点を間違えれば、バッドエンディングが待っているはずだ。だが、言い返せば、この状況を打破できるのは私だけであり、ゲームの知識にヒントが隠されているに違いない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ