第71話 対案
「皆様、先ほどまでの話は一旦仕切り直させてもらいます。リーリエさん、ここは会議の場になりますので、相手を刺激しない穏便な話し方で、あなたの意見を最初から伝え直してください」
「わかりました」
会議を円滑に回すためにリュンヌは司会者の役割に立つ。私はリュンヌの意図を理解して、遠回しな言い方でなく的確な言葉で説明することにした。
「エンデデアヴェルトを支配しているのはプリュトン王子殿下だと思います。しかも、ヘスリッヒの闇魔法を引き継いでいる可能性が高いでしょう」
「ちょっと待って下さい。プリュトン王子殿下はブクルドレイユ共和国へ留学していると聞いています。バランス隊長、リーリエさんが言っていることは本当なのでしょうか。ありのままの真実をお伝えください。そうでなければ、私たちも協力はできません」
「ソレイユ様、リュンヌ様、先に訂正させて下さい。こちらの得ている情報は全てお2人にはお話しする予定でした。しかし、リーリエ嬢、ローゼ嬢にはどこまで情報を伝えるべきかの判断に迷っていましたので、リーリエ嬢に不快感を与えてしまったようです。これからは、真実のみを話すことを誓います。それでは本題に戻ります。エンデデアヴェルトを支配しているのは、プリュトン王子殿下で間違いありません。しかし、傀儡されている可能性が高いと思われますので、本当の支配者は別にいる可能性もあると考えています」
プリュトンはフォルモーント王国の第1王子であり、現在はブクルドレイユ共和国へ留学中となっている。ゲームでのプリュトンは、ヘスリッヒが死亡した後に留学先から帰国して、創生の魔女の能力によってヘスリッヒの力を継承することになる。そして、進化した傀儡の力を手に入れたプリュトンは、王国魔法士団ならびに王国騎士団を傀儡して国家乗っ取りの革命を起こすのである。進化した傀儡の力とは、傀儡の香や傀儡毒水晶を使わなくても、傀儡することができる闇魔法である。しかし、傀儡できる人数に制限がある為に、傀儡の香や傀儡毒水晶を併用することになる。
「バランス隊長、願望で物事を判断してはいけません。プリュトン王子殿下が傀儡されているという証拠はあるのでしょうか」
リュンヌは曖昧なバランス隊長の意見に反論した。
「証拠などありません。でも、プリュトン王子殿下がエンデデアヴェルトを支配する理由などありません」
バランス隊長の言っていることは正常な見解といえる。時期国王となるプリュトンがエンデデアヴェルトを支配する意味はない。
「リーリエさん、バランス隊長はそのように申していますが反論の余地はありますか」
「私も証拠などありませんので、この議題を続ける意味はありません」
ゲームの知識と言っても誰も信じないだろう。
「わかりました。プリュトン王子殿下が傀儡されているのか、自身の判断で行動しているのかはとりあえず保留としておきます。では、リーリエさんの主張の続きをお願いします」
「まず、私の考えの前提としてプリュトン王子殿下が傀儡されていないことにしますことをご理解してください」
「わかりました。続けてください」
「プリュトン王子殿下の闇魔法はヘスリッヒの闇魔法よりも数段格上になります」
これも証拠はないがゲームではそうなっているので間違いないだろう。
「もし、傀儡兵を退けてプリュトン王子殿下の元へストロフィナッチョ兄妹が辿り着いたとしても勝機は薄いと思います」
ゲームでは私と4人のハーレムパーティー、もしくはローゼと4人のハーレムパーティーでプリュトンと対峙することになる。プリュトンの得意技は【誰でも傀儡】で、パーティー全体を傀儡化することができる。すなわち一定時間混乱状態へ陥ることになるので非常に厄介な攻撃だ。ローゼがいれば【誰でも傀儡】を無効にできるのでそれほど苦戦することなく勝つことはできる。このゲームでの状況を考えるとストロフィナッチョ兄妹は混乱状態に陥り兄妹同士の殺し合いになるだろう。
「俺たちがプリュトン王子殿下に勝てない理由をきちんと説明してくれ」
冷徹な目でソレイユが私を見る。微かに冷気を感じるので、怒りを完全には抑えることができないのであろう。
「リーリエさん、私たちはプリュトン王子殿下の力量を把握していますので、負ける未来などありえません。私たちがなぜ負けるのかきちんと説明してください」
リュンヌはソレイユと違って態度や声質に変化はないが、プリュトンに負けるという私の想定は受け入れることが出来ないようだ。
「お2人は闇魔法のことをあまり詳しくないと思われます。私はヘスリッヒやフラムと対峙して闇魔法の恐ろしさを痛感しました。しかし、ローゼの光魔法によって、ヘスリッヒとフラムを撃退することができたのです。現在のプリュトン王子殿下の力量はお2人が知っているプリュトン王子殿下と一緒にしてはいけません。そのことはバランス隊長にも当てはまるでしょう。闇魔法を手にしていないプリュトン王子殿下であればストロフィナッチョ兄妹にお任せしても問題はありませんでした。過去と今では現状が大きく変化したのです。そのことをご理解してください」
「……わかりました。リーリエさんの説明を完全に納得する事はできませんが、リーリエさんならどのようにして闇魔法を使うプリュトン王子殿下を倒すおつもりでしょうか」
言葉には出さないがソレイユも完全には納得していない。私はストロフィナッチョ兄妹を納得させるための対案を示さなければならない。
「私たちだけでプリュトン王子殿下を倒します」
私の対案は簡単だ。大軍を率いるのではなくゲームのように少数精鋭のパーティーでプリュトンに挑むのである。