第66話 シェーンの思い
ゲームと同じならシェーンは私に興味を抱いているはずだ。シェーンは個性的な髪型と中性的な顔立ち、女性としては170㎝と高身長かつ巨乳なので男女問わずにファンが多い。ゲームでは第1剣術探求部の入部試験で出会うことになるが、私が料理研究部を立ち上げたことで、シェーンと出会うきっかけは無くなってしまった。
「あなたこそ私のことを知っていたのですね」
「努力の天才メッサー部長の妹さんを知らない騎士はいないはずよ」
シェーンやメーヴェは幼い頃から天才騎士として名を馳せていた。もちろん、ゲームでは私も2人を凌ぐ天才騎士として学院では誰も知らない者がいないほど特別的な存在であった。しかし、兄は違う。ゲームではクズキャラであり、リアルの世界でも天賦の才能を持って生まれたわけではない。だが、兄は努力を怠ることはしなかった。朝は誰よりも早く修練をして夜は最後の1人になるまで修練をした。そして今ではイケメン四天王と呼ばれるほどに外見も美しくなり、剣技も一流と呼ばれるほど磨き上げて、努力の天才と呼ばれるようになった。
「そうなのね。では、私は急いでいますので失礼するわ」
ゲームの仲間であるシェーンと出会えたことは、率直に嬉しいけれど今は出会いを喜んでいる場合ではない。すぐに次のカフェに向かわなければいけない。
「ちょっと待ってよ。忙しいところ申し訳ないけど一緒にお茶をしない。あなた方もこのカフェでお茶をするのが目的だったのでしょ」
シェーンが座っているテーブルは4名席であり席が3つ空いている。1席は上着が席にかけられているので、お連れの方はトイレにでも行っていると思われるので、2席空いていることになる。私は相席をするか確認するためにローゼの方を見ると、ローゼは口を尖らせて怒っているように感じた。
「ローゼ、どうする」
「……リーリエさんにお任せします」
私は初めてローゼの不機嫌な態度を見た気がする。しかし私は直ぐに不機嫌な理由に気付いた。それはローゼがトイレを我慢していると。私は他の客に聞こえないように耳打ちをする。
「ローゼ、トイレを我慢しているのね。相席するからすぐにトイレに行って来るのよ」
「……」
ローゼは一瞬キョトンとしたが、クスクスと笑い出した。
「お気遣いありがとうございます。それでは私はお花を摘みに行ってきます」
ローゼは普段通りの可愛い笑みを浮かべてトイレへ向かった。
「リーリエさん、席に座ってちょうだい」
「わかったわ」
空いている席は2つしかない。シェーンの隣か向かい側の席だ。今テーブルにはシェーン1人しかいないので、隣の席へ座るには気まずいので向かいの席に座る。
「そっちじゃないわ。リーリエさんの席は私の隣よ」
シェーンは、隣の空いている席をポンポンと叩いて合図を出す。
「……」
私は断ることも失礼に当たると思い無言で隣の席に座る。
「さて、邪魔者が居ない間に本題へ入るわ」
シェーンは獲物を狙うハンターのような鋭い目つきに変わり、私の顔を食い入るように見た。
「な……にか用があったの」
中性的な美しい顔が目の前に迫り私は動揺を隠せない。
「君が入学してからずっと陰から見ていたわ。闇に吸い込まれそうな漆黒の髪、情熱的な真っ赤な瞳、桃のような憂いあるピンクの唇、淡雪のような白い肌、君を作るすべての要素に俺は恋をしたの。俺と付き合ってくれ」
「……」
私はシェーンの告白に顔を真っ赤にして照れてしまうが、ゲームと同じなので覚悟はしていた。
「リーリエさんから離れてください」
突然、私とシェーンの間にローゼが割って入って来た。
「俺は真剣なんだ。邪魔をしないでくれ」
「ここはカフェです。みなさんの迷惑になりますので自己本位な行動は慎んでください」
ローゼとシェーンが軽い口論になりカフェの雰囲気はあわただしくなってきた。
「お客様、どうかなされましたか」
何かトラブルが発生したと感じた店員は慌ててやってきた。
「迷惑をおかけして申し訳ありません。すぐに店を出ますのでもう大丈夫です」
ローゼは私の手を引いてカフェから出て行った。
「助かったわローゼ」
ゲームではシェーンはしつこく私に求愛する面倒くさいキャラでもあるが、戦闘では一変して鉄壁の防御力を誇る頼もしいキャラでもあった。しかし、面倒くさいの方が勝ってしまうので、リアルで出会うことは避けていた面もあったけれど遂に出会ってしまったのである。
「あの方は一目見て怪しいと思ったのです。だからトイレに行くふりをして覗き見していたのです」
ローゼははじめからシェーンの下心には気付いていたのであろう。
「気を取り直して別のカフェに行きましょ」
シェーンは私に一方的に好意を寄せるだけで敵ではないので警戒は無用だ。今は気を取り直して次のカフェへ向かうことにした。