第63話 エンデデアヴェルトの真実
「君がリーリエなのか」
私と兄の話を聞いていたバランス隊長が声をかけてきた。
「そうです」
「ここにはヘスリッヒの悪だくみから王国を救った若者たちが揃っているのだな」
「私は何もしていません」
「謙虚な女性だな。君がメテオール副団長に警告をしていなければ王国魔法士団は全滅していたところだった」
「え!どういうことでしょうか」
「実はエンデデアヴェルトの制圧には失敗したのだ。君の警告通り終焉の魔女はエンデデアヴェルトにヘスリッヒの代役を用意していた。新たなエンデデアヴェルトの支配者の操る傀儡兵は、ヘスリッヒが操っていた傀儡兵とは完成度が違い、将棋の駒の如く完璧に統制され、王国魔法士団はエンデデアヴェルト内へ一歩も侵入できずに撤退を余儀なくされた」
やはり私の予想は当たっていた。
「メテオール副団長はご無事だったのでしょうか」
「……」
バランス隊長の顔つきが一変して痛恨の表情になる。
「メテオール副団長は犠牲者を1人でも少なくするために自らの身をエンデデアヴェルトに差し出したのだ」
「……人質になったのですね」
「そうだ。しかし、未だにエンデデアヴェルトから何も要求をしてこない。メテオール副団長が生きているのかさえわからないのだ」
「バランス隊長、新たな支配者とは誰なのでしょうか」
ゲームではヘスリッヒの王都進行を防いでエンデデアヴェルトは平和を取り戻す。しかし、リアルではヘスリッヒは死んだがエンデデアヴェルトに平和が訪れずに新たな支配者の手に落ちた。誰が支配者なのか私はゲームの知識で考えてみる。ゲームの進行から考えると次に私たちの前に立ちはだかるのはロベリアになる。だが、ロベリアに傀儡兵を統率する力はない。ヘスリッヒの亡き後傀儡兵を操作するには傀儡水晶という方法もあるが、傀儡水晶での操作は1人1体になるので大軍を操作するのは不可能である。
「それは重大な機密事項になっている」
「隠していてもいずれ公の元に晒されるはずです」
私は心当たりがある。ゲームにはない展開だが、ヘスリッヒの力を継承させることのできる創生の魔女ならば、自分が産み落とした魔女にヘスリッヒの力を与えることが可能なはずだ。
「君は誰だか知っているのか」
バランス隊長は焦って声を荒げてしまう。
「いえ、わかりません」
ここで名を明かしてもし間違っていれば私の身が危険になる。それだけ創生の魔女とその手下は特別な人物である。しかし、私の推測が当たっていればメテオール副団長は殺されてはいない。
「ふ、良い判断だ。堕落令嬢と名を馳せていたが、実際は頭の切れる才女だったのだな」
バランス隊長は私が知っているのに敢えて知らないふりをしていることを見抜いていた。
「リーリエ、どえらい話になっているが問題はないのか」
兄は困惑した表情で声を荒げるが、バランス隊長が国家機密を私たちに話したのは何か理由があるのだろう。
「フォルモーント王立学院の第1剣術探求部部長のメッサー、第1魔術研究部部長のイーリス、未来の聖女ローゼ、学院の入学前に特級騎士の称号を手にした天才騎士メーヴェ、そして3属性を賜り未来の聖騎士になる道を捨てた稀代の堕落令嬢リーリエ、君たちの噂はドナーから聞いていた。実際に君たちに会ってドナーの話に何1つも嘘がないことを理解した。そんな君たちだからこそ私は真実を伝えたのだ」
「バランス隊長、これは話だけで済むのでしょうか」
「そう焦るな。後でじっくり君たちのことを聞かせてくれ」
おそらくバランス隊長は敢えて私たちを巻き込むために国家機密事項を話したのであろう。ゲームと同様に私とローゼは王国に迫りくる危地へ立ち向かうお膳立てが揃って行くのであった。