第60話 魔獣との戦い
「リーリエさん、私たちも魔獣の退治をしましょう」
メーヴェはあっさりとモンプティラパンを倒したが油断はしてはいけない。もちろんそれは私に限定したことである。イーリスは兄と同様に試練の森の奥地まで到達しているのでレベルは20後半だと思われるし、ローゼは闇魔力に影響を受けた相手では無敵に近い力を有する。私がゲームと同じ力を有していればメーヴェ以上の力はあるので楽勝と言えるのだが、魔法を使えない私が魔獣を相手にどれだけの力を出せるのかは未知数であった。
「ローゼ、自分がどれだけの力があるのか試してみたいから1人で戦うわ」
自分の力量を知るのはとても大事なことである。私の実力は剣聖試験によって見習い騎士と判断された。それは騎士としては最低ランクの力しかないと言われたのと同じである。試練の森に来るハンターたちは、最低でも中級騎士の称号を有しているので、魔獣と戦わなくても力量は示されているのかもしれないが、私は実戦でどれだけ戦えるのか知りたいのであった。
「わかりましたリーリエさん。私たちはいつでも援護できるように後衛で見守っています」
ローゼの優しさは過保護の甘やかしではない。相手の気持ちを思いやる淑女の器を持ち合わせている。それはイーリスも同じである。私は2人の心強い味方に背中を預けることで、真摯に魔獣と対峙できるのであった。
私は辺りを見渡してモンプティラパンを見つけると帯刀していた剣を抜き正面から真向勝負を挑む。私に気付いたモンプティラパンはピョンピョンと自慢のジャンプ力で前後左右に移動して目標を定めさせない。ここでゲームの戦いの演出を私は思い出す。愛くるしくジャンプするモンプティラパンは、モニターの画面上では左右2回にジャンプした後で前後にジャンプを1回するのを繰り返す。私はゲームと同じ動きをするのかじっくりと見極める。すると多少軌道は異なるが動きはゲームと同様にパターン化されていることを確認できた。動きのパターンさえわかれば問題はない。呪いのブレスレットでステイタスは10分の1に下げられ、呪いのリングで魔法が使えない私だが、その環境には十分適応しているので何も恐れることはない。俊敏とは言えないが軽いフットワークでモンプティラパンの規則的な動きに合わせて、ジャンプの着地予想を見極めて剣を振りかざす。しかし、タイミングが合わずに私の剣は空を斬り、モンプティラパンは私をあざ笑うかのようにピョンピョンといつも以上に飛び跳ねる。
「リーリエさん、タイミングは合っています。もっと力を抜いてください」
ローゼは的確なアドバイスをする。私は初めての魔獣との戦いで気負ってしまい、体がガチガチに堅くなっていたのである。私はローゼのアドバイスを受けて、肩をぐるぐると回してから深呼吸をして心を落ち着かせる。
「リーリエさん、右です」
「了解よ」
私の動きが止まっていたので、ピョンピョンと前後左右に跳ねていたモンプティラパンは、チャンスと思い攻撃を仕掛けてきた。モンプティラパンは攻撃を避けることに特化した魔獣だが、たまにピョンピョンと跳ねながらカンフーキックで攻撃をしかけてくる。今まさに私の右方向からジャンプしてカンフーキックをくり出した。私は剣を地面に突き刺して前方にでんぐり返しをしてカンフーキックを避ける。
「メッサー様、手出しは無用です」
イーリスが大声で叫んだ。兄は私が緊張して動きが堅くなっているのに気づいて助太刀をしようと剣を抜いたがイーリスが止めに入った。
「どうしてだ」
「モンプティラパンの攻撃は殺傷能力を持ち合わせていません。ここは心を鬼にしてリーリエさんの成長を見届けるのです」
兄は手を震わせながら抜いた剣を鞘に納める。一方私はでんぐり返しをした勢いを利用して立ち上がりモンプティラパンの動向を伺う。モンプティラパンは剣を無くした私に対して臨戦体制に突入する。ピョンピョンと前に跳ねながらカンフーキックの連続蹴りで私を追い詰めようとする。しかしモンプティラパンは攻撃が苦手なので、蹴りの精度は非常に低く私はでんぐり返しを繰り返しながら円を描くように攻撃を避けて、突き刺した剣を抜き取ることに成功した。
「リーリエさん、逃げのパターンに入ります」
ローゼが大声で叫ぶ。カンフーキックの連続蹴りが攻撃パターンなら前後左右にジャンプするのが逃げのパターンである。逃げのパターンは理解しているが、前回はタイミングが合わずに剣は空を斬りことになったけど今回は外さない。私はモンプティラパンが左右に2回ジャンプしたのを確認すると、次のジャンプの軌道を予測して剣を振りかざす。
「リーリエ、よく頑張った」
今回は私の剣は見事にモンプティラパンに突き刺さり致命傷を負わせ、動きが止まったところをとどめを刺した。兄は私の勝利に喜んで走って近寄ってきて頭をナデナデしてくれた。私は優しくて暖かい兄の手で頭をナデナデされて嬉しかったが、最弱の魔獣を相手に苦戦したことで自分の弱さを改めて思い知らされたのであった。