第56話 明かされる真実
兄から遅れて15分後にはドナーと王国魔法士団の副団長メテオール・シュテルネンナハトが到着した。メテオールはフォルモーント王国の第2王子であり、ローゼのハーレムパーティーの1人でもある。
※メテオール・シュテルネンナハト 18歳 男性 身長181㎝ エメラルドグリーンの長髪 銀色の細い瞳 細身の体系 筋肉贅肉がほとんどなく華奢な体つきをしている。
「メテオール副団長、エンデデアヴェルトの首謀者と思われるヘスリッヒは既に白骨化して死亡しています」
私たちは兄から王国魔法士団の副団長メテオールが来るまで占い館【フルーフ】で待機するよう指示を受けていた。
「そうか……。エンデデアヴェルトの詳細を確認したかったのだが致しかたあるまい。では、ここで何が起きたのか説明してもらおう」
メテオールの小鳥のさえずりのような心地よい甘美な声は、聴く者の心を落ち着かせる魅惑的な力を持つ。これはメテオールの火水の2属性を進化させて得た応援属性である。メテオールが自然と行う行動や発する言動により味方のステイタスと自分のステイタスを向上させるバフに特化したスキルといえる。メテオールの心地よい声は私たちの心の不安を安定させる効果を発揮した。
私たちはメテオールにこの場で起きた全てのことを説明した。
「やはり終わりの森に閉じ込められている終焉の魔女の関係しているのだな……」
「メテオール副団長、終焉の魔女とはいったい何者なのでしょうか」
「終焉の魔女とは太古の昔に終わりの森に封印された稀代の悪女だと聞いている。終焉の魔女は終わりの森からは一歩も出ることが出来ずに数百年の時も生きながらえている不死の化け物とも揶揄されている。終わりの森は終焉の魔女からにじみ出る闇の魔力の影響で、動物は凶暴化巨大化肥大化して魔獣と呼ばれる生き物に変貌して、たびたび近隣の町や村が襲われることも多いのだ。しかし、終焉の魔女自体は終わりの森でひっそりと暮らしていて、直接的に害をなさないとされていた」
「今まで終わりの森でおとなしくしていた終焉の魔女がどうしてこのような計画を立てたのでしょうか」
終焉の魔女は数百年も終わりの森で監禁状態である。なぜ、いまさら手下を作って王都を攻めようと思ったのであろうか。ゲームの知識がある私はそれを知っている。それは、嫉妬や恨み、支配や復讐などではなく対価である。終焉の魔女から闇の因子を授かった者は、対価を払う必要があり、ヘスリッヒは美しい姿を対価として支払ったが、それではまだ等価交換とは言えない。終焉の魔女から闇の因子を授かった魔女たちは、自分の大事なモノと歴史に残る大罪を犯さなけれはならない。その大罪とは国王殺しの大罪である。しかし、この大罪は無理強いされているわけではない。闇の因子を授かった魔女たちは闇の魔力が体に染まると支配力が爆増するのである。闇の魔力は人間の欲望を活性化させる効果があるのだ。だが、私はこの事実を話せずにいた。話しても誰も信じないだろうし、なぜ知っていると聞かれても答えようがないからだ。
「終焉の魔女は自分を封印したこの王国に恨みを持っているのだろう。今までは誰も終わりの森に侵入しなかったのでこのような事態にならなかったはずた。しかし20年前、ロベリアという泥棒猫がレーヴェ国王陛下への誘惑に失敗し、終わりの森に逃げて終焉の魔女から力を授かったと聞いている。いずれ王国に仇をなすだろうと危険視されていたが、現実の元となったのだ。ヘスリッヒはロベリアの夫と聞いてるから、それで全て辻褄が合うだろう」
メテオールの話す衝撃の事実にみんなが驚愕した。その中でも一番驚いているのは私である。それはゲームでの事実とは異なる内容だったからだ。しかしこの話をメテオールが話しているのである憶測が成り立つ。おそらくこの話の出どころは王妃もしくは元宰相であり王妃の父親でもあり現在では国王の相談役として国王よりも権力をもつザータンであると思われる。自分たちの都合の悪いことは全てロベリアに押し付けたのであろう。
「リーリエが話していたロベリアが、夫のヘスリッヒを利用して、終焉の魔女の復讐に加担したのか」
兄は全ての真実を知ったと勘違いして驚愕する。
「ヘスリッヒが死んだことで全てが終わったわけではないだろう。聖女の香で傀儡兵となった王都民やエンデデアヴェルトの民の傀儡化は徐々に効果が薄れるだろうが、解呪する必要はある。解呪をローゼ嬢1人にお願いするのは大変なことだ。王国中の準聖女を集めて解呪をおこなうことにしよう」
メテオールの判断は正しい。聖女の香ストロングの効果が薄れた傀儡兵なら光もどき魔法でも解呪は可能だ。しかしここで問題なのは聖女の香ストロングは本当に供給体制が絶たれたのかということである。
「メテオール副団長、ありがとうございます。これで王都は平和を取り戻すことでしょう」
兄は安堵の笑みを浮かべるが、私の不安材料を理解しているローゼとイーリスは素直に安堵する気持ちにわなれない。
「みんな浮かない顔をしてどうしたのだ?フラムのことは気になるが大きな危機から脱出したのだぞ」
私たちの不安げな顔を見たドナーは様子を伺うように声をかける。
「今までリーリエさんの情報をもとに全て上手くことを成すことができました。しかし、そのリーリエさんが不安をぬぐい切れずにいるのです」
「リーリエ嬢、それは本当なのか」
ドナーの安堵の表情は消え顔に雲がかかる。
「はい。エンデデアヴェルトの反乱は簡単に終わらないと思います。終焉の魔女はヘスリッヒの代役を用意している可能性があると思います」
ゲームとは違う展開なので確固たる証拠はない。しかし、私のこの推測は少なからず的中するのであった。