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第55話 次なる刺客


 「なんてことなの……」



 イーリスは骨となったヘスリッヒを見て憐れみを抱く。



 「これが終焉の魔女を裏切った者への制裁処置だと思います。私たちの助言を素直に受け入れておけば命だけは助かったのかもしれないのに……」



 ゲームと違いリアルの死に直面した私は体が震えていた。



 「リーリエさん、イーリスさん、これはヘスリッヒさんが選んだ人生の結末です。闇魔法を手にすると言うことは、真っ当な人生を歩む権利を捨てたということになります。このまま生きて拘束されて拷問を受けるよりもこの場で死ぬことを選んだのかもしれません」



 ローゼは敢えてキツイ言い方をしてヘスリッヒを批評したのは、私たちに罪悪感を抱かせないための優しさであった。もちろん、ローゼの言っていることは的を得ているのかもしれない。ヘスリッヒがしようとしたことは国家転覆を企む国家反逆罪である。生きて王城に連行されても待っているのは拷問によるきつい取り調べだ。結局ここで死ぬか王城で死ぬかの違いに過ぎなかったのかもしれない。



 「そうね。それにヘスリッヒが死んだからといって全てが解決したわけではないわ」

 「リーリエさん、どういうことかしら」


 「ヘスリッヒが王都に居るということは、エンデデアヴェルトは誰が支配しているの?」

 「それは傀儡兵の部下が留守を任されていると思います。しかしヘスリッヒが死んだことにより傀儡の香の供給が止まるので、次第に傀儡の効果が薄れて、いずれエンデデアヴェルトも平和を取り戻すと思います」



 聖女の香すなわち傀儡の香の虜になった人間は、ヘスリッヒの命令もしくは傀儡水晶での命令に従う操り人形となる。しかし、ヘスリッヒ1人で全ての傀儡兵に命令を出すのは不可能なので、傀儡毒水晶によって強化されたスーパー傀儡兵がヘスリッヒの代わりに指令をおくることになる。これはねずみ講というヘスリッヒの闇魔法スキルである。このネズミ講スキルによって、ヘスリッヒは1人でエンデデアヴェルトと王都にいるすべての傀儡兵を自由に扱えるのであった。ヘスリッヒが死んだことによりネズミ講スキルの効果が消えるので、イーリスの言っていることは正しいことになるのだが、私はどうしても不安が拭いきれない。



 「私もイーリスさんの言っていることは正しいと思います。しかし、わざわざ安全なエンデデアヴェルトを離れて傀儡兵の少ない王都に潜伏していることに合点がいかないのです。ヘスリッヒはとても傲慢で怠惰な性格ですが臆病で卑怯者です。安全な場所を離れて敵地に自分から侵入するのは不可解です」

 「リーリエさん、ヘスリッヒさんは終焉の魔女に命令されて私とイーリスさんを亡き者にするのが目的だと言っていました。ヘスリッヒさんは終焉の魔女に逆らうことができなかったからだと思います」


 「たしかにヘスリッヒはそのように言っていたわ。それならなおさらエンデデアヴェルトを傀儡兵に任せるのはおかしいと思うのよ。終焉の魔女はヘスリッヒを使ってエンデデアヴェルトを支配した。その次の布石が王都で傀儡兵を増やしつつローゼとイーリスさんを殺すことだったはずよ。でも、その間にエンデデアヴェルトが陥落すれば身も蓋もないはずなの。終焉の魔女はヘスリッヒを王都へ向かわせて、別の誰かにエンデデアヴェルトを任せた気がするのよ」



 ゲームでは怪しい宗教がエンデデアヴェルトで布教されているという噂程度の情報だったので、国王陛下はエンデデアヴェルトにそれほど注視していなかった。そのため、突如現われたエンデデアヴェルトの傀儡兵と王都に潜伏していた傀儡兵によって王都は陥落する。これは不意を突かれたからこそ達成したバットエンディングである。しかし、リアルではエンデデアヴェルトは危険な状態だと判断して、情報規制をしながら内密に準備をしていると思われる。王国は万全の体制でエンデデアヴェルトを迎え撃つ準備をしているので、ゲームと状況はかなり異なっている。そのことを鑑みると、ヘスリッヒが死んだことで一安心するのは危険だ。



 「リーリエさんが不安を抱いているのは理解しました。それならば早急にドナーさんに報告して対処してもらいましょう」

 「私もそのように思います」

 「わかったわ。どうせ現状を報告しなければいけないので、私の感じる嫌な予感も報告するわ」



 ヘスリッヒが死んだからといって平穏が訪れるわけではない。ヘスリッヒはゲームでは序盤の中ボス程度の扱いである。今もなお終焉の魔女の手下の魔女が王都を陥落させるための準備を着々と進めているはず。ゲームの順番では次はロベリアの番になるのだが行方はわからない。



 「リーリエ、大丈夫か」



 兄が息を切らしながら泣きそうな顔をして占い館【フルーフ】に入って来た。



 「お兄様、もう戻られたのですか」

 「はぁ~、はぁ~」



 兄は両手を地面に付け、額からは多量の汗が流れ落ちる。兄は私のことが心配でヘスリッヒのことを報告すると王城から駆け足で戻って来た。



 「メッサー様、落ち着いて深呼吸をしてください。私が回復魔法をおかけします」



 ローゼは兄の背中をゆっくりと撫でながら回復魔法をかけた。すると兄は疲労を回復して血相のよい面構えになる。



 「ありがとう、ローゼ嬢」



 兄は柔らかい笑みを浮かべてローゼに感謝を述べる。



 「当然のことをしたまでです。王城への報告お疲れさまでした」



 ローゼの優しくて眩しい笑みを見た兄の顔は少し赤く染まっていたかのように見えた。


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