第54話 ヘスリッヒの運命
私とローゼは急いで階段を駆け上がる。
「イーリスさん、大丈夫ですか!」
イーリスは床に尻もちをつき顔面蒼白で怯えていた。しかし、全身を見渡してもケガをした様子もないので私はほっと胸をなでおろす。
「驚かせてごめんなさい。いきなり歪な姿勢のフラムが現れたのでビックリしたのです」
ブリッジしたまま全力で移動する姿を見れば驚くのも無理はないだろう。
「あの姿を見れば誰でも驚くのは当然です。それよりも無事で何よりです」
「ありがとう、リーリエさん。フラムの浄化には失敗したようですね」
「申し訳ありません。私の力不足でした」
ローゼは頭を下げて謝る。
「ローゼさんは何も悪くはありません。私の指導不足だったのです」
「2人共自分を責める必要などありませんわ。フラムの浄化には失敗しましたが、次に頑張れば良いのです」
私は2人を励ますように元気よく声をかけるが、ゲームにはないフラムの状況に不安を抱いていた。
「ブヒブヒ、ブヒブヒ、とても爽快ブヒ。フラムは終焉の魔女様がお作りになった闇魔法具によってパーフェクト傀儡兵になったブヒ。不完全なお前では浄化できないブヒ」
ヘスリッヒは解説者のようにフラムのことを説明してくれた。ヘスリッヒが作った闇魔法具より強力で高度な闇の魔力で作られた闇魔法具だったので、浄化出来なかったと判断して良いだろう。しかし、先ほど見せたローゼの究極の光魔法なら浄化は可能なはずだ。今後はローゼの恋愛値を上げることに専念した方が良いのだろう。
「イーリスさん、地下にはフラム以外にも多くの人が水晶に閉じ込められています。恐らくですが、聖女の香によって傀儡された者よりも強大な力を得た傀儡兵に成長させられていると思います。現段階ではフラムを追っても浄化できませんので、水晶に閉じ込められている人たちの浄化を優先しましょう」
「わかりました。ローゼさん、浄化をお願いします」
「はい」
私とローゼは地下室に戻って浄化した。そして、浄化された人たちに事情を説明していると赤い髪の綺麗な女性がいる事に気付いた。
「すみません。もしかして、あなたはメアリーのお母さんでしょうか」
「……メアリーをご存じなのですか」
「はい。毎日孤児院を抜け出してお母さんを探してるそうです」
「メアリー……心配をかけてごめんね」
赤髪の女性は涙を浮かべて両手で顔を覆った。メアリーの母親はヘスリッヒの手によって水晶に閉じ込められていた。
「無事で良かったです。失礼ですがお父さんはここにはいないのでしょうか?」
母親は辺りを見渡す。
「夫の姿は見当たりません」
「そうですか……。でもあなただけでも無事で良かったです」
父親は伝令係としてエンデデアヴェルトに行ったのだろう。メアリーの母親は気を取り直して孤児院へ向かった。
「これで全員無事に家に帰宅しました。後はヘスリッヒを衛兵に付き出しましょう」
「俺も帰宅させろブヒ」
イーリスはヘスリッヒが逃げ出さないように両手両足を縄で縛って拘束していた。
「あなたにはまだまだ聞きたいことがあるのです」
ヘスリッヒには王都転覆を計画した終焉の魔女の動機とエンデデアベルトの状況を聞き出さなければならない。しかしゲームでは、ヘスリッヒが終焉の魔女のことを話そうとした途端に肉体がみるみるうちに老化して最後には骨だけになってしまう。
「イーリスさん、ヘスリッヒには終焉の魔女の呪いが施されている可能性がありますので、迂闊に終焉の魔女のことを話すことは出来ないはずです」
「そうでしたか……。終焉の魔女のことを聞き出せばフラムが逃げた場所もわかると思ったのですが残念です」
イーリスはヘスリッヒを問いただすのを諦めた。
「終焉の魔女のことを話せば助けてくれるブヒ」
ヘスリッヒは藁をもつかむ思いで訴える。
「ヘスリッヒさん、私たちの話を聞いていたのですね。それなら終焉の魔女のことを話さないほうがよろしいでしょう」
イーリスは悪党のヘスリッヒにさえ情けをかける。
「アイツは俺を助けてくれなかったブヒ。そんな薄情なヤツのことなら何でも話すブヒ。アイツの何が知りたいブヒ」
ヘスリッヒはニタニタとゲスい笑みを浮かべる。
「私は無駄に人を殺めたくありません。たとえそれがあなたのような極悪人でもです。だから、おとなしく口を閉じてください」
イーリスは自分の信じる正義を貫く。
「問題ないブヒ。アイツは終わりの森の…………ブヒ……ブブヒヒヒヒ」
ヘスリッヒが終焉の魔女のことを話し出した途端に歯を食いしばって苦しそうにうめき声をあげる。
「ブブブブ……」
ヘスリッヒの体は徐々に水分が抜かれたかのようにしわしわになり、次第にしわしわの皮膚は干からびて灰に変わり最後には骨だけになってしまった。