第51話 ヘスリッヒの過去パート2
ロベリアは、不自由な目とレーヴェの気配をもとに駆け足でレーヴェの元へ行き手を握る。レーヴェの暖かい温もりを感じ取ると安心して涙を流す。
「ロベリア、何があったのだ。護衛の衛兵はどうした」
涙を流し小刻みに震えているロベリアを見たレーヴェは声を荒げる。
「実は……」
「レーヴェ王子、私は道に迷っていたロベリア嬢にお声をかけただけです。レーヴェ王子のお知り合いであれば後はお任せします」
ヘスリッヒはロベリアの言葉をかき消すように言葉を被せる。そして、ロベリアが真実を話す前に逃げ出した。
「糞ったれ!どうしてレーヴェがいるのだ。俺の作戦は完璧だったはず……」
ヘスリッヒは魅了眼のスキルと甘いマスクを利用して全てが上手くいっていた。美男子は男女問わずに見惚れてしまう最強のスキルでもある。
「どうすれば良いのだ。レーヴェを魅了すれば良いのだが、アイツは国宝級の魔法具を装備しているはずだ」
ヘスリッヒはレーヴェ王子を魅了しようと試みたことがある。しかし、国宝級の魔法具を装備していたレーヴェ王子を魅了することはできなかった。ヘスリッヒは王城にある王国魔法士団の建物に戻ることが出来ず、自宅の屋敷に戻り絶望していた。
『ドンドン、ドンドン』
「旦那様、ザータン宰相が面会に来られています」
「今は誰にも会うつもりはない。とっとと追い返せ」
ヘスリッヒの額から滝のような汗が流れ落ちる。自宅に一国の宰相が訪れると言うことは、ロベリアの件で弾劾を受けることになると考えた。
「旦那様」
「うるさい!俺は誰にも会わないぞ」
ヘスリッヒは手で顔を覆い必死に言い訳を考える。
『ガチャ』
無慈悲にも扉は開く。
「ヘスリッヒ団長、もう逃げ場はありませんよ。レーヴェ王子は以前から、あなたのことを不審に思っていたのです。人づてだけの実績しかなく、実際に何かを成し遂げた成果を一度もみたことがないと怪しんでいたのです。しかし、ロベリア嬢の証言で全てを理解したそうです。もう……あなたは終わりです」
「違う……違う……あの女が言っていることは全てデタラメだ」
ヘスリッヒは狂ったかのように大声で否定する。
「あなたが何を言っても無駄です。すぐに準聖女に依頼してあなたを支持する者が魅了されていないか調べさせてもらいます」
「……」
ヘスリッヒは定期的に部下や女性に魅了をかけている。目を見るだけで魅了できるので今までバレなかった。
「もちろん、私も魅了の対策をしてこちらへ来ているので無駄ですよ」
「……」
もう、全てが終わったとヘスリッヒは思った。
「あなたはもう終わりです。手にした全てを失うのです……このままでは……」
ザータン宰相は不敵な笑みを浮かべながらヘスリッヒに近寄る。
「このままとはどういうことだ」
ヘスリッヒは直ぐに感づいた。ザータン宰相は自分を助ける術を持っていると。
「あなたには2つの選択肢が用意されています。1つはこのまま罪を受け入れて死ぬことです。もう1つは終わりの森の住人終焉の魔女様の手下になることです」
ヘスリッヒには選択権はない。生きるならば終焉の魔女の手下になるしかないのだから。
「わかった。俺は終焉の魔女の手下になる」
こうして、ヘスリッヒは生まれ持って与えられた美しい顔と肉体を代償にして、闇魔法を手にして終焉の魔女の手下になった。
誰もを魅了する美しいヘスリッヒの顔は、硫酸を浴びたような異形の顔と変貌し、高身長でスリムだった体系はブタのような大きな脂肪の塊になり、その体の皮膚は爛れて血管がむき出しになっていた。そして、ザータン宰相からは、絶対服従の証として語尾にブヒとつけるように命じられた。
「ローゼ、フラムの居場所はわかったわ。ヘスリッヒを浄化して闇魔法因子を消滅させて」
フラムの居場所を突き止めた私は、ローゼに光魔法で闇魔法士になったヘスリッヒを元の姿に戻すように指示を出す。
終焉の魔女から闇魔法因子を付与されて闇魔法使いになった相手を倒す方法は2つある。1つ目は光魔法による浄化である。聖女であるローゼにしかできない方法で、闇魔法因子を浄化すれば、闇魔法が使えなくなり闇魔法の効果も消滅する。ここで注意すべき点は、ヘスリッヒが作った闇魔法具の効果は消し去ることができないことだ。2つ目は聖剣スーパーノヴァで闇魔法因子を切り裂くことである。これは浄化とは違い、正確に闇魔法因子を斬らなければいけない。もしも私が聖騎士まで成長していれば、聖眼で闇魔法因子を見つけることができる。しかし、ゲームでは聖眼を持たずにヘスリッヒと対峙するのでかなりの苦戦を強いられる。
「やめるブヒ~。浄化だけはやめるブヒ~」
闇魔法因子によって闇魔法使いになった魔女には浄化以外の攻撃は通用しない。唯一の弱点である浄化を恐れるのは当然であった。




