第45話 呪いの解呪
「ローゼ!何でも聞いていいわよ」
ゲームと同様にローゼの恋愛ルートが突入した。その最初の相手が兄だったので喜びもひとしおである。ゲームの兄はシュバインと仲が良く、私への嫌がらせを生きがいとするクズキャラであったが、リアルでは剣に人生を捧げ、私を溺愛する尊敬できる立派な兄へと成長した。しかし、女性関係には疎くイケメン四天王と噂されているが、誰もが敬遠して寄って来ない寂しい立ち位置でもある。そんな兄にも春がきたのであった。
「実は昨日メッサー様から中庭で会いたいと呼び出されたのです」
「え!お兄様から呼び出されたの」
私の推察通り兄はローゼに恋をしていた。しかし、兄の方からローゼを口説くとは、兄もなかなかのプレイボーイだと感心した。
「そうです。その時に告白された内容が衝撃だったので、リーリエさんに相談をしようと思ったのです」
ローゼの顔は終始浮かない感じがする。あまり兄のことを好いてはいないのであろうかと私は心配する。
「ローゼの気持ちはどうなの」
私としてはローゼが兄と付き合ってくれるのは大賛成だ。ゲームでは兄とローゼが仲良くなる未来はないので、私が仲を紡ぐ役目を担う必要がある。
「信じられない気持ちでいっぱいです。でも私にできることがあればなんでも協力したいと思います」
ローゼの黄金の眼差しからは強い意志を感じる。兄の気持ちに戸惑いながらも、真剣に向き合う努力をしたいと言いたいのであろう。
「ローゼ、そんなにも気負う必要はないと思うわ。時間をかければなんとかなるはずよ」
焦る必要はないはずだ。まだ、兄の気持ちと向き合う勇気がないのなら、最初は友達として付き合っていけば良い。
「でも、悠長なことは言ってられないと聞いています」
「そうなの」
兄は意外とせっかちなのかもしれない。すぐにでもローゼとお付き合いしたい気持ちはわからなくもないが、ここは慎重にことを進めるべきだと兄に伝える必要がある。
「リーリエさん、メッサー様が言っていることは本当なのでしょうか?」
ローゼは覚悟を決めたように私の両手を握ってまっすぐな瞳で私を見る。兄の気持ちは聞いてはいないが、おそらくローゼに気があると私は思う。
「本当よ。だからお兄様のことを真剣に見てあげて欲しいの」
「え?メッサー様のことをですか」
ローゼは鳩が豆鉄砲を食ったような表情になる。
「え?お兄様から告白されたのでしょ」
「違います」
ローゼは顔を真っ赤にして両手で顔を隠した。
「え!違うの」
私は大きく口を開けて唖然とする。
「全然違います。私がメッサー様に相談されたのはリーリエさんのことです」
「私のこと?」
私は思い当たる節などない。
「そうです。リーリエさんが呪いにかかっているということは本当なのでしょうか」
「……」
私は脳天に雷が撃たれたかのうように衝撃がほとばしる。
「やっぱり本当だったのですね」
ローゼは私の表情を見て、兄の言っていることは間違っていないと確信を得る。
「……」
私はどのようにローゼに説明すべきか迷っている。
「どうして私を頼ってくれないのでしょうか?私はまだ聖女としては未熟ですが、リーリエさんの力になりたいのです」
「ごめんなさい。これは私の不注意が招いた事故なの。自分で解決しなければいけない問題だと思っていたの」
私はローゼに魔王退治の重責を押し付けた大罪人だ。そんな私がローゼに呪いの解除をお願いするのは非常に無責任だと考えていた。
「どのような理由で呪いにかかってしまったのかわかりませんが、人間は過ちを犯す生き物です。過去の過ちと心中するのはダメです」
可愛いローゼの顔が般若のような怒りの表情に変わる。しかし、黄金の瞳からは真珠のような涙が零れ落ちている。
「私はローゼが思っているような善人ではないの。世間で言われているように自己中心的でわがままな堕落令嬢なの」
「前にも言いましたが、私にとってのリーリエさんは優しく素敵な女性です。ちゃんと私と向き合ってください」
ローゼは私が何かを隠していると感じ取る。
「ローゼ……」
私は転生した事実をローゼに打ち明けるべきか迷っている。
「リーリエさん、言いたくないことを無理に言う必要などありません。私も無理強いなどしたくありません。でも、私にできることは何でも協力をします。私に呪いの解呪をさせてもらえないでしょうか」
「……ローゼ、呪いを解除して」
私は覚悟を決めた。
「わかりました」
ローゼは太陽のような明るい笑みを浮かべる。そして、両手を組んで光魔法を唱える。
「浄化の神ライニグング様、私にお力をお貸しください。黒き力によって自由と魔法を奪われた1人の少女に、清き力と光の力で闇を切り裂き、暗闇に支配された人生を眩耀に満ちた新たな人生へ導いてください」
「………………」
ローゼは光魔法を唱えたが何も起こらない。




